古典落語『寿限無』を考えてみる 其の壱

落語といえば『寿限無』というくらいに…

メジャーな作品です。
しっかりと自分の口から語れるようになりたいです。

原文を考えてみる

いろんな方が演られているので、それこそいろんな型がありますが、三遊亭円楽師匠のものをベースに、叩き台を打ってみました。

昔から、
『かくばかり いつわり多き 世の中に 子の可愛さは 誠なりけり』
なんて申しまして。子どもてぇのは本当に可愛いですな。
子どもを可愛いと思うのはいつの世も同じなようでして…

「元気な子が生まれてよかったな。どうでえ,小せえくせに手の指も足の指も,ちゃんと五本ずつそろってやがらぁ。生意気に」
「生意気じゃないよ。当たり前じゃないのさあ」
「あらッ。おい,おっかあ,動いたぜ」
「そりゃあ動くわよぉ」
「けど,どうしてこう赤い顔をしてるんだろうなァ。めでてェからって,一ぱい呑んで来たのかしら」
「ばかなことをおいいでないよ。赤いから赤ん坊っていうんだよ」
「なるほど,ちげえねえ。それにしても,おっかぁばかりに愛想しやがって,ちょっとくらい俺にも挨拶がありそうなもんじゃねえか。“おとっつぁん,こんにちは。末永くよろしくお願ぇ申します”とか何とか」
「あきれたねえ。まだ生まれたばかりだよ」
「そうだなぁ。で、こいつはいつになったら歩くんだ」
「そんなすぐ歩いたら化け物だよ。じゃあ,そろそろこの子にお乳をやるかね」
「なんでぇ、お前ばっかり何かやってら。俺のすることがねえじゃねえか」
「それが,お前さんじゃなきゃいけないことがあるよ。今日はこの子のお七夜だよ」
「おい、そりゃあいけねぇよ。いくらうちが貧乏でも、産まれたばかりのガキを質に入れるなんざ…」
「質じゃないよ。赤ん坊を質屋に連れて行く人もないもんだよ。生まれて七日目だからお七夜じゃないかさ」
「ああ,初七日か」
「それは亡くなって七日目だろ、もう。今日はこの子に名前もつけないといけない日だよぉ」
「そうか,名前か。」
「そうさね。うんといい名をつけておくれ」
「男だから強い名前じゃないとな。龍とか虎とか」
「それもいいけど,ありきたりだねえ」
「じゃあ,象とかヤマタノオロチとか」
「もう少し人間らしくしておくれよ」
「龍馬とか清正公(せいしょこ)とか」
「英雄になっちゃったね」
「ちぇッ。人のあげ足ばかりとってやがら。お前はどんな名前がいいんだよ」
「あたしは,いい男になってもらうように,華やかな名前がいいねえ。海老蔵とか幸四郎とか」
「役者じゃねえか。なにかいい名前の出物はねえかなあ」
「どうだい,檀家で名前をつけてもらうと長生きするっていうよ。お寺へ行って,お坊さんに考えてもらったら」
「ふざけるない。寺の坊主は長生きする者はお客にならねえからって,ろくな名前をつけるもんか」
「そうでないさ。凶は吉にかえるっていうよ。あべこべでいいんじゃないかね」
「そうかい、まぁ、こういうのはお前の方が大体正しいからなぁ。じゃあ,行ってきようか……ええと。お,ここだ。ごめんよォ」
「これはこれは。たいそうお早いご仏参で」
「墓参りじゃねえんですよ和尚さん」
「ああさようですか。なにか改まったご用でも」
「いえェ,このたびはおめでとうございます。」
「なんです?」
「いや、ガキが産まれましてね」
「なに,ご家内が安産なすったか」
「アンザン?まぁ、あいつでも二桁くらいなら何とか。」
「その暗算ではないよ。とにかく、おめでとうございます」
「ええ、どうも。んで、今日は七夜で名前をつけるんだがね。かかあの言うには,寺の坊主にでもつけてもらおうと」
「ははは,これは愚僧,たいそうなお見立てにあずかりましたな。委細承知しました」
「頼んます。いつまでも死なねえ証文つきの名前を見つくろってくださいな」
「証文といいますが,生あるものは必ず死ぬ。これを仏説では“生者必滅会者定離”と申します。なれど親の情として子の長寿を祈るというは無理からぬこと。どうです,鶴は千年といってめでたいが,鶴太郎とか鶴之助というのは」
「何だかツルツルってハゲそうだなぁ。それに千年じゃあ,千年たったら死んじまうからなァ。もっと長いのはありませんか」
「千年じゃ不足かな。では亀は万年というから亀の字を取ってみましょうか」
「亀はだめだ。あいつら、頭をちょいと触ると首を引っ込めちまう。打たれ弱くっていけねぇ」
「そうですかな。まぁ、あなたがお嫌なら仕方ない。では,松はいかがですかな」
「松はいかねえ。おらぁ、待つのは大嫌いだ」
「竹はどうです」
「たけの子は頭を出すと,みんな食べられちまいますからね。」
「うーん、松竹梅といって、梅も縁起がいいとされる」
「いけない,いけない。産めだの何だのって、女に命令する男は嫌われる世の中ですよ。政治家だって失脚しちゃう」
「そういちいち理屈をつけられては困りますな。では,経文の中には有難い言葉がたくさんあるが,お経から探してみますかな」
「お経でも何でも,長生きしてくれればいいよ」
「無量寿経(むりょうじゅきょう)という経文がある。この中にある言葉で寿限無というのはどうじゃな」
「何です。そのジュゲムってのは」
「寿(よわい)限り無しと書いて寿限無。つまり死ぬことがないという意味です」
「それそれ。そういうのがいいんだ。それを一つ。他にもありますか」
「長い経典ですから,いくらでもあります。五劫の摺り切れというのはどうじゃ」
「なんすかその、ごぼうのお浸しってぇのは」
「五劫の擦り切れじゃ。三千年に一度ずつ,天人が下界へ来て衣で岩をなでる。それで岩が擦り切れてなくなってしまったら,これが一劫。それが五劫というから億万年にもなります」
「しめしめ,それもいいね。まだありますか」
「海砂利水魚というのはいかがですかな」
「なんですえ。それは」
「海砂利は海の砂利だ。水魚は水に棲む魚。とてもとても獲り尽くせないのでめでたいな」
「なるほど海砂利水魚はいいね。他には」
「水行末,雲行末,風来末などというのがある」
「なんのこってす」
「水の行く先,雲の行く先,風の行く先。いずれも果てしがないことじゃ」
「もらった」
「人間,衣食住は外せないから,食う寝る所に住む所とはいかがじゃ」
「そりゃそうだ。これは外せないね。もうありませんか」
「ヤブラコウジのブラコウジなどは」
「そうブラブラってぇと怠けもんになりませんか?」
「そんなことはない。藪柑子という木はまことに強いもので,春には若葉,夏には花咲き,秋に実を結ぶ。冬は赤き色をそえて霜をしのぐ,強くてめでたい木じゃ」
「ははぁ,聞いてみなくちゃわからねえね」
「ついでだから話をしますがな,昔,唐土(もろこし)にパイポという国があって,そこにシューリンガンという王様とグーリンダイというお后がいた。あいだにポンポコピーとポンポコナーという姫が生まれて,この二人はとても長寿だったそうな」
「へえ,外国のめでたいのを入れちまうなんてのもいいな」
「日本の名前だと、長久(チョウキュウ),長命とは文字どおり長生きじゃ。二つ合わせて長久命というのはどうだな」
「うん,うん」
「男の子なら,月並みだが長助という名前もよい。長く助ける」
「わかりました。すみませんがねえ,さっきからの名前をみんな,紙に書いてくれませんかね」
「はいはい。書いて進ぜましょう。ああ,カナで。はい……それでは,この内から良いのをお取りなさい」
「ありがとうございます。なるほど。初めが寿限無だ。寿限無,寿限無,五劫の摺り切れ。海砂利水魚の水行末,雲行末,風来末,食う寝る所に住む所。ヤブラコウジのブラコウジ,パイポパイポ,パイポのシューリンガン。シューリンガンのグーリンダイ,グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助か。ううん。どれをつけても,後でやっぱりこっちにすりゃ良かったってことになるとつまらねえ。和尚さん,面倒くせえからみんなつけちまうよ」

