あっという間に第三巻。
江戸市中に大被害をもたらした安政江戸大地震の最中、おえいが玉のような赤ん坊を産み落とした。名前はお初。大工の棟梁の秀八は町の復興に大わらわ。そんな中、神田の両親が清洲亭に避難してきて──。さらに、薩摩の隠密に付け狙われている男を助けたり、病気の天狗師匠の跡目争いの騒動が起こったり。溢れる人情が涙を誘う、落語時代小説シリーズ第三弾。
あれよこれよと、いろんなことが起こって、退屈させないエンタメ時代小説。その「いろんなこと」の具合がちょうど良くってね。ページを捲る手が止まらんのですよ。
本筋は寄席経営の大変さなんだけど、そこに細かくサイドストーリーが重ね合わされて、上手に退屈させない。人間関係が複雑なんだけど、読んでいて苦にならないんだよね。筆者の腕といってもいいのではないでしょうか。
第一話 カンペキの母
位置: 598
商家の旦那などには、噺や講釈などをいっぱしにやってしまう「天狗連」と呼ばれる人たちがあって、そういう人が芸を披露する会などもある。
ただ、そういう旦那方の中には時折、その道で生計を立てている噺家や講釈師を大事にしない人があって、秀八は嫌っている。
耳の痛いところではある。もちろん、自分ではその道で生計を立てている人を大事にしていると思っていますが、実際に足りているかと言われると、、、、ねぇ。自分は正真正銘の天狗連なので、気にしてはいますが。
位置: 602
「 素人 が楽しめるのは、玄人があってこそだ。いくら芸自体が上手くたって、しょせん自分が楽しむだけの素人と、生業として人を楽しませる玄人では違うんだ。そこが分からないのは何よりいけねぇ」というのだ。
そうなのよ。それはよく知っているつもり。自主的に戒めているつもりなんだけど。どうかな。
第三話 いよ!まんてんの夜
位置: 2,577
「芝浜本、日本橋末広、神田紅梅亭、両国御禊亭、品川清洲亭」
自分の席の名が呼ばれて、つい背筋がぴんと伸びる。
「この五つの席において、この順に、各席八日ずつ、四代目争い興行を行ってもらうよう、お席亭にお願い申し上げる」
「四代目争い興行……」
「そりゃあ面白そうだな」
若干展開が秋元康的というか、商業主義的というか。これ、粋な計らい、という体で書かれているような気がしますが、結構乱暴だよね。三代目の天狗師匠、なかなか傍若無人というか。
位置: 2,601
「ふうん。しかし、品川じゃあ、旅で来てる田舎の 一見 さんなんかも多いんだろう。そんな素人客にこんな大事な入れ札させるの、どうもおれは気が進まねぇ。 見巧者 の集まる市中の席だけでやる方が……」
見巧者(みごうしゃ)、という言葉、初めて知りました。落語によくある田舎者差別意識。結構あたくしは苦手です。百川とかね。
位置: 3,373
「おまえ……最後だけは、最後だけは、親孝行だったね。やっと……」
お幸の 嗚咽 は、やがて客席の拍手にかき消され、聞こえなくなった。
安政三年十月九日。
三代目九尾亭天狗は、寄席品川清洲亭で息を引き取った。
四代目天狗の門出と、息子木霊の再出発を、見届けての最期だった。
いいシーンだ。ジーンとくる。エモい。この辺の行間が、小説のいいところだよね。映像ではどうも、しっくり来ないんだよね。
特別収録 阿部知世×奥山景布子 スペシャル対談
位置: 3,436
池波正太郎先生の「(人間は)悪いことをしながら善いことをし、善いことをしながら悪事をはたらく」(『 鬼 平 犯科帳 8』文春文庫)という言葉を読んだ時、その通りだなと思いました。
ここ、みんな好きだよね。あたくしも大好き。人間だからね。それを絶望ではなく諦観、しかもやや愛情をもって見つめる。これが池波イズムだと思うんですよね。