古典落語『目黒の秋刀魚』 考 4

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だいぶ形になってきました

本番が決まりました。今週土曜日のパルテノン多摩。
長寿を祝う会だそうです。いつももそうですが、今回は本当にお年寄りばかり。
相手にとって不足はありませんが、とはいえ、可愛がってもらえるかしら。不安です。

考えぬいた本番の形

よく、落語の方に大名のお噂なんというものがあります。
早い話が、時の権力者の悪口です。
何時の世も、そういう類の話は、大好きなんですね。

ただ、この大名はいい生活をしていたかというと、実際は案外大変だったようで。
毎日毎日酒池肉林の贅沢三昧と思うと、そうでもない。
文献を紐解きますと、意外と不自由な生活をしていらっしゃるんですね。

魚ひとつとっても、鯖やマグロなんてのは下魚と言いまして、けしてお大名は食べなかったようです。
むしろ、魚といえば鯛。鯛しか食べられなかったってぇんですから、不自由ですね。

鯛だって生きのいいのが刺身か何かで食べられれば幸せですが、そうはいかない。
万が一でも当たってはいけないということで、蒸したり焼いたします。
しかも、まずはそれを、お毒味役が食べる。
食べて、問題がないとなると、お殿様が食べられるのですが、其の頃にはもはや焼き魚は冷えきっている、と。
まぁ、そりゃあ美味しくはないですよね。いくら鯛でも。腐っても鯛と言いますが、冷めても鯛とは言いません。
なかなかわびしいですけれども。

「あぁ、これこれ金弥、金弥、誰そある」
「はっ、およびにございますか」
「どうじゃ、良い天気であるな」
「御意にございます。まさに日本晴でございます。」
「うん、良い天気じゃ。どうじゃ、遊山などに、参ろうかの」
「ははっ!同じ事なれば、武芸鍛錬のために遠乗りなど結構かと存じます」
「あぁ、久しくせんが遠乗りか。どのあたりまで行けばよいか」
「下屋敷から程遠くもない、目黒などいかがでしょう。」
「目黒か。川あり、谷あり、紅葉が美しい。しばらく行っていないが。あい分かった、遠乗りをいたすといたそう。では、用意をいたせ。余に続け。はいやー!」
「と、殿!?」

家来も連れず、お殿様は1人で飛び出していい心持ち。

ところが、昔は馬の鞍は木で出来ておりますから、下手に乗ると尻が痛いのなんの。
目黒に着かないうちに、尻が痛くて馬になんか載っていられない。
飛び降りまして尻を撫でていおりますと、ご家来衆が到着をしまして

「おまたせいたしました、殿。どうか、ご乗馬のほどを」
「あぁ、いや、うん、いや、しかし、その方たちに尋ねるが。」
「はっ」
「もし戦場で馬を失った場合、そなたたちは如何いたす?」
「はぁ、戦場で…それならば、徒歩にて戦います」
「よく言った。足は鍛えておかなければならぬな?」
「御意にございます。」
「では、あそこの小高い丘を見よ。赤松が生えておるな。では、あそこまで、その方共と徒歩にて競争じゃ。予に劣るな!はじめ!」

今度はかけっっこが始まります。駄々っ子だから仕方がない。殿様はいい気なもんで、馬をほっぽり出して丘へ一目散。
とはいえ、殿様にかけだされてしまうと、家来たちは従うしか無い。自分のものと、お殿様の馬を、その辺に適当に括りつけまして、殿のあとを追いかけます。

家来たちが丘に、息も絶え絶えにやってきますと、

「その方共は、やはり、予にはかなわんの。」

これだから困ります。

「はあ、空腹を覚えた。弁当を持ってまいれ」

「弁当?弁当?持って参ったか?誰か弁当を持って参ったものはいるか?
恐れ多くも申し上げます。あまり火急の事のため、弁当を持参した者は1人もおりません。」
「弁当が……ない。さ、さようか。さようであるか」

どかーんとお腹が空いてきます。
そこにご飯があると思うと人間てぇものは意外とお腹が空きませんが、何もないと知ると空きます。

「なんでお前たちは弁当を持ってこないのだ」ともし言うと、この中の誰かが責任をとって腹を切らなければなりません。
「そういうことを言ってはなりませんよ」と小さい時から聞いておりますから、殿様はいうことが出来ない。
「そうか・・・・」
ご家来の方もがっかりして、秋の空をながめております。
とんびがぴぃーと飛んでいます
「これ金弥、あのとんびもまた、弁当を食したであろうか」
「おいたわしゅうございます」

そんなぼんやりしているところへ、近所の農家でさんまを焼いております。
そんな匂いが殿様の鼻の中に入ってきますからさあ大変。

「これキンヤ、この異なる匂いはなんじゃ?」
「はっ、異なる匂い?あ、これは、さんまにございます」
「さんまとは何じゃ?」
「はっ、魚にございます。」
「ほぅ、魚か。では、食うてみるか。」
「はっ、あれは下なる魚にて、高貴な方の口には合いません」
「だまれい、武士が好き嫌いをいって、戦が出来るか!目通り許す。秋刀魚とやらをこちらへ。」

