こりゃまた、偉い本ですな。
自らは病気の自覚のない、精神を病んだ人を説得して医療につなげてきた著者の許には、万策尽きて疲れ果てた親がやってくる。過度の教育圧力に潰れたエリートの息子、酒に溺れて親に刃物を向ける男、母親を奴隷扱いし、ゴミに埋もれて生活する娘……。究極の育児・教育の失敗ともいえる事例から見えてくることを分析し、その対策を検討する。現代人必読、衝撃のノンフィクション。
病識のない人間の相手、あたくしも日々やっておりますけど、辛いのよ、これが。そればっかりやってる、というのはどれほどしんどいか。想像に固くない。
はじめに
位置: 182
逆に、指定医が入院の必要ありと診断しても本人が応じない場合、指定医は家族等の同意を得たうえで入院させることができます。これが「医療保護入院」です。
任意入院と措置入院の間のレベルね。家族等の同意ってのがまた厄介なんだよね。
位置: 197
2014年5月、日本精神神経学会は、精神疾患の診断基準「DSM」が前年に改訂されたことを受け、改訂に対応した日本語病名を発表しました。ちなみに「DSM」とは、米国精神医学会が作成し、世界で広く用いられている「精神疾患の診断・統計マニュアル」です。
大きな変更点としては、症状の程度や出方によって「自閉症」「アスペルガー症候群」「特定不能の 広汎性発達障害」などに細分化されていた「広汎性発達障害」が、「自閉スペクトラム症」として一括されるようになりました。
またややこしいのよ。自閉だのアスペだの広汎性発達障害だの、結構人口に膾炙しちゃったじゃない? だから今更変えるというのは大変。「自閉スペクトラム症」で一括ならそれでもいいけど、イメージが付きづらくなったとも言える。
生死すら分からない
位置: 1,062
晴美さんは四十代で、精神科の入通院歴はない。このような精神科未受診のケースでは、本人に受診の意思があればともかく、なければ、受け入れ先の医療機関を探すこと自体、困難なことである。
これだ、病識のない人間。厄介なんだよね。あくまで本人の自由意志に基づく受診じゃないといけないからね。
息子が暴君に
位置: 1,255
一度感情に火がつくと、卓也は自分自身が疲れるまで、何時間でも親をなじった。「なんで俺の言うことが理解できない」「俺をこんな風にしたのは、お前たちだ」などと親を責める
いるんだよね。他責思考の頂点に立つようなやつ。親もそれを黙って受け入れちゃうから良くない。自分のやることを無茶な論理で肯定する。ただ、そうしないと心が持たないということもあるだろうから、そのへんは本当に難しいけどね。
位置: 1,259
一度は110番通報をして警察を呼んだが、警察官が到着するなり卓也は大人しくなり、両親に謝罪までしてみせた。 大 怪我 をしたわけでもなかったため、被害届の提出には至らなかった。
内弁慶に限って、外面は臆病というのもよくある話。極めて小心者。本当によくある話。あたくしも何件も知っています。
家庭内ストーカー
位置: 1,268
そしてもう一つの特徴は、本人に立派な学歴や経歴がついていることである。中学や高校からの不登校というよりは、高校までは進学校に進みながら、大学受験で失敗した例や、大学卒業後、それなりの企業に就職したが短期間で離職したような例が多い。強烈な 挫折 感を味わいながらも、「勉強ができる」という自負がある。ある程度の法律の知識も持ち合わせ、家族に暴力を振るうにしても、手加減することを知っている。警察を呼ばれれば、とたんに大人しくなる。卓也もまさに、このタイプと言えた。
あるなー。あるある。教育が行き届いているからこそのクズっぷり。何なんだろう。
実際、あたくしも今でこそ定職がありますが、そうじゃなかったらこうなっていた可能性もゼロじゃない。どころか結構あると思う。たまたま雇ってもらえて、たまたま勤続できているからなっていないだけの話。他人事じゃないんだよね、全然。
ストーカーと親子の関係
位置: 1,329
そもそも彼が入院を受け入れたのは、両親が彼に、その身を案じていること、愛していることを、心の底から伝えたからである。「お父さんとお母さんがそこまで言うなら」と、彼も腹を決めたのだ。位置: 1,334
彼は数ヶ月の入院後、数年に 亘り通院して精神療法を受け、今では働いて自立していた。目立ったトラブルもなく、家族の仲も良好に向かいつつあるという。その報告を受け、私は非常に 嬉しくなると同時に、彼を支えつづけた両親の深い愛情と胆力に感動した。
