あるある。ジャケットは詐欺ですが。

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ハガキ職人の世界描いたコメディー小説!

第15回小学館文庫賞小説賞受賞作。イマドキのオタクにスポットを当てたリアルな新感覚青春ユーモア小説。
広島県在住の高校二年生、高木正広は、筋金入りのラジオ番組のハガキ投稿オタク。今日もネタ帳とにらめっこ。クラスの女子は気味悪がって近寄ってこないが、そんなことは全く(全くでもないが・・・)気にならない。厳選したネタを、深夜のラジオ番組に投稿することが使命なのだから。深夜ラジオでは、ちょっと名の知れたハガキ職人。ラジオネーム・ガルウイング骨折として、全国のラジオリスナーにその名を轟かせている。そんな高木が東京のハガキ職人たちと対決することに。運命の歯車が狂い出す。

あたくしもラジオ投稿に青春を捧げたクチですので、非常に共感出来る。
はがき投稿型のオタクもなにも、あたくしの頃にはまだメールで投稿という手段が普通じゃなかったですからね。

位置: 108
「よろしくお願いします」 「では、一通目いきましょう。広島県のラジオネーム、ガルウィング 骨折」  名前を聞き、ギクリとした。正確には「広島県」と読まれた時点で、少し心臓が跳ねている。

あの瞬間の血液が逆流するような感じ。最近はもう感じませんが、嬉しくって恥ずかしくって。思ったよりウケなかったりして。懐かしいなー。

位置: 372
「採用率高いよ、それ」 「マジっすか」 「うん。ひとつの番組に百通以上送ってる人もいるよ」 「百って! ハガキで送るんですか、それ」 「どうだろう。

そういうことを話し合ったりする場が、当時もあったら良かったのにね。昔はまだオフ会とかハードル高かったからなー。

位置: 591
落ち着け。まず、未来を思い浮かべよう。なるべく漫画のような世界。着ている服も今とはまるで違うだろう。  フリップにペンを走らせる。勢いに任せ、ままよとばかりに右手を挙げた。 「はい、ガルウィングさん」 「『パリコレの写真集が、絶滅した珍獣というタイトルで売られている』」  最初にクスクスと含み笑いがあった後、会場が大きな笑いに包まれた。 仰け反っている人、口を覆っている人、様々な笑いだ。  その光景に息を 吞 んだ。俺が笑わせた。先ほどの自己紹介など比べものにならない、風圧のような爆笑。なかには無表情の人もいるが。

そして、あたくしもいい歳になってから、この手の大喜利大会とか出ましたけど、あの生で受ける感じって病みつきになるんですよね。沼が深すぎてそこまでのめり込むことを避けてしまいましたが。

位置: 617
ここでもシャッチョさんが先陣を切った。藤本さんが即座に指名する。 「シャッチョさん」 「えー、『点滴のチューブをハート形に巻く』」 「バカンス気分か!」  端末に、フリップに描かれたシャッチョさんのイラストが映った。言葉だけでは伝わりにくいと思ったのだろう。味のある絵だ。  流れを完全に把握した職人達が、フリップにペンを走らせ始めた。俺も負けじと挙手する。 「ガルウィングさん」 「『仏壇の盛りかごをウェルカム・フルーツと呼ぶ母』」 「バカンス気分か!」  フリップに書いている時点で手応えがあった。予想どおり、会場には爆笑が響いた。正直言って、ものすごく気持ちが良い。

作中のネタも、結構よく寝られてて好感を持てます。深夜ラジオのいいノリがそのまま筆に載ってる。頷きながら読んでしまいました。何様か。でも、気持ちよさそう。

ハガキ職人をやってた(というかハガキ職人を名乗ったのは最近で、昔は仲間だけでこっそりやってたし職人の自負などサラサラなかった)青春を送った人間なら誰しも分かるんじゃないですかね。いや、誰しもは嘘だな。

同じラジオが好きでも、全然話の合わない人とか沢山いるし。

位置: 641
「二位だって。ほら」  驚いて、渡された用紙を見る。確かに一位と僅差の二位で自分に票が入っている。集計表の下に重ねられた投票用紙の備考欄には、丁寧な評価が書かれていた。 『十代なのに引き出しが多い。回答率は少ないが冷静に笑いをとりに来る』 『ラジオでの長文のクセがあるみたいなので、短文でバシッと決められるようになったら大喜利向きに化けそう。今後の期待も込めて一票』 『ウェルカムフルーツでやられた』  結果が二位だったことよりも、そのひとつひとつの言葉が嬉しかった。今までやってきたことを肯定されたような 清しさで胸が満ちる。

眼の前で、自分のネタでウェーブが起こる快感というのは、他じゃ味わえないんですよ。落語もそう。そういう意味じゃ、あたくしは落語に救われたな。落語がなかったらまだハガキ職人を続けて沼に嵌っていたかも。

位置: 654
「彼、アニラジでしょ」  引っかかる言葉だった。明らかに小馬鹿にした物言いだ。  アニメラジオのハガキ職人は職人じゃないとでも言いたいのだろうか。俺はその考えには賛同できない。  職人は番組で優劣が決まるわけではない。最終的にそいつがどれだけ面白いか。それだけだろう。確かにグルッペさんは二問目で苦戦していたが、職人にも得手不得手なジャンルというものはある。

