「たがや」 文字起こし 上

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この間はさくら寄席、ご来場いただきましてありがとうございました。
何人かから声をかけていただき、誠にありがたかったです。
今後共、芸に精進したいと思いますので、引き続きご愛顧のほどをお願い申し上げます。

次は「たがや」

次回の大きな発表会は5月下旬の「あやめ寄席」。根多は何にしようか考えたところ、「たがや」にしようかしらと思っております。
若いうちに、若い話をやっておかないとね。
あと、あの啖呵、ちゃあんとやってみたかったの。

志ん朝のを参考に

セリフが多くて大変です。
志ん朝師匠のを参考にしてみました。前半のみ。

花火と申しますってぇと江戸の年中行事、両国の川開き。
それまでは川で遊ぶということが禁じられていたそうですな。
旧暦の5月28日だったそうですが。その日を境に川が開放される。
江戸の夏の始まりでございます。
江戸っ子が待ちに待っております。
その当日に領国で派手にポンポンと花火を上げていたそうで。

で、この花火を受け持っておりましたが「たまや」と「かぎや」という二軒の花火屋さん。
どういうわけですか、鍵屋という褒め言葉はかからなかったそうですな。
大概が「たまや」。ねぇ。

橋の上 たまやたまやの声ばかり 何故にかぎやと 言わぬ錠なし

なあんて歌がありますが、不思議なもんで元は鍵屋に居たお職人が店を持ってたまやになった。
あとになるてぇと自火を出してお取り潰しになって、鍵屋さん一軒になってやっていて、それでもたまやという声がかかったと言うんですからね。
大変に人気があったんでしょうな。
かけいいんでしょうかね。不思議なもんです。

当日は一番人が集まるところはってぇと、両国橋の橋の上。日の暮れになるってぇと
人で埋まっちゃっている。とてもじゃないけど通れるなんてもんじゃなかったそうでございます。
その人の一杯のところへ本所のところからやってまいりましたお旗本。馬に乗っておりまして供侍を3人つれて、中元に槍を持たせまして、これから橋を渡ろうってんです。

これからこの端を渡ろうってぇんですが、随分と乱暴なことが許されていたものです。
なにせ、一番えばっているのがお侍ですから。
士農工商の一番上。天下の往来の7割の面積の部分を侍があるいて、残りの3割と農工商が使っていたそうで。
だから噺家の歩くところなんざなかった。ドブの中を歩いたそうで。
大変な騒ぎ。

人払いをする侍が一人、先頭に立ちまして
「これこれこれ、よれぃよれぃ」
「おっとっとっとっと、チキショウ、何しやがんでぇ!」
「何だってじゃねぇんだよ。俺も押されてきたんだからしょうがねぇんだよ。この混雑してるなかに、馬で乗り込んできた奴がいるんだい」
「何を!馬で!?冗談じゃねぇよ、構わねぇから引きずり下ろして川に落としちまえ」
「ダメなんだよ、リャンコなんだよ、侍なんだよ。」
「なにおぅ!侍だって!どけ、コンチキショウ!侍か!!じゃあしょうがねぇや」
ってだらしない奴が居たもんで。

馬で通れるだけの隙間を供侍が作って、橋を渡ろうとしているちょうどその時、反対の両国は広小路の方から渡ろうとしております一人のお職人。
たがやさんと申しまして。今じゃあもう見られませんで、昔のタライですとか桶のたがを作ったり直したりする、たが専門のお職人。
今は商いが終わったと見えて、どっかでちょいと引っ掛けて帰ってきたらしく、ちょいと目の縁がほんのりと赤い。
道具箱を肩にして橋の袂に立って
「おっとっとっと、こりゃいけねぇや。そうだそうだ。今朝出掛けにそう思っていたんだ。今夜花火だから脇に回らなきゃならねぇんだがすっかり忘れて、毎日の癖でこっちに来ちゃったい。悔しいなぁ、こっから脇を渡るんじゃ、なぁ。うちはここを渡ればすぐなんだが、なぁ。大変な人だけど、ちょっと、わたってみようか。脇に回るよりゃはええだろ。そうしよう。おう、ちょっと、ごめんよ。」
「ありゃ、おー痛てぇ。こんちきしょう。ダメだよ。そんなもの。どっかにあずけて来なよ」
「おれはな、見に来たわけじゃないんだよ。ちょいとウチに帰るためにここを通るだけなんだから。悪いけど、ちょいと、渡らせてもらうよ」
「おう、いてぇなコンチキショウ。向こういきやがれ。」
なんてんで。
向こうの人の頭にゴツン、こっちの人の頭にゴツン。向こうに押され、こっちに押され。
押されたり揉まれたりしながら、だんだんだんだん、橋の真ん中へ。
侍たちも「寄れい寄れい」の掛け声とともに、ちょうど橋の真ん中のあたりでたーんと出くわしちゃった。

