『涙香迷宮』 評価が分かれるのも無理はない

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あたくしは好意的に読めましたけどね。

明治の傑物・黒岩涙香が残した最高難度の暗号に挑むのは、IQ208の天才囲碁棋士・牧場智久! これぞ暗号ミステリの最高峰! いろは四十八文字を一度ずつ、すべて使って作るという、日本語の技巧と遊戯性をとことん極めた「いろは歌」四十八首が挑戦状。そこに仕掛けられた空前絶後の大暗号を解読するとき、天才しかなし得ない「日本語」の奇蹟が現れる。日本語の豊かさと深さをあらためて知る「言葉のミステリー」です。「このミステリーがすごい!2017」第1位!

『夜は短し歩けよ乙女』でも言及されていた黒岩涙香にまつわるフィクション。
とにかく技巧と超絶頭脳が散りばめられた作品で、これを嫌味に受け取る人がいるのも無理はないですな。

むしろあたくしのように、ミステリに対してヌルい思い入れしかない人の方が面白く読めるのかもしれません。解読させるつもりなどまるでないトリックの数々は、「本格」ファンにとってはルール違反と受け取られても仕方がない。

ただ、このトリックやいろは歌を、すごくないという人はいないでしょう。とにかく言葉遊びもここまでくると異常です。「戯言」とかいうレベルじゃない。その逐一「シャレ」のレベルじゃない、というのがこの黒岩涙香という人の面白さの一つでしょうな。

都々逸の創始者として知られる初代都々逸坊扇歌の生誕の地が常陸国の水戸領磯部村、現在の常陸太田市磯部町なんです」
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「そういえば、本家のいろは自体が暗号仕立てになっているという話があるじゃないですか」  家田がそんな話題を持ち出した。 「ああ。いろはを七文字ずつ分かち書きすれば、行の最後に『とかなくてしす』つまり『科なくて死す』という遺恨の言葉が浮かびあがるというやつだね。それをもって、いろはの作者を源高明としたり柿本人麻呂としたりと諸説紛々だが」  麻生に続いて永田も、 「浄瑠璃の『仮名手本忠臣蔵』のタイトルも単に四十七士をいろは四十七文字に準えただけでなく、『科なくて死す』も踏まえて名づけられたというから、この暗号説自体、古くから人口に膾炙していたようですね」
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忠臣蔵に都々逸。落語ファンにとってもためになる話。
よくこれだけの知識を動員して物語を面白く作ることが出来るなぁと感服するのみ。

未解決のアノ話

作品の中で最後まで説かれない謎が一つあって、このクイズなんですけど

開戦論への涙香の方向転換に憤慨し、論客三人は『萬朝報』の退社を決意。そしてその夜──苦々しい顔の幸徳秋水がノックもせずに社長室に踏みこみ、涙香の前に退社届を叩きつけました。その書状と相手の顔をまじまじと見較べる涙香。かまわず秋水は部屋を出て行くのですが、この間、二人とも全くの無言でした。そして誰もいない編集室に戻った秋水が荷物の整理をしていたところ、涙香がそっと編集室に忍びこんできました。そしていきなり秋水の背後に組みつき、鋭い匕首を咽元に突きつけたのです。はっと驚き、身を固める秋水。すると涙香は手を放し、少しさがってふてぶてしい笑みを浮かべながら、『これが僕からの餞別だ』と言いました。するとしばらく眼をパチクリさせていた秋水は『有難うございます』と深く頭をさげ、荷物を手に社から晴ばれとした顔で去っていきました。さて、この二人のやりとりは何だったのでしょう」
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何なんでしょうね。
あたくしの如き凡人には

匕首 ← 懐刀
喉元 ← 首、つまりfireクビにする

つまり「自分の懐刀をクビにする」という洒落くらいにしか思い浮かばないのだけども。ネットで調べても膝を打つような回答はなかったですな。何なんでしょ。

乞う正解。

まとめ

天才による天才のための天才的トリックを、これまた天才が解くという、まぁ、なんというか、超サイヤ人同士の戦い的なインフレ感がすごいですが、素直に感服出来る人にはおすすめかと。

『明治バベルの塔』も未読なので、読まなきゃ。また課題図書が増えた。

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都内在住のおじさん。 2児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』
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