阿部智里著『烏は主を選ばない』感想 側面から観る楽しみ

めちゃ面白かった1巻を、別の視点から見られる幸せ。

八咫烏の世界を描くファンタジー絵巻、第2弾!

八咫烏が支配する世界山内では次の統治者金烏となる日嗣の御子の座をめぐり、東西南北の四家の大貴族と后候補の姫たちをも巻き込んだ権力争いが繰り広げられていた。賢い兄宮を差し置いて世継ぎの座に就いたうつけの若宮に、強引に朝廷に引っ張り込まれたぼんくら少年雪哉は陰謀、暗殺者のうごめく朝廷を果たして生き延びられるのか……?

この名前でアニメ化もされましたね。2巻の名前でアニメ化されるのって珍しいよね。話自体はオーバーラップしているから、不自然ではないんですけど。

第二章 うつけの若宮

位置: 1,026
長束を推す松韻と、若宮を推す西家当主。御前会議は、にわかに、この二名による一騎討ちの様相を呈し始めていた。

ごく簡略化された権力闘争。そのあれやこれやが面白い。

位置: 1,028
そして、今上陛下の側近であるという表向きとは異なり、その実、落女が忠誠を誓っているのは皇后── 大紫 の 御前 なのだ。

今上陛下、まるで存在感なし。大紫の御前も、存在感あるのは1・2巻だけよね。

位置: 1,246
「それで良い。私の即位を阻もうとするのは、少なからず分不相応な野心を持つ者だけ。ただ、山内の安寧と発展を好もしく思う者、志ある者は、黙って私に従えば良いのだ」

王が王たる所以のセリフ。ここだけ切り取ると単なる独裁者だね。しかし、王というのはそもそも独裁であります。

位置: 1,326
「どうやら、本物の金烏っていうのは、私達八咫烏とは、全く違う生き物らしい」
「全く違う生き物ですか」

後々生きてくる、この設定。

第五章 七夕

位置: 2,969
「家の方としても、自家の姫が 金烏 代 の側室に迎えられるという希望を、捨て切れないだろう? 少なくとも、登殿期間に 一度はお渡りがあった のだから」
雪哉を振り返り、若宮は表情の窺えぬ顔で言った。
「分かるか、雪哉。私と四家の姫は、決して男と女という関係だけでは考えられんのだ。金烏と、皇后候補としての関係は、あまりにも重すぎる。そしてそれを理解出来ている乙女が、一体何人あの桜花宮にいるのか」

うーん、唸る。見えてる世界が全然違う。単なるお花畑だけじゃない、というのを後から提示する。面白い。

位置: 2,976
確かに私が行けば彼女達は喜ぶだろう、と、若宮は苦笑の中にも、わずかに真剣な色を乗せて言った。 「しかしこの喜びは、自分が選ばれるかもしれないという、希望的な思いに基づいた喜びぞ。私が選ぶのはあくまで一人だ。自分が、四人のうち、選ばれぬ三人になるかもしれないという現実を、都合よく忘れた上での喜びだ」
こんなぬか喜びがあるか、と若宮は吐き捨てた。 「私を憎むならいいさ。大いにやってくれて構わない。だが、私の軽はずみな行動のせいで彼女達が不幸になったら、私は自分を許せない」

見えている世界が違う人の意見。読んでいる方もハッとさせられます。

第六章 回答

位置: 3,775
「お前が言っているのは、ただの我がままに過ぎんぞ。自分をこう見て欲しい、こう扱って欲しいと、希望通りにしてもらえなかったからと言って、他人に八つ当たりして良い道理にはなるまい」

同じことを言ってやりたい人はこの世に溢れています。

位置: 3,781
雪哉は、視線で射殺さんばかりに路近を見た。 「でもそれは、僕が、僕の一部分として認めているものではないし、勝手に利用されて、平気なものでもないんです!」

でも譲れないワガママというのは確かに存在しますからね。自意識が固まりきらない人間の叫び。ただし、それを尊重せずして社会は成立しない。

解説 大矢博子

位置: 4,003
小野不由美の「十二国記」を読んだとき。上橋菜穂子「獣の奏者」を読んだとき。菅野雪虫の「ソニン」を読んだとき。
どのときも、慌てて他の巻を買いに走ったのを覚えている。世評の高さは重々知っていながら、ファンタジーは苦手だからと手を出さずにいたことを激しく後悔した。こんな名作に乗り遅れてたなんて!

同じこと、思ったなー。まだ間に合います。

By 写楽斎ジョニー

都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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