どうしようもありませんから、ご家来は農家の家へ。

「ゆるせよ」
「はっ、これはこれはお武家様、どうなさいましただ?」
「殿がさんまを食したいとおっしゃっておる。どうじゃ、そのさんま、譲ってはくれんか」
「は、ははっ!あぁ、お安い御用でございます。そっくりお譲りいたします。」
「それはありがたいな。これは駄賃じゃ」
「え、こ、小判ですか。お釣りは村中探したってありませぬだ」
「いや、釣りは其の方に使わす」
「ほれ?釣り、要らねぇかね?あ、ありがてぇ!」

農家の方だっていきなり大金が入ったから、嬉しくってしょうがない。
すっかりさんまを丁寧に焼きまして
縁の欠けたお皿に、丁寧に焼いたさんまの五・六本と、おろした大根おろし、すだちを添え、醤油をチューっとかけ、割り箸を添えて殿様に献上します。

それをみて驚いたのは殿様です。
いままで、魚というものは、今まで赤くって平べったくって冷たくてパサパサしたものだと思っていた。
ところが、今目の前にあるのは細長くて真っ黒な魚。
チュプチュプと油がたぎっていて、まだ火が燃えております。横っ腹には消し炭がついております。

「きんや、これを食して、大事ないか?そうか、大丈夫だな?……大丈夫だな?」

しかし抑えきれぬ食欲で食べますと

「くちゃくちゃ・・・・これは美味である!!」

そりゃあ美味いですよ。お腹の空いたときってぇのは何食ったってうまい。
そこへもって、今まで冷めた鯛しか食べたことのなかったお殿様にとって、旬で焼きたての秋刀魚というのがどれだけ美味に思えたか。
代わりをもて、代わりをもて、と物の怪のついたように食べます。

「美味であった!美味であったぞ!その方たちには骨を取らせる」
「ありがとう存じます」

みんなは骨を食べて我慢をしまして。
「いやー、か様に美味なるものがあるとは余は存じなかった。これからは館へ帰り、三度三度とさんまを食すことにする」
「恐れ入りながら申し上げます。ここでさんまを食したことは、何卒、ご内密に願います。」
「・・・・予がさんまを食すと、何かまずいのか?」
「家臣一同の不徳ということに相成ります」
「・・・・うむ、分かった。予は誰にも言わん。そちらの迷惑になるようなことはせぬ。」
「ははっ!ありがたき幸せ!」

ごきげん麗しく、お屋敷へ帰って参ります。
帰って御膳につきますと、例の冷めた赤いのが出てまいります。
それをみると

「あぁ、さんまは美味かった」と思う。
毎回毎回、鯛が出てくる。
世は太平、他に考えることがないから、寝ても覚めても「さんまは美味かった」
寝ては夢、起きては現か幻か。
さんまに恋い焦がれます。
だんだんと、顔色が悪くなったりします。

「あぁ、これ、きんや、また目黒などに参りたいな」
「ははっ目黒は風光明媚な場所につきまして」
「いや、風光などはどうでもよい。この前行った時に出て参った、あの黒やかで長やかで、美味なる魚、さんまを…」
「ご内密に……」
「言わん、言わんぞ。さんまのことなど、言わぬ!!」

家来などもヒヤヒヤしております。

そのうち、お殿様がご親類のおたくに招かれることになりまして。
お大名は普段は食べたいものを食べられるわけではありませんが、こういうお招きのときだけは料理の注文が言える風習でありました。
殿様は指折りこの日を待ちわびております。まるで子どもが遠足を待っているよう。
当日は誰よりも早く起き、家来を起こして回る興奮ぶり。
到着しても、主より先に料理番に挨拶をします。

「おい、料理番はおるか」
「はっ、料理番にございます。
「余は、今日は、さんまを食したい」
「さんま?秋刀魚ですか?」
「秋刀魚である。黒くて長やかなる魚である。」
「た、タンマではなく?」
「今すぐ持てい」
「は、ははぁ!!」

当然に厨房には秋刀魚の用意がありませんから、すぐ用意せねば!ということになりまして、当時日本橋にありました魚河岸に大急ぎで行ってまいりまして、最高に良い物を選りすぐりました。

ところが、お料理方はこれをみて考えた。さんまなんてのは雑に焼いて醤油とおろしとでキューっとやるのが美味い、美味いというのは分かっている。けれども、こんな油の強いものを殿様に出して、万が一の事があっては我々にどんな罰が下るか分からない。とにかく、油を抜いちまおう、なんてことになりまして、さんまを蒸し器にかけてしまいます。
さんまの油を綺麗に落としてしまいます。バッサバサのさんま。
また、小骨がありますから、この小骨が喉に刺さっては大変だということになりますから、みんなで寄ってたかって毛抜で骨を抜きます。もうそうなるとさんまの方はクッタクタのバッサバサ。このまま出すわけにいかないってんで、お椀にしてお殿様の前に出します。

殿様はチュプチュプしていて消し炭があるのが出てくると思っていますから、お椀を前にしてビックリ。
「これ、即答を許す。これはさんまか?」
「はっ。さんまにございます。」
「左様か、こんな形であったかな。」

お椀をとりますと、かすかにあの恋い焦がれたさんまの匂いがいたします。

「おお、これこれ。これじゃ、これじゃ。久しかったのぅ。そちもけんごで何よりである。」

ぱくぱく…。

「これ、これはどちらで仕入れた?」
「はっ、日本橋、魚河岸でございます。」
「それはいかん、さんまは目黒に限る。」

どうでしょ。

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都内在住のおじさん。 2児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』
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