『たがや』 文字起こし 下

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存
  • 0

志ん朝師匠の文字起こし 下

志ん朝師匠の高座は、江戸の情景がそこにあるが如し。
あたくしごときに文字起こしは恐れ多いけれども、とはいえ、やらないと今度のあやめ寄席に出すものが無くなっちゃう。

恥を忍んで、文字起こしの下でございます。

これに、小朝師匠の『たがや』あたりを上手に組み合わせて、高座にかけましょうかね。

なんてんでもぅ、たがやの方はヤケですからひっくり返っちゃう。
にわとりも 追い詰められリャ 五尺飛び
と言います。鶏だって5尺は飛ぶ。
窮鼠猫を噛む、ということでしょうな。

侮っていた職人に逆に脅かされちゃった侍。
こんな事を言われたことはないもんですから、びっくりしてポーッとしちゃって、目もうつろ。
もちろんお殿様は我慢なりませんから
「構わん!斬り捨てい!」
「はっ」
ってぇと侍がすっと抜く。

すると周りでももって
「ほら、抜いたぞ!喧嘩だ!!」
わーっと声が上がったもんですから、やっこさんまたポーッと騰がっちゃった。よく騰がるやつがいるもんで。

騰がりながらにも考えた。
早いところこいつを斬っちまわないと収集がつかない。焦って斬りかかりますが、焦った仕事でうまくいくはずがない。
方っぽは命を捨ててかかってきます。職人ですから喧嘩慣れしております。
ぎゅっと振られた刀をひらりとかわすってぇと、目の前をぱっとよぎった腕を捕まえて、そのままがぶりと噛み付いた。
このたがやの歯がむやみに丈夫ときてますから、悔し紛れにガブっとやられた侍はたまらない。
「あっ、痛い、はなせ、離さんか!!」
「************!!!」
何言ってるか分からない。
けれども、あんまり痛いものですから、持っていた刀をその場におっこどしちまうってぇと、たがやは刀を拾ってエイヤと腕の力に任せて振る。腕に覚えなんてありませんが、そこは職人。斬るなんてもんじゃない、刀で殴るというやつです。しかしこれが一刀のもと。
侍は血しぶきをあげてドタッと倒れた。
「おお、やった、おう、たがや、強いね!」
「あぁ、ありゃぁ、おれの親類なんだ」
嘘つけ!と思うんですが。

「おのれ同役の敵!!」
という声がするかしないかのうちに、今度はたがやの背後からもう一人の侍が斬りかかってくる。
とっさに振り向くので精一杯だったたがや。
「あぁ、俺ももうこれまでだ」
と思うから、その場にぺたーんしゃがみ込む。
すると、一瞬ではありますが、侍もぎょっとします。
日頃の剣術の鍛錬で、相手がしゃがむということはまずない。
急に的が無くなっちゃった。勢い余ってたがやに覆いかぶさるようになるってぇと刀の切っ先がたがやの頭の上に刺さる前に、橋の欄干にぶすりと刺さっちゃった。
もはやこれまで!と思っていたたがやが、痛くないってんで、恐る恐る目を開けますと、侍は目の前で欄干にギイコギイコやっている。恐る恐るさっき使った刀の切っ先をブスブスと入れてくと、これで二人やっちゃった。

残った侍の一人は考えます。
「やるね、あいつは。強いよ、ありゃぁ。あぁ強いとは思わなかった。手遅れだねぇ。殿様には給料もらっているしねぇ。手遅れかなぁ。逃げようたって大勢人がいるからなぁ。仕方がない、やるか」
こんな心構えじゃ命がけの職人に叶うわけありません。
「らあらあらあらあ!」
犬でもそうでもそうです。吠える犬に強いのは居ないんですな。表で喧嘩している人も、大声出すような人は本当に強いわけじゃない。本当に強い人はひとことも言わないうちに有無を言わずに殴る。これです。

無闇矢鱈にラアラア言っているだけですから強くも何ともない。わたしが語るまでもなく一瞬にしてばったりやられちゃった。

馬上のお殿様は、ひらりと身を馬から降りまして、お供に持たせておいた槍を受け取るってぇと、鞘を払って流々と槍をしごきまして、
「下郎!参れ!」
ピタッとつけた。
これは明らかに、今までのお侍とは格が違う。
槍一筋、馬一匹のお旗本ですから。こういうことは周りで観ていてもすぐ分かる。
「おうおうおう、こりゃあいけないよ、たがやがやられちゃうよ。たがやを守れ!援護しろ!」

ってんで、ほうぼうから草履が飛んでくる下駄が飛んでくる石ころが飛んでくる。
今度は殿様がイジメられているような格好になります。

さすがの殿様もこうなると冷静では居られない。
むやみにえいやっと槍で突いても、槍の切っ先はたがやの横を通りぬける。どこを突いてやがるんだこのすっとこどっこいってんで、スパンtpスパンと槍の先端を切り落としちゃう。すると槍は単なる棒に早変わり。

やりくりがつかないというのはこれからきた。
持っててもしょうがないからおっぽり出して、やりっぱなしというのもここから来たんだとか。

慌てて柄に手をかけるけれども、それより一歩先にたがやが懐に飛び込んだ。
「えいっ」
横に払った一文字。
殿様の首がスポンと中天高くたち登る。
観ていた見物人が声をそろえて、「たがや~~!」

こんな気持ちのいい啖呵、あたくしに切れるかしら。

The following two tabs change content below.
都内在住のおじさん。 2児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です