『親子酒』 ちょいと寝かして、リベンジ!!

去年、『親子酒』をやったんですけれどもね。
なんどやっても、おとっつぁんが若くなっちまうんですな。

あの、お年寄りが若人を演ずるに比べて、若人がお年寄りを演ずる難しさったら、ないですな。
難易度高し。

白酒師匠

リンク先より引用

ただ、諦めるような話じゃない。
なんたって、あたくしはこの噺が大好き。いかにも落語的な噺じゃないですか。

と、いうわけで、一年寝かして、リベンジいたします。

冬の間に、どこかで演りたいわ。

「おい、ばあさん、ばあさん、……死んじまったかな?」
「はいはい、なんですね」
「なんだな、夜はやっぱり冷え込むな。」
「そうですねぇ、やっぱり、冷え込みますね」
「体を温めて寝たいもんだな」
「なんです?」
「いや、だから、身体をあっためて寝たいもんだな。」
「……まぁ、嫌ですよ、おじいさん。いい年なんですから、そんな……」
「何か勘違いをしているんじゃないのか。お互いいい年なんだから、そんな間違いがあってたまりますか。そうじゃない、その……身体を暖めたい、とこう言っているんだ。」
「あぁ、そうですか。早くおっしゃってください。わかりました。いま、湯たんぽを用意しますので」
「いや、湯たんぽも結構ですけどね、そうじゃなくて、身体の中から温まりたいと、こう言っているんだよ」
「あぁ、そうですか。早くおっしゃってくださいよ。お茶いれますね。」
「お茶も結構だが、もうちょっと、こう、薬の中の薬、百薬の長といわれるものがあるだろう。」
「生姜湯ですか?」
「お前も嫌なやつだな。わかってるくせに、そういうこと言うんだから。そうじゃなくて、こう、もっと即効性のある」
「なんです?」
「だから、ちょっと、こう、こんなことをやろうかと」
「お酒?いけませんよ、あなた。倅の幸太郎と禁酒の約束なさったじゃありませんか。」
「そりゃ、確かに言いました。言いましたけれどもね、それは倅の為を思えばこそ。いずれはこの身代を倅に譲らなきゃならない。ついちゃあいつの酒癖を直さないといけません。客商売ですよ、お客様の前で滅多なことがあっちゃいけない。だからこそ、倅の為を思って、厳しく言っているんです。ただ、一人で禁酒するのでは寂しいだろうと思って、つい付き合うと言ってしまっただけです。あいつはまだ先が長い。ところが、こっちはなんですか。老い先短い老人だ。お前さんだってそうですよ、お前さんだって、とっくにお迎えがきているんですよ。ただ、根が図々しいから気づかないだけで。ね、先が短いのに、わざわざ好きなモノを辞める必要ななんざ、無いと思うんだよ。
 今は倅は得意先を回っていますからね。あいつが帰ってくるまでに、すっかり飲んじまってとこについて寝ちまうことにしましょう。これなら分かりゃしませんよ。な?いいじゃないか。な。一号、一杯だけ。ね。」
「いけませんよ、あなた。約束したのはあなたでしょ。あなたが破っちゃいけませんよ」
「だから破る破らないの噺じゃないんだよ。倅が帰ってくる前のことなんだ。良いじゃないか。一杯だけ、頼む婆さん、このとおり。ばあさん、……綺麗だよ。」
「何を言っているんです。もう言い出したら聞かないんですから。しょうがないですね、一杯だけですよ。」
「へへ、悪いね。あの~、湯のみに入れて。で、なんですよ。羊羹2つくらい切って。いや、何も羊羹と飲もうってぇわけじゃあないですよ。倅が万が一帰ってきたとしても、出ているのが湯のみと羊羹だったら、お茶を飲んでいると思うでしょう。あたしはそこまで考えて、「飲みたい」と思っているんです。……え、なに?羊羹と羊羹の間に、塩辛でも挟んでおきましょうか?たはーー!ばあさん、本当に綺麗だよ。
 はいはい、来ました来ました。ねぇ。はは、結構ですよ。はは、いい匂いだね。ね。お久しぶりだな。いやいや、急かすんじゃありませんよ。再会を祝しているところなんですから。いやいや、頂きます、頂きます。ぐぎゅ、ぐぎゅ、ぐぎゅ。ぷはー。いやー、結構だね。スット入ってきてジュワっときたってぇやつだ。……やってます、やってます。今お腹のなかでやってます。『もう二度とお会いできないかな』と思っていたところに『こんちわ』って入ってきたもんですから、『やあ、どうしたんですか』『またよろしくお願いします』なんて、やってますよ。ははっ、いやいや、結構なもんだ。しかし、いいね、これね。これでまた、寿命が伸びたってぇやつだ。ははっ。きゅーっ。っっきゅー。ぺろぺろ。なに、もう無いの?ばあさん、これ、本当に一合入ってるかい?いやいや、少ないですよ。私は昨日今日の酒飲みじゃない、どれが一合でどれが一合じゃないか。これはちゃあんと身体が覚えています。これは絶対、少ない。腹の中でも言ってますよ。『あなたどうしました』『お連れ様の具合は』なんて具合ですよ。そういう意地の悪いことはしちゃいけません。寝た子を起こすようなもんだ。
