古典落語『目黒のさんま』 考

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次は『目黒のさんま』を演りたい

先日、聖蹟桜ヶ丘で行われた『あじさい寄席』にあたくしも前座として参加しました。
最初の頃よりはだいぶ話せるようになっては来ましたが、まだまだ、先輩方の場の持って生き方などに比べるといけませんね。

ただ昏々と稽古を重ね、精進せねばなるまいと思っております。

次は秋、秋の落語といえば、なんでしょう?
それでいて、あたくしが演れないとしようがない。

はて、と思いついたのがこの『目黒のさんま』。
ポピュラーであるし、話の筋はみんな知っている。

だからこそ、初心者にも向いているのであり、かつ、難しいところですね。

金原亭馬生師匠のものを参考に

下記はほとんど文字起こしです。
馬生師匠のものを起こしました。

今後、自らでアレンジを考えています。

よく、落語の方に大名のお噂なんというものがあります。
早い話が、時の権力者の悪口ですな。何時の世も、そういう類の話はみんな大好きなんですね。

ただ、この大名の生活というのは、案外大変だったようで、毎回毎回美味しいものが食べられるかと思うと、そうでもない。文献を紐解きますと、意外と質素なものを食していらっしゃるんですね。

魚ひとつとっても、鯖やマグロなんてのは下魚と言いまして、けしてお大名は食べなかったようです。
むしろ、魚といえば鯛、と決まっていたそうで。
鯛だって生きのいいのが刺身か何かで食べられれば幸せですが、そうはいかない。
万が一でも当たってはいけないということで、蒸したり焼いたりして、しかもそれをまずはお毒味役が食べる。
食べて、問題がないとなると、お殿様が食べられるのですが、其の頃にはもはや焼き魚は冷えきっている、と。
まぁ、そりゃあ美味しくはないですよね。いくら鯛でも。腐っても鯛と言いますが、冷めても鯛とは言いません。
なかなか厳しい食生活をなさっていたようで。

「あぁ、これこれ金弥、金弥、誰そある」
「はっ、およびにございますか」
「どうじゃ、良い天気であるな」
「御意にございます。まさに日本晴でございます。」
「うん、良い天気じゃ。どうじゃ、遊山などに、参ろうかの」
「ははっ!同じ事なれば、武芸鍛錬のために遠乗りなど結構かと存じます」
「あぁ、久しくせんが遠乗りか。どのあたりまで行けばよいか」
「下屋敷から程遠くもない、目黒などいかがでしょう。」
「目黒か。川あり、谷あり、紅葉が美しい。しばらく行っていないが。あい分かった、遠乗りをいたす。これ、遠乗りをいたす。支度をいたせ!!後に続け!はいやー!」

ピシーっと乗り出しました。

そうとは知らない家来はくだらない世間話をしていると

「殿が遠乗りをされるそうだ」
「え、殿が?そりゃあ結構でござるな。で、いつ?」
「おでかけになった」
「え?今?今でしょ?こ、これは一大事にござる!」
あわてて飛び出します。あわくって殿様の後を追いかけます。

お殿様は1人でいい心持ち。バーっと走っていきますが、なにせ日頃よりあまり馬に乗り付けていない。
それでもって、昔は馬の鞍は木で出来ておりますから、下手に乗ると尻が痛いのなんのって。大変だったそうであります。

目黒に着くか着かないうちに、尻が痛くて馬になんか載っていられない。
飛び降りまして尻を撫でていおりますと、ご家来衆が到着をしまして

「おまたせいたしました、殿。どうか、ご乗馬のほどを」
「あぁ、いや、うん、いや、しかし、その方たちに尋ねるが。」
「はっ」
「もし戦場で馬を失った場合、そなたたちは如何いたす?」
「はぁ、戦場で…それならば、徒歩にて戦います」
「よく言った。足は鍛えておかなければならぬな?」
「御衣にございます。」
「では、あそこの小高い丘を見よ。赤松が生えておるな。では、あそこまで、その方共と徒歩にて競争じゃ。予に劣るな!後へ続け!」

