この国はどうなるのか。憂国というほどのことじゃないけど。
年金局長、雇用均等・児童家庭局長等を歴任し、その間、介護保険法、子ども・子育て支援法、国民年金法、男女雇用機会均等法、GPIF改革等数々の制度創設・改正を担当。さらには内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめるなど、社会保障改革と闘い続けた著者による書き下ろし。
内容は本当にためになるし、面白かったのですが、後半は若干内容がタイトルと違いますね。読みながら「教養として」という感じはまるでしませんでした。「元官僚による社会保障のこれからのすゝめ」みたいな感じ。
ただ前半から、通して、めちゃ面白かった。
位置: 425
政治や経済の専門家でもない普通の市民=一般大衆である私たちには、わざわざ時間を使って頭を使って政治や経済の難しい話を勉強しても、選挙で行使できるのは一票で、結局は中身よりも知名度の高い候補が当選してしまいます。これでは、大事な私の時間を政治や経済の勉強に使う意味がない、自分の趣味や家族のことに時間を使う方が合理的、と考えて、あえて、つまり「合理的な選択」として小難しい政治や経済の話には関心を払わない、無知のままでいる、という選択をする。これが「合理的無知」と言われるものです。位置: 440
人々=一般大衆は政治や経済、それ以外でも何らか専門知識を必要とする事柄について、自分で考えること、判断することを事実上放棄しています。そうすると、全体を見る、ということのないまま、他のみんながそう言っている(らしい)ことを短絡的にそのまま鵜呑みにするようになります。 何が正しいかではなく、みんながどう思っているか。もっと言えば、自分たちがどう思いたいと思っているか、で物事を判断する。「人間は自分が信じたいと望むようなことを自分から望んで信じる」(ジュリアス・シーザー『ガリア戦記』)ということです。
これは実際、政治の現場にいる人でないと、いやいる人であっても、陥りやすいというか仕方がないところ。結局、使える時間が有限であるから、その中で合理的に生きようとすると政治に対して無知であるようになる、もしくは信じたいものしか入れたくなくなる。んですな。合理的無知、パワーフレーズやね。
位置: 482
スウェーデンのみならず北欧国家はいずれも一般に思われているほど「優しい」社会ではありません。企業競争も厳しいし、効率性重視の非常にドライな社会です。スウェーデン政府は2009年、経営危機に陥ったサーブ(SAAB)──スウェーデンを代表する大企業でした──からの経営支援要請を拒否し、救済しませんでした。「高福祉」は北欧諸国の一面に過ぎません。位置: 485
スウェーデンの学校では、社会保障が社会にとって必要不可欠である理由を社会の成り立ちに遡って教えています。非常に簡単に言うと、人は一人では生きていけない、人は誰でも「何者か」でありたい、意味のある人でありたい、社会というのはあなた自身のものでもあり、あなた自身のことであるということを教えています。法律と権利、あなたと他者、あなたと家族、コミュニティーと人々の役割、教育、子ども、結婚、離婚、障害者、老人など、身近なところから順々に社会の様々な姿を教えた後に、つまり、社会の全容を理解した上で、政治の仕組み、そして最後に社会保障について学ぶシステムになっています。それが、社会保障の重要性についての国民の合意形成の下地になっています。位置: 996
スウェーデンの病院は「出来高払い」ではなく「総予算制」なので、一年間に実施できる手術数はほぼ決まっています。したがって、手術のための長期間の待機があります。
スウェーデンの社会科についてはいずれ読みたいと思っていたところ。早速Amazonのほしいものリスト入りです。北欧をそれこそ神話のように崇める人たちっていますからね。スウェーデンの医療というのも、難しそう。
位置: 565
これは「共助」であって国が助けてくれる「公助」ではありません。そのための「割り前」が保険料です。だから社会保険料は英語では「social security contributions(貢献)」と言うのです。
