短い小説なので、夏の夜に読むとちょうどいい。
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著者: 室生 犀星(1889-1962)
あまり文庫にもなっていないようで、青空文庫くらいしか見つからなかったのですが、どうしてなかなか、怖くていいです。
男はこんどは女の方を向かないで、鑿のさきでコツコツと細部の彫りものにかかりはじめ、再度と女のほうを向かなかった。女はその俯向きになって仕事をはじめた男をみると、二分ばかりもじもじと何か男の気に入るようなことを言おうと、心のうちでさがしたが浮ばなかった。女は音のしないように障子をひいた。白々と閉まった。男はそのときやっと安心したように目をやると、また仕事台にむかった。
女は自分の室にかえると、ぺっとりと糊のように坐って、手を膝の上においてぼんやり何か考えこんだ。
at location 71男は何気なくふと女の眼を見ると、すぐ驚いた。それはあまりに劇しい凝視と、気でも狂れたひとのような怪しい光とをもっていたからである。そのとき、女は立って鉋屑をつめこんだ俵のなかを指さした。 「あのなかに這入っていないでしょうか。わたしにはそう思えるんでございますが……。」
at location 194
淡々と進む物語、同じ速度で迫る嫌な雰囲気。
ホラーではなく、怪談ですな。
夏はこの手の本を読んで、ちょっとひやっとして、でもやっぱり暑くて寝られなくて、うだうだしているうちに深夜。
そんな夏の夜の定番コース。