『ガダラの豚』 中島らもさんを初めて読んだ。

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浅学の至りですが、はじめて読みました。

まわりには”中島らも好き”を公言している人は多いのですが、実際に自分で読むのは初めて。
彼らからバロウズとヘロインと、まぁ、そのへんの話をやたらと聞かされて、逆に読まなくても良いような気がしていたのですが。
とりあえずお亡くなりになって久しくなったし、ここらで読もうかと。

読んだのは名作と名高い『ガダラの豚』。
ちょっとバブル時代の匂いのする、傑作冒険活劇でした。

『四畳半』の”ほんわか”じゃねぇか

この『ガダラの豚』に出てくる新興宗教。
これ、まさに『四畳半神話大系』に出てくる”ほんわか”そのまま。

fc2様より引用

ほんわかのほうが後出なので、ほんわかが『ガダラの豚』を参考にしているんだと思いますが、それにしてもよく出来てる。

「でもね、皆さん、考えてみてください。幸福というものは、新聞の勧誘やエホバの証人みたいに、訪れてくるもんじゃない」  また笑いが起こった。 「幸せというのは出ていってつかまえるものなんです。マンションのドアの外にしか幸福はない。そのかわり、出ていけば車にはねられる可能性もある。それでも、自分がなにもしないせいで確実に不幸になっていくより、可能性を求めるほうがいいじゃないですか。その積極性がどうしても持てなかったのが昨日までのあなた方なんだ」
at location 1149

いいですよね、俗っぽさに満ちたこのセリフ。

ある実習では、一人が円座の中に立たされる。しゃべることは許されない。囲んでいるまわりの人間は、立っている人物の外見から受ける印象を何でもいいから述べねばならない。たいていは自然と悪口になる。 「目つきがきつい」 「人の陰口を言うのが好きそう」 「ケチ」 「自分のことしか考えていない」 「欲求不満」 「弱い者いじめをする」 「いいカッコをしたがる」 「すましているけど、男が好き」  言われている人間は、全身がワナワナふるえてくるが、反論は禁じられている。  これを何度も何度も順番がまわってくるまでやらされるのである。おしまいには、言う方も言われる方も、倒れ込みたいほどに疲れて、もうどうでもよくなってくる。怒る元気さえなくなった頃に、ある種の「さわやかさ」を感じるようになる。粉々に打ち砕かれたプライドや見栄の中から、ほんとうの自分の姿がたち現われてくる。自分の今までの偽装とそれに対するこだわりはいったい何だったのか。同時に全員が気づくのだが、投げつけられたけなし言葉、そのことごとくすべてが実際当を得ていたのである。
at location 2191

この、”自我を一旦徹底的に壊す”というアプローチ。それから

 逸美は、自分があれほど激しい感情の嵐に襲われたことに心底驚いていた。自分のことで泣くなんて。しかも母親に向かって、幼児そのままの心で許しを乞うて泣くとは。  そして特筆すべきことは、その直後に全員の心に起こったカタルシスの強烈さだった。  さっぱりとした信者たちの顔を見渡して、福田導心は笑った。 「皆さん、いま、とても気持ちがいいでしょう。便秘がなおったあとみたいにね」  笑い声が起こった。 「体に便秘があるように、魂にも便秘があるのです。〝気詰まり〟ということでしょう。人間の生まれて初めての気詰まりは、親との確執から始まります。それは何十年と積もり積もって、皆さんの性格をねじ曲げ、汚物となって魂の通路をふさいでおるのです。いま、皆さんは過去の愛憎を捨て、無辜の童心に帰ってひたすら詫びることで積年の汚物を一掃したわけであります。それは魂の広大な建物の中にあってはほんのひとつの通路にしかすぎません。しかしそれでも、この開かれた通路に聖気が通ればこれだけの喜びがある。すべての通路が開かれて、すずやかなる宇宙と合一するときの喜びを、この体験から少しでも推し測ってみてください。心玉尊師のみ教えにしたがっておれば、その尊い瞬間へもそう遠い道のりではありません。よろしいですね」
at location 2237

この、その場で全員で同じ価値観を構築するという方法。
どれもマインドコントロールの常套手段です。

よく出来ていますよねぇ。感心しかない。

この組織に、アル中の教授がどう立ち向かうのか。
第一巻は実はものすごく面白い冒険劇だったのです。

この物語、失った夫婦の再生の物語でもあり、アル中教授の更生の物語でもあり、かつ、人間性についての考察でもあり、それでいて個人的な復讐の物語でもあるのです。
これらの総合がこの本のエンターテイメント性をうなぎのように高めているのですよ。

あくまで最終的に個人的な要素が入っているのがいい。
個人的な感情抜きで動く人にゃ、感情移入しにくいですからね。

全三巻。
いつか読みたいですね。

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都内在住のおじさん。 2児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』
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