てんで、やっこさん、みんな付けてしまいます。
この寿限無という子が、親の気持ちを知ってか知らずか、すくすくと育ちまして

「おーい,寿限無,寿限無,五劫の摺り切れ,海砂利水魚の水行末,雲行末,風来末,食う寝る所に住む所,ヤブラコウジのブラコウジ,パイポパイポ,パイポのシューリンガン,シューリンガンのグーリンダイ,グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助くーん。入学式に行こう」
「まぁまぁ、おはよう、竹さんとこのシンちゃん。申し訳ないけど、うちの寿限無,寿限無,五劫の摺り切れ,海砂利水魚の水行末,雲行末,風来末,食う寝る所に住む所,ヤブラコウジのブラコウジ,パイポパイポ,パイポのシューリンガン,シューリンガンのグーリンダイ,グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助はまだ寝てるから。すぐ起こしますからね。ほらほら,寿限無,寿限無,五劫の摺り切れ,海砂利水魚の水行末,雲行末,風来末,食う寝る所に住む所,ヤブラコウジのブラコウジ,パイポパイポ,パイポのシューリンガン,シューリンガンのグーリンダイ,グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助や,シンちゃんが呼びに来てくれたよ。」
「おばさんッ,もう終業式だよぉ」

いかがでしょうか。
また少し練習を重ねてみて、再度考えてみたいと思います。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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