実はこのケースでは、交際中に彼が相手の女性から、浮気を繰り返されたり欠点を 嘲笑 されたりと、ひどい言動を受けていた、という事実があった。もちろん、だからと言って法に 抵触 するような行為をしていいというわけではない。しかし、他のストーカー事件の報道などを見ていても、このような背景があったのではないかと感じることは、たびたびある。
人を狂わすのは恋であり、また更生させるのは愛であるという。やはり恋というのは病であります。どこかで解脱するしかない、と強く思いますね。嫉妬とか厄介な感情は、どこかで失わないと精神がもたないよ。
位置: 1,351
なぜストレスに耐えられないのか、大多数の人がそうするように「気持ちが離れたのだから、仕方ない」と 諦められないのか。本人に思考の 偏りといった部分があるにしても、生育過程における親子関係の影響も大きいと私は思っている。親から受けるべき愛情を受けず、信頼関係の結び方を知らないまま大人になれば、他人に 牙 を向けることはたやすい。
先述した彼にしても、家庭環境はそれほど悪くないように見えたが、両親によくよく話を聞いてみると、彼が思春期の頃、親子間で心の距離が生じたと感じることがあったそうだ。しかし、どうしたら良いか分からず、そこには触れずにきてしまった。親離れ子離れと言えばその通りなのだが、あの時、もう少し子供の心に寄り添っていれば……と、両親は深く反省していた。
私は、他にもいくつかのストーカーにまつわる案件に携わってきたが、いずれも根底には親子の問題があった。
だから親は子供を見捨ててはならないのだ。「じゃあもう知らないよ」というのは最後の手段ですね。あたくしもよく子供に言っちゃうけど、良くないかも。
とはいえ、甘やかすのも良くないわけで。塩梅が非常に難しい。
一生、親に養ってもらう
位置: 1,403
たとえば、看護師の忙しい時間帯にわざわざ話しかけ、「その話はあとで聞きますね」と言われても、その場を離れない。自分の言い分が通るまで、無言で相手をにらみつける。職員の言葉尻を捉え、別の職員に「○○さんがこんなことを言ったが、いかがなものか」と訴える。生活上の注意をしただけで、「私を嫌いなことはよく分かりました。しかし嫌われる私の身にもなってください」などと言い返す……といった具合だ。さすがの職員たちも、卓也の言動には 辟易 していると聞く。
しかしそれもすべて、卓也が両親から受け継いだものなのだと、私は思う。人が嫌がることを執拗にやる、無言の圧力をかける、言葉尻を捉える、嫌みを言う……、親が「教育」や「 躾」という名のもとにしてきたことを、なぞっているに過ぎない。
よくある話でね。その執拗さ、慇懃で陰湿な行動、本人の特性といえばそれまでなんだけど、原因を考える必要もあってね。結局、親子関係というところに落とし込むのかな。それはそれで、真理かもしれないけど、残酷だし、対処法が限られるよね。
親業の教育をする、とかしかないものね。子供をこさえるのを免許制に、みたいなことになっちゃうもんね。
変化する家族からの相談
位置: 1,672
ほとんどの家族が、医療機関や保健所、警察署などに相談に行きながら、問題解決には至っていません。その理由の一つに、本人の状態が「病気(精神疾患) として治療すべき」なのか「犯罪として立件(更生) させるべき」なのか、医療と司法のボーダーライン上にあることが挙げられます。
うーん、難しい問題だ。なにより、人生に与える影響がデカすぎ。人が扱って良いレベルを超えているよ。
パーソナリティ障害とは何か
位置: 1,738
ようするに、パーソナリティ障害が医療で扱われるべきなのか、司法で裁かれるべきなのかは、今のところケースバイケースで判断されており、厳密に区別することはできません。
厳密に区別しようとすると弊害が大きすぎるんだろうね。「今のところ」というけど、今後もそうするべきなんじゃないかな。AIとかで判断してもいいんだろうけどさ。なんにせよ、杓子定規できっぱり分けて良いものではないと思う。
それにしてもパーソナリティ障害とは便利なようで不便な言葉よ。なにか言っているようで何も言っていない感覚。
家族も心の病気にしたがる
位置: 1,829
そのような 変遷 の中で今度は、安易に子供を精神疾患にしようとする、そんな家族が見受けられるようになりました。
