セバスチアン・ジャプリゾ著『シンデレラの罠』 アイデア突出型のミステリ

アイデアと雰囲気は素晴らしいですが、それ以上ではない作品のように思えました。

わたし、ミは、火事で大火傷を負い、顔を焼かれ皮膚移植をし一命をとりとめたが、一緒にいたドは焼死。火事の真相を知るのはわたしだけだというのに記憶を失ってしまった。わたしは本当に皆の言うように大金持ちの伯母から遺産を相続するというミなのか?死んだ娘がミで、わたしはドなのではないのか?わたしは探偵で犯人で被害者で証人なのだ。ミステリ史上燦然と輝く傑作。フランス推理小説大賞受賞作。

ミステリ史上に残る傑作だそうですが、アイデア勝負以上のものではないと思っております。謎は謎なのですが、その謎が魅力的かと言われると、どこまで問うても不確定な謎ばかり出てきて、フワフワとしてつかみどころがないですな。

アニメファン的に言えば、百合的な要素もあり、ヤンデレ的な要素もあり、なかなか面白いのですが、とにかく叙情的でどことなく掴みどころのない。

ミステリと叙情的の相性が、さほど良くないような気がしてしまうような作品でした。
ページをめくる手が意外と重いの。

とはいえ、筆者はあえて狙ってこの作品を読みづらくしているのかもしれません。

主人公は誰なのか

 わたしの名前はミシェル・イゾラ。
歳は二十歳。
わたしが語るのは、殺人事件の物語です。
わたしはその事件の探偵です。
そして証人です。
また被害者です。
さらには犯人です。
わたしは四人全部なのです。いったいわたしは何者でしょう?

このキラーフレーズにヤラれてしまう人も多いでしょう。
あたくしも大いにソソられました。しかし、それ以上ではなかった。

読みづらいのです。時代もちょろちょろ変われば、主語もちょろちょろ変わる。
「今どの状態の誰を読んでいるのか」分からないのです。

旧約の裏表紙

しかし、この作品の場合はそれが良いように作用していたりして。
つまり、読者も主人公と一緒に脳みそを揺れる体験をして、謎のドツボにハマっていく。
これはある意味、製作者側の作戦勝ちのような気がしますね。

とはいえ、宮部みゆきならもっと上手くやるぜ

ただ、ちょっとそのまどろっこしい部分が逆に物語をつまらなくさせているかなと思うところもあって。
日本の作家さんだったら、宮部みゆきさんとか湊かなえさんとかだったらもっとテンポよく、もっと興味深くこの話をアレンジできるような気すらします。

主人公が犯人でもあり、探偵でもあり、被害者でもあり、加害者でもある。

発想は良かったんですがね、それ以上のものではなかったですな。残念。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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