あたくしもラジオが好きになったのは『佐竹・林原の無法塾』からで、全然西友とか格闘技とか好きじゃなかったのに聞いて、それからどんどんアニメに嵌っていった的なところがあるので、この下りは聞いていて痛い。TBSやオールナイトだけがラジオじゃなくて、ちゃんと文化放送もあるんです。文化放送は落語も凄いし。

位置: 883
「ざっくり言うと、オフの人間関係が原因てとこかのう。ボルマークさんは、こがなことが煩わしくて表に出てこんのかもな」 「そうなん」 「ラジオを純粋に楽しむって点で、その姿勢が正しいかもなあ。あ、でも、他の曜日には投稿続けるけぇ」 「高木君は──ガルウィングさんは、自分のネタで誰も傷つけとらん思う?」 「……え」  俺は、榊さんの言葉の意味が分からなかった。  榊さんはかき氷を飲み干すと、ベンチから立ち上がった。そろそろ休憩時間が終わるようだ。

もしあたくしが共学に行っていたら、こんな会話をクラスメートの女子としていただろうか。バラ色だな。そして榊さん、ブスかも知れないけど、可愛い。

位置: 1,065
つまり、榊さんは「自分の悩みを吹っ飛ばすくらい笑えれば良し」と言っているのだ。それがたとえ、自分をネタにしたコーナーであろうと。  だが、それが笑えなかった時は。  すうっと背筋が寒くなるのを感じた。榊さんは笑っている。 「綱渡りじゃね。毒 吐けばええと軽く見とる人は綱から落ちる」 「シャッチョさんは」  榊さんは笑っている。

「イジり」と「イジメ」は紙一重ってね。人を蹴落とした笑いというのは質が悪いです。肝に銘じなくては。

位置: 1,076
「高木君は高木君の好きなようにすればええか。人それぞれじゃもんねえ」  微苦笑する榊さんを見て、俺はなぜ彼女が美少女ではないのかと失礼なことを考えていた。これで榊さんが美少女だったら、間違いなく恋に落ちているのに。女子の家に来ているという点は、俺にとっては奇跡なのだが。

愛した人がブスだった、という論理が成り立たないのが童貞で中学生ですよね。分かります。ブスだと愛せないわけですよ。

位置: 1,392
「ハガキ職人てなんなんじゃろね」 「え」 「給料が出るわけやないし、自分で職人言うんも何か違う気がするし、作ったネタが後世まで語り継がれるわけでもないし、パーソナリティに町ですれ違うても挨拶もされんよ、きっと。まず顔が分からんじゃろし」 「うん」 「けど」  僅かに 灯されていた照明がふっと落ち、緞帳がサーチライトに照らされた。皆がのろのろと体育座りをする。話の続きを促せるわけもなく、俺達もそれに倣った。

ほんに、なんじゃろか。
あたくしは、一体、なんであんな不毛なこと、金を払ってしていたのだろうか。謎である。

位置: 1,558
書きたい。俺もこのコーナーに投稿したい。負けたくない。俺だってやれる。シャッチョさんより面白いネタを送ってやる。  血が全身に急激に巡ったような感覚。今すぐ外へ出て、走り出したい気分だ。だが、その時間も惜しい。誰かを傷つけてしまうかもしれない。そんな仮の話で何もできないなんて、やっぱり、ただ自分が怖いだけだ。  ノートを開き、シャーペンで「はじめの村」と記入する。村という字から枝分かれの線を引く。川。ホタル。呪い。杉林。芝刈り。レジャー施設。郷土料理。過疎。村から連想される言葉を手当たり次第に書く。何が種になるか分からない。研ぎ澄ませろ。連結させろ。そこから飛躍させろ。シャッチョさんみたいに。なんだよあの人。大嫌いだよ。人を小馬鹿にしてさ。こっちがちょっと活躍すると態度変えて擦り寄ってきて。懐古主義で。自分のやり方以外は認めないタイプ。クソつまんねえウェブラジオやりやがって。腹立つよ。投稿が面白えのだけは認めるけど。面白えよ。参るよ。尊敬してるよ。大嫌いだよ。

結局、誰も傷つけないというのは理想であって非現実的なんですよね。傷つけながら生きていくというのが人間の業なわけです。快楽と犠牲がどこかで表裏一体なのです。

だからって何もしなくていい理由にはならないし、好き勝手やっていい理由にもならない。難しいね、どうも。

位置: 1,727
でも、みんなこんなふうに笑ってくれている。  ハガキ職人は給料が出るわけじゃないし、自分で職人と名乗るのも違うし、作ったネタが後世まで語り継がれるわけでもないし、パーソナリティに町ですれ違っても挨拶もされない。けれど、深夜のほんの一瞬だけ、日本で一番くだらない奴になれる。

結局キレイにまとめましたけど。作者にとっては、タカギくんにとっては、そうなんでしょう。あたくしは……すこし彼のとも、違うかな。でも、なんざんしょ。そこに面白さが要求されているから、ってか。

ほんと、なんざんしょ。

投稿者 写楽斎ジョニー

都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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