 どうでしょう、このままじゃ収まりがつきません。いやいや、私というよりは、私の身体が収まらないんだ。もう一杯」
「ダメですよ、あなた。」
「だから、お前さんがちゃあんと一合持ってきてくれてさえいれば、こんな事にはならなかったんだ。だから、だから、当たり前じゃないか。飲みたくて飲むのとはわけが違うんだ。身体が、身体がいうことを聞かないだけなんだから。え?大丈夫、大丈夫。私が今まで、嘘をついたことがありますか。……確かにたくさんありますが。でもね、これは別問題。これはまったくの別件なんです。もう飲まないから、な、この通り、どうか。もう飲まないから。ね、ばあさん!!…………綺麗だよ。」
「何を言ってるんです、うるさいですね、ほんとうに、もう一杯だけですよ」
「もう一杯だけ!ありがたい」
こんなことやっておりますけれども、酒飲みというのはどうにも情けないものでしてね。
飲んでいくうちに
「ばあさん、ばあさん、このとおり、もう半分だけ」
「も、もうちょいと」
終いには
「……もってこい、ばばあ!ったく、何言ってんだよ、空いたなと思ったら次持って来なさいよ、気の利かないババアだ、まったく。‥・・・羊羹なんかだして。こんなもんで酒が飲めますか。ぐびっぐびっ……、ぷー、なにぃ?酔ってる?あたしが?酔っちゃあいませんよ、酔っちゃあ。酔うってぇのはね、この四切れの羊羹が、八切れに見えたとかってそういうの。そういうのを酔っているというんです。……なに?二切れです?……とにかく、酔ってないったら酔ってないの。……なに?倅が?帰ってきたぁ?、そりゃあ帰って来ますよ。せがれのうちはここなんですから。帰って来なけりゃ騒ぐのも道理。でもね、帰ってきて騒ぐのは道理に合いませんよぉ。……って、帰ってきた?そ、そりゃいけない。ほら、片付けて、片付けて。あ、ちょっと、それ、まだ残ってる。ぐびぐび。ぷはぁ。ほら、ほら、きたきたきた。入れていい。入れていいよ。・・・・だれだ?だれだ幸太郎か、こっちィはいんなさい」
「おとっつぁん、ただいま帰りました。」
「幸太郎、おまえ、酔っ払ってないか。お前はおとっつぁんと、禁酒の約束をしたでしょ。」
「おとっつぁん、聞いてください。これには深いわけが。おとうさんのおっしゃるとおり、麹町の横田さんへまいりました。旦那さまァおいでンなって、一杯召し上がってるとこで、
『いいとこへ来た。一人でさみしいとこだ、さァ、いこう』と言われました。そこで、『だめです、実はうちのおやじと禁酒の約束をしました、お酒は一滴も飲む訳にいきません』ったら、『いや、正月はめでたい。ましてや男と男が胸襟を開いて語り合うには、酒に勝るものはない。だから、一杯やれっ』ってぇんす。」
「おお、それでお前、飲まずに帰ってきたか?」
「そこなんです。『どうしても飲めない』って言ったら、『なぜ強情を張る、強情張れば、以後うちの出入りをとめるぞ、それでもいいのかッ』
ってぇから、そいからおとっつぁん、あっし怒っちゃった、怒っちゃったよ。『たとえ出入りをとめられようがなにしようが、一旦親子と子、いや、男と男が呑まないといって約束をしたら、呑むわけにはいきません。』っつったら、やっこさん、『えらいっ、その意気が気に入った。気に入ったから一献いくかッ』てえますから『それじゃァいただきましょう。』ってことになって。気がついたらふたァりで二升五ン合あけた、やめようやめようと思っても、やめられないのが、酒ですなぁ!!
「馬鹿野郎、馬鹿野郎ッ、なんでそうぉ、おまえはなさけない男です。おとうさん言ったでしょう、酒を呑むんじゃないと、けれど、怒ンじゃないよ、怒っちゃいけない、これもおまえの身を思えばこそ言うんですよ、この身代をおまえにそっくりゆずっていこうと思えばこそ、おとうさんは口うるさくおまえに(あくび)・・・・言うんですから、そこをよく考えて、そして(目をパチパチ)・・・・おい、ばあさん、ちょいとここへ来てごらんおい、こいつの顔!!酒ばかり飲むから、顔が7つにも8つにもなっている。そんな化けもんみたいなやつに、この身代はゆずれません」
「ぶー、あっはっはっは。冗談言っちゃいけねえ。おとっつぁん、あたしだって、こんなぐるぐるまわる家、もらったってしょうがねえ」

今回は白酒師匠のをベースに文字化してみました。
今度はうまくやれるといいんですけれどもね。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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