今度はかけっっこです。駄々っ子だから仕方がない。

とはいえ、殿様にかけだされてしまうと、家来たちは従うしか無い。急いで走り出します。
日頃の鍛錬が違いますから、家来が殿様を抜こうとすると

「なんじゃ貴様!主人の前に出るものがあるか!無礼者。後へ下がれ!!」
「ははぁ!」

なんてぇことになります。誰だって勝てやしません。

丘のてっぺんに登りまして、息も絶え絶えに

「その方共は、やはり、予にはかなわんの。
はあはあ、空腹を覚えた。弁当を持ってまいれ」

「弁当?弁当?持って参ったか?誰か弁当を持って参ったものはいるか?
恐れ多くも申し上げます。あまり火急の事のため、弁当を持参した者は1人もおりません。」
「弁当が……ない。さ、さようか。さようであるか」

どかーんとお腹が空いてきます。
そこにご飯があると思うと人間てぇものは意外とお腹が空きませんが、何もないと知ると空きます。

「なんでお前たちは弁当を持ってこないのだ」ともし言うと、この中の誰かが責任をとって腹を切らなければなりません。
「そういうことを言ってはなりませんよ」と小さい時から聞いておりますから、殿様はいうことが出来ない。
「そうか・・・・」
ご家来の方もがっかりして、秋の空をながめております。
とんびがぴぃーと飛んでいます
「これ金弥、あのとんびもまた、弁当を食したであろうか」
「おいたわしゅうございます」

そんなぼんやりしているところへ、近所の農家でさんまを焼いております。
俗にいう「おんぼうやきというものでございます。
ボーボー燃えている火の中にまるごと入れちまうやつです。
焼いてるんだか燃やしてるんだか分からない。

そんな匂いが殿様の鼻の中に入ってきますからさあ大変。
「これキンヤ、この異なる匂いはなんじゃ?」
「はっ、異なる匂い?あ、これは、さんまにございます」
「さんまとは何じゃ?」
「はっ、下なる魚にて、高貴な方の口には合いません」
「黙れ!武士が一旦戦場へ出て参り、腹が減っては戦が出来るか!さんまをここへ。目通り許す。苦しゅうない!」
「ははー!」

どうしようもありませんから、ご家来は農家の家へ。
うちの中は煙でほとんど何も見えません。

「ゆるせよ」
「はっ、これはこれはお武家様、どうなさいましただ?」
「殿がさんまを食したいとおっしゃっておる。どうじゃ、そのさんま、譲ってはくれんか」
「は、ははっ!あぁ、お安い御用でございます。そっくりお譲りいたします。」
「それはありがたいな。20匹ある?そっくり焼いてくれ。めしはあるか?なに、一升炊いたのがそのままある?ありがたい。ではそれをくれぬか。これは駄賃じゃ」
「え、こ、小判ですか。お釣りは村中探したってありませぬだ」
「いや、釣りは其の方に使わす」
「ほれ?釣り、要らねぇかね?あ、ありがてぇ!」

農家の方だっていきなり大金が入ったから、嬉しくってしょうがない。
すっかりさんまを丁寧に焼きまして
縁の欠けたお皿に、丁寧に焼いたさんまの五・六本と、おろした大根おろしを付け、悪い醤油ではありますがさんまの上にチューっとかけ、割り箸を添えて殿様に献上します。

それをみて驚いたのは殿様です。
魚というものは、今まで赤くって平べったくってカサカサのものだと思っていた。
ところが、今目の前にあるのは真っ黒な魚。
焼きたてでございますから、チュプチュプと油がたぎっている。横っ腹には消し炭がついております。
こりゃあ驚いた。