間の悪い時というのはしょうがないもんですな。
今までたがやはぐいぐい押されていたから、ゆっくり来ていた。そこんところに邪魔になっている人がちょうど侍に払われたもんですから、侍の前にぽーんと飛び出しちゃった。
昔は侍の目の前に飛び出すなんてぇのは大変なことだったそうですな。
「何だ貴様!無礼者!」
どーんと突かれたもんですから、そこに尻もちをつく。途端に、持っていた道具箱をそこに落っこどしちゃう。道具箱の蓋が衝撃で開いてしまい、箱の端に入れておいた青竹の張りのきついやつ。これは無理に丸く留めてありますから、衝撃で外にでるってぇとキュッキュと伸びて、不運にも馬上のお殿様の傘をポーンとはねのけちゃった。
傘がポーンと飛んでいっちゃったあとには、傘の台の土瓶敷のようなものだけになっちゃった。
これはあまり格好良くない。
お殿様はみるみるうちに顔を真赤にしちゃう。
これは人払いをしている侍の責任ですから、あわてて
「********!!!」
何言ってんのか分からないけども、とにかく慌てたんです。

「無礼者、無礼者!!」
「あ、どうも、すいません。あいすいません。どうかひとつご勘弁願います。あっしはね、わざとやったんじゃねぇんです。人にね、押されながら、やっとのことでここにたどり着いて。で、もひとつ後ろからどーんと突かれたもんですから、ここに入って来ちゃって、そんであなたに突かれたもんだから、道具箱おっこどしてね、こうなっちゃったんです。どうか一つご勘弁を。」
「いや、勘弁はあいならん。さあ立て、屋敷へまいれ」
「屋敷へ?冗談言っちゃいけねぇや。屋敷いきゃこの首はこの身体についちゃいませんよ。どうかお願いします。本当はこんな道具をもってここに入ってきちゃいけねぇんですがね、本当のことを申しますってぇと、うちには年老いた親父とお袋が、あっしの帰りを待っているんですよ。あっしが帰って飯の支度してやらねぇと、いつまでも腹をすかせて待っているもんですから、無理と承知でここに入ってきちまったんです。どうかひとつ、ご勘弁願います。このとおりでございますから」
「いや、勘弁はあいならん。立て!屋敷へ来い!」

「おい、可哀想だね、うちには年を取ったおやじとおふくろが居るんだってよ。お前、どっちが悪いと思う?」
「そりゃあお前ぇ、侍に決まってんじゃねぇか。なぁ。こんなところに馬で来る方が悪いよ。たがやは悪くないよ。おうおう!!たがや悪くないよ!!侍が悪いんだよ!!侍がなんだ!!ばか!!」
「おいおいおいおい、侍の悪口を言っちゃあ俺の後ろに隠れるんじゃないよ。さっきからあの侍、俺のこと睨んでいるじゃねぇか」

「ほら、立て、屋敷へ、屋敷へ参れ」
「お願いを申し上げます。どうか、よろしくお願いします。どうか一つ、お助けください。」
「ここでは話しにならん。これ、立て。立って屋敷へ参れ。屋敷へ参れ!!」
「……それじゃなんですか、どうしてもご勘弁いただけねぇんですか」
「勘弁ならん。勘弁ならんと言ったら勘弁ならん。屋敷へ参れ。」
「……そうすか、へい、わかりやした。おう!ありがとうありがとう、もういいよ。何か言いなさんな。どうしても勘弁してくれねぇってんだい。斬られるのは俺一人でたくさんだ。なにか言ってかかわり合いになっちゃあつまらネェぞ。黙ってろ黙ってろ。じゃあ、どうしても勘弁していただけないんですね。」
「くどい奴だな。勘弁など、なるものか。いいから屋敷へまいれ」
「へえ、屋敷に、あっしは何しに行くんで?えぇ!おめぇたちに屋敷に来いって言われて、さいでござんすかってんでそのままノコノコついていくような弱い尻は俺にはねぇよ。斬るんだったらここで斬ったらいいじゃねぇか。ええ!?なんだって人の観ている前で斬れねぇんでぇ!下から出れば付け上がりやがって。斬って見やがれ、この丸太ん棒め!」
「丸太ん棒!武士を捕まえて丸太ん棒とはなんだ」
「丸太ん棒ったら丸太ん棒じゃねぇか。てめぇなんざ、血も涙もねえ、目も鼻
も口もねえのっぺらぼうな奴だから丸太ん棒てんだ。どうして俺の言うことが分からねぇんだ。なぁ、ウチには年ををとった親がいるっつってんだから、親に免じてが出来ねぇ!?何を抜かしやがんでぇ。侍も弔いもあるか。二本ざしがこわくって、でんがくが食えるかよ。気のきいたうなぎをみろ四本も五本もさしてらあ、そんな鰻をてめえ
は食ったことあるめえ...おれもひさしく食わねえが...斬るってんな
ら、どっからでも威勢よくやってくれ。斬って赤くなけりゃあ赤けぇのと取り替えてやるスイカ野郎てんだ。さあ斬りゃあがれ。斬れやコンチキショウ!!

長いね、長い。
こんなに覚えられるかしら。

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都内在住のおじさん。 2児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』
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