社会保険のこと。とはいえ半分は税金で、つまり公助が入っているというのは読めば分かることなんですが。
位置: 1,298
10 万円以上(現在価格で約5000万円以上)の財産を保有する個人に課せられ、最高税率は 90%(資産1500万円超)に達しました。資産家から徹底的に財産を召し上げた凄まじい課税です。連合国の占領下だからこそできたことに違いはありませんが、財閥を解体し、華族制度を廃止し、華族にも皇族にも、天皇家にも課税しました。1948年春に発表された財産税の納税番付のトップは天皇家です。天皇家は 37 億4300万円を納め、残りの皇室財産は国有財産になりました。秩父宮、高松宮、三笠宮を除く 11 家 51 人の皇族が巨額の財産税を支払った上に皇籍を離脱しました。
戦後日本がいかにして「最も成功した社会主義的医療制度」と呼ばれるまでのものを作ったのか、という話。焼け野原で貧富の差が少なく、また、富んでいるものを押さえつけられる力が外部にあったため、ってことなんでしょうな。再現性は極めて厳しそう。
位置: 1,733
インフレを継続させれば経済を安定成長させることができると信じるリフレ派
結局、現政権側のおじさんたちはマクロなものの見方が好きすぎるんでしょうな。だからインフレだーリフレだーとなる。そこに違和感を覚えるあたくしなんざは、ちょっとついて行けない、と思う。こういうことか。
ちなみに、政治の話は苦手です。
どうして政治の話は難しいのか。好きな芸の話とか映画の話、音楽の話ならいいのに。話す方も話される方も、どっちもいい気持ちにならないのが政治の話。
普通に接するなら良い人なのに、政治のこととなると途端に融通の効かない人っていますでしょ。あれね、不得意。ノンポリなどと言われようが、あたくしは政治の話は避けたい。
強いて言うならあたくしゃ、野党を指示するというのが政治思想かしら。
誰だって信用できないし、誰かの方を強烈に持つということもない。だからこそ「ヘマしたら変えられる」という危機感を政権側に持ってもらうことくらいしか、自分から直接できる政治はない。
あとは、自分の主義主張を生き方で現していくこと。これに尽きますな。
位置: 2,643
申し上げたように、そもそも、「少子化対策」という言葉自体が、マクロの発想の上から目線の言葉に聞こえます。言われた女性はあまり気持ちよくないはずです。私の娘たちも批判的です。少子化対策のために子どもを産みましょうと言われたら、私たちは子作りマシーンじゃないよと、そうなります。 「あなたの人生選択を保障します」「仕事も、家庭生活も、子育ても、あなたの人生を全力で支援します」というメッセージがなければ共感は得られない。少子化対策ではなく、家族政策であり、家族・子ども政策でなければ、女性の就労率の上昇も、出生率の上昇も望めないと思います。
少子化対策ではなく、家族政策であると。そのとおりね。どうしてもおじさんは上から、マクロからの視点が好きすぎる。
位置: 3,063
いろいろな働き方をする人がいるのは、本人の都合だけではなく、社会や会社がそのような働き方を必要としているからです。働き方の多様性を容認し、「落ちこぼれ」や「排除される者」をつくらない制度を設計し、社会統合を実現していくのが政府の責務です。
それが上手く行っているかどうかの一点において、政治を評価するという考えも出来ますね。
位置: 3,390
現場行政官の戒めに「できる限り多くの現場に足を運べ。そしてたくさんの人の声を聞け」というのがあります。もちろんこれは当たり前のことですが、これには続きがあります。 「そうすれば、現場の何が真実で何が噓だか分かる」。 「現場には真実がある。だが同時に、現場は往々にして噓をつくことがある」。 これは、多くの行政官の実感です。現場の何が真実で何が真実でないか。
いい言葉ですな。現場には真実があり、また現場は往々にして嘘をつく。至言です。これは行政官に限らず。人間は嘘をつく生き物ですから。
いい本でした。至言に満ちた。