「きんや、これを食して、大事ないか?」
「辞めておいたほうがよろしいかと」
「う・・・うぬ、いや、腹が減っては!」

抑えきれぬ食欲で食べますと

「くちゃくちゃ・・・・これは美味である!!」

そりゃあ美味いですよ。お腹の空いたときってぇのは何食ったってうまい。
それに季節はさんまの旬。秋晴れのもとで焼きたてを食うわけでありますから、まずいわけがない。

「代わりをモテ!代わりをもて!」
と物の怪のついたように食す。

「美味であった!美味であったぞ!その方たちには骨を取らせる」
「ありがとう存じます」

みんなは骨を食べて我慢をしまして。
「いやー、火曜に美味なるものがあるとは予は存じなかった。これからは館へ帰り、三度三度とさんまを食すことにする」
「恐れ入りながら申し上げます。ここでさんまを食したことは、何卒、ご内密に願います。」
「・・・・予がさんまを食すと、何かまずいのか?」
「家臣一同の不徳ということに相成ります」
「・・・・うむ、分かった。予は誰にも言わん。そちらの迷惑になるようなことはせぬ。」
「ははっ!ありがたき幸せ!」

ごきげん麗しく、お屋敷へ帰って参ります。

帰って御膳に尽きますと、魚ってぇと干からびた鯛。
それをみると

「あぁ、さんまは美味かった」と思う。
毎回毎回、鯛が出てくる
予は太平、他に考えることがないから、寝ても覚めても「さんまは美味かった」
寝ては夢、起きては現か幻か。
さんまに恋い焦がれます。
だんだんと、顔色が悪くなったりします。

「あぁ、これ、きんや、また目黒などに参りたいな」
「ははっ目黒は風光明媚な場所につきまして」
「いや、風光などはどうでもよい。この前行った時に出て参った、あの黒やかで長やかで、美味なる魚、さんまを…」
「ご内密に……」
「言わん、言わんぞ。さんまのことなど、言わぬ!!」

家来などもヒヤヒヤしております。

そのうち、お殿様がご親類のおたくに招かれることになりまして。
お大名は普段は食べたいものを食べられるわけではありませんが、こういうお招きのときだけは料理の注文が言えるのでございます。殿様は指折りこの日を待ちわびております。まるで子どもが遠足を待っているよう。

「恐れながら、ご希望の料理の御名を承りたく」
「予は、さんまを食したい」

「おお、ご苦労様、殿様はなんと申された?」
「は、さんまをご希望です」
「は?さんま?ご身分の高いかたがさんまという下魚をご存知のはずがない。

「黒き、長やかなる、魚である」
「そりゃさんまだ。どこで覚えちゃったんだろうね、あの殿様。」

当然に厨房には用意がありませんから、すぐ用意せねば!ということになりまして、当時日本橋にありました魚河岸に大急ぎで行ってまいりまして、最高に良い物を選りすぐりました。

ところが、お料理方はこれをみて考えた。さんまなんてのは雑に焼いて醤油とおろしとでキューっとやるのが美味い、美味いというのは分かっている。けれども、こんな油の強いものを殿様に出して、万が一の事があっては我々にどんな罰が下るか分からない。とにかく、油を抜いちまおう、なんてことになりまして、さんまを蒸し器にかけてしまいます。
さんまの油を綺麗に落としてしまいます。バッサバサのさんま。
また、小骨がありますから、この小骨が喉に刺さっては大変だということになりますから、みんなで寄ってたかって毛抜で骨を抜きます。もうそうなるとさんまの方はクッタクタのバッサバサ。このまま出すわけにいかないってんで、お椀にしてお殿様の前に出します。

殿様はチュープーチュープーしていて消し炭があるのが出てくると思っていますから、お椀を前にしてビックリ。
「これ、即答を許す。これはさんまか?」
「はっ。さんまにございます。」
「左様か、こんな形であったかな。」

お椀をとりますと、かすかにあの恋い焦がれたさんまの匂いがいたします。

「おお、これこれ。これじゃ、これじゃ。久しかったのぅ。そちも健康で何よりである。」

ぱく…。

「これ、これはどちらで仕入れた?」
「はっ、日本橋、魚河岸でございます。」
「それはいかん、さんまは目黒に限る。」

いかがだったでしょうか。
馬生師匠が語ると、これがおっもしろいんですがね。

はてさて、どうなることやら。

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都内在住のおじさん。 2児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』
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