やはり漢文書き下し調じゃないと、と思う自分もいますが、一方でこれでよいと思う自分もあり。
草むらの中から突然あらわれた、一頭の虎。
なんと、人間の言葉を話しだした!
その正体は、驚きの人物で……。
「彼」は、なぜ虎になってしまったのか!?(「山月記」)
文豪・中島 敦の、教科書にものっている名作を、分かりやすい言葉に改めて、2作収録。
一度は読んでおきたい日本の名作が、角川つばさ文庫に登場です! 【小学上級から ★★★】
本は読まれないといけないし、伝わらなきゃいけないからね。書き下しの語感がとてもいいのは自明の理なので、そこへのアプローチとして改易されるのは悪くないでしょう。
山月記
位置: 298
詩 の 上手い 下手 は 問わず、とにかく、 苦しみぬき、 心 を 狂わせてまで、 自分 が 生涯 執着 したものを、 一部 でも 後世 に 伝えないままでは、 死んでも 死に 切れないのだ。
クリエーターだなぁ。その姿勢、自分にはまるでないので、とても憧れます。
位置: 325
「恥ずかしいことだが、 今 でも、こんな あさましい 姿 となりはてた 今 でも、おれは、おれの 詩集 が、 風流 な 人々 の 机 の 上 に 置かれている 様子 を、 夢 に 見ることがあるのだ。 岩 の 穴 に 横たわって 見る 夢 にだよ。 わらってくれ。 詩人 になりそこなって、 虎 になったあわれな 男 を。」
わらえるかよ。
位置: 393
もちろん、かつて、この 地 の 天才 といわれた 自分 に、 自尊心 がなかったとは 言わない。 しかし、それは 臆病 な 自尊心、とでもいうべきものであった。 おれは 詩 によって 名 を 残そうと 思いながら、 進んで 誰 かに 弟子 入りしたり、 詩人 の 友 と 交流 して、 切磋琢磨 しようとはしなかった。
かといって、おれは、くだらないもので 満足 することも、よしとしなかった。
どちらも、 自分 の 臆病 な 自尊心 と、えらそうな 羞恥心 のせいである。
おのれの 才能 に 傷 があることを 恐れたために、あえて 苦労 してみがこうともせず、また、おのれの 才能 を 信じたために、 平凡 なままで、 満足 することもできなかった。
おれはしだいに 世の中 と 離れ、 人 から 遠ざかり、 不満 と 怒りによって、ますます 自分 の 臆病 な 自尊心 を ふとらせる 結果 になった。
完璧な自己分析。とても悲痛な、無慈悲な結果にはなりましたが、しかし完璧であります。ここまで言語化できたら、もう、何も言う言葉はない。
位置: 428
人生 は 何 もしないにはあまりにも 長いが、 何 かをするにはあまりにも 短い、などと 口先 ばかりで 言っておきながら、 実際 は、 才能 不足 を 暴露 するかもしれないというひきょうな 危機感 と、 努力 を 嫌うなまけが、おれのすべてだったのだ。
おれよりもはるかに 劣った 才能 でありながら、それを 一生懸命 にみがいたために、 立派 な 詩人 となった 者 がいくらでもいるのだ。
これ、数年前の自分だったらガツンと刺さる言動。きっとここ100年の青少年もずっとガツンとやられてきたんじゃないかな。これで才能を試す行為に出られるかどうかだよね。
李陵
位置: 1,849
ようするに、 司馬遷 の 求めるものは、すでにある 歴史 書 の 中 には 見つけられなかった。
位置: 2,214
司馬遷 は、 最後 にいら立ちの 持って 行きどころを、 自分 に 求めようとする。
実際、 何ものかに対して 腹 を 立てなければならないとすれば、 結局 それは 自分自身 に対してのほかにはなかったのである。
だが、 自分 のどこが 悪かったのか?
李陵 のために 弁解 したこと、これはどう 考えてみてもまちがっていたとは 思えない。
方法的 にも、 特別 まずかったとは 考えられない。
この辺の葛藤を文学に昇華させているところが、中島敦氏の見事なところだと思う。
位置: 3,367
最初 の 感動 が 過ぎ、 二日 三日 とたつうちに、 李陵 の 中 に、やはり 一種 のこだわりができてくるのを、どうすることもできなかった。
何 を 語るにも、 自分 の 過去 と 蘇武 の 過去 との 対比 が、いちいちひっかかってくる。
人間の一番強い感情は嫉妬だ、というのはあたくしがよく考えることですが、本当にそうかもしれない。
位置: 3,665
今 でも、 自分 の 過去 をけっして 間違っていたとは 思わないけれども、まだここに 蘇武 という 男 がいて、 無理 ではなかったはずの 自分 の 過去 さえ 恥ずかしく 思わせることを、 堂々 とやってのけ、しかも、その 跡 が 今や 天下 に 表彰 されることになったという 事実 は、どうしても 李陵 には こたえた。
「どうしてもこたえる」というのは、短くもソリッドでいい表現だと感心。本当に言葉が文学的で素敵でいらっしゃる。