病気のせいであり、生育環境のせいではない、ということにしたいんですね。それを言われると、もう逃げ場がないからね。親も大変だよ。結果責任を問われるようになったら、やりきれないでしょう。
あたくしは生育環境のせいにしすぎるのもどうかとは思います。じゃないと少子化なんて絶対止まらない。
心の病気になりやすい世の中
位置: 1,902
2014年10月からは、診療報酬改定により、抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬及び抗精神病薬の処方の適正化がなされたため、今後どのようになっていくのか、慎重にみていきたいと思います。
この適正化がぬるい、という意見もちらほら聞きますが、とはいえ薬物療法一辺倒なのもね。難しいところよ。患部を切り取りゃ治るっていうもんでもないのは間違いないからね。やはり医療制度で、社会全体で、取り組む必要があると思います。
それかそういう人たちを社会的に見捨てるか。どっちかだよね。
医療では限界があるのか
位置: 2,167
近頃、私が現場で見聞きして感じる限り、医療機関は「自分から治療を受けに来る」「薬が効く」という患者のみを、治療効果のある患者として好んで受け入れているようです。自傷他害行為を繰り返し、精神疾患と診断されていても、薬の効果がないような患者は初めから受け入れず、受け入れたとしても、急性期の症状が治まれば、「これ以上治療を続けても変わらない」ことを理由に退院させてしまいます。
医者の倫理観に任せる現状の制度では、仕方なしとも思えます。
そういう自傷他害を繰り返すヤバいやつを、しっかり社会制度で面倒みることにしないと、結局「倫理観の強い人任せ」になってしまうと思う。
実際、ヤバいヤツがそのへんウロウロすることを「地域社会への移行」と呼ぶことにして放置しているとしか思えません。
位置: 2,228
「パーソナリティ障害に対する治療は、たしかに難しく、画期的に良くなる可能性も高いわけではない。しかし、治療も含め自分に対してなされたことは、患者の心に必ず残る。だからこそ、やらないよりはやったほうがいい」というのも、この医師の口癖でした。
素晴らしく倫理観の強いお方。素晴らしい。こういう人に医療を任せたい一方で、社会としてどうなの、という気持ち。
儲からないから受け入れない
位置: 2,384
現在、病状に関係なく最長三ヶ月という短期間で退院と言われてしまう背景には、最初の三ヶ月を過ぎると診療報酬点数が下がる、という診療報酬の仕組みが挙げられます。
この診療報酬点数の話、色々と見聞きしますが、医療事務をしっかりやったことがないので本当かどうかイマイチ分からないんですよね。色んな人が色んなこというから。フェイクが流行るから、いちいちファクトチェックしないといけない。面倒ではあるが必要なことです、けど面倒。
日本にスペシャリスト集団を
位置: 2,702
なぜなら私はこれまでに千件以上の移送に携わってきましたが、家族の最大の悩みは、本人に病識を持たせることができない点にあったからです。仮に医療につなげられたとしても、退院後、通院や服薬をやめてしまい、再びトラブルや問題行動を起こす……この繰り返しに、家族は苦しんでいるのです。
特に、薬物療法で改善がみられず、病院職員にまで悪態をつき、迷惑行為を行うような患者は、パーソナリティ障害の問題が必ずと言っていいほど関わりを持っています。過去に逮捕歴や措置入院歴はなくとも、家族が身の危険を感じて110番通報していることが多く、つまりは精神科医療と司法の 狭間 にいる対象者です。
手の付け所が難しいんだよね。想像しただけで厄介。
死ぬまで子の服薬管理を続けるかと思うと、もう絶望しちゃいかねない。想像に難くないね。
あとがき
位置: 3,043
2014年四月の施行後は、複雑かつ対応困難なケースほど、なかなか医療につながることができず、入院できても半ば強制的に早期退院を促されるなど、追いつめられる家族が増えていることは、本書で述べたとおりです。
本当に、なんとかせんといかんよ。滝山病院のやったことは許されるべきではないが、あれを許してきた社会もしくは制度の方にも、あたくしは責任があると思う。ニーズがあるところにしっかりとした基準の福祉を提供しないと、おちおち子どもを歩かせられない社会になるぜ。