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叙述トリックとしてはあまり感心できない。
この本はそこがポイントではないのでしょうけど。
人に不用意に近づきすぎないことを信条にしていた大学一年の春、僕は秋好寿乃に出会った。周囲から浮いていて、けれど誰よりもまっすぐだった彼女。その理想と情熱にふれて、僕たちは二人で秘密結社「モアイ」をつくった。――それから三年、あのとき将来の夢を語り合った秋好はもういない。そして、僕の心には彼女がついた嘘がトゲのように刺さっていた。傷つくことの痛みと青春の残酷さを描ききった住野よるの代表作。
住野さんって「なろう作家」なんですね。知らなかった。じゃあラノベなのか?
出版は2018年。少し前。あたくしが大学生だった10年後ですね。
共感できるかっつーと難しいところですが、この話って誰も彼も良いところ悪いところあって、結局「誰が一番許せないか」みたいなところに落ち着くんだと思うんですよね。
この話で一番クズだなぁと思うのは田端くんですね。復縁とかないでしょう。途中まではまぁ、叙情酌量の余地があったんですが。その後の立ち振舞いはナシ。
逆にいい人だなぁと思うのは、いませんね。ただその感じが好ましくはあります。誰も善人にせず、話を単純化しないという点で。
ただ、脇坂とかいう人は判断しかねますね。なんなんだ、こいつ。
位置: 222
「どうしてもやりたかったら自分で作ったらいいかもね」
冗談のつもりで僕が言ってあげた気休めに、ハンバーグを口に入れた秋好は声をあげた。
「んー!」
「……何?」
「そうか、作れるんだ!」
秋好は口の中のものを飲み込み、例の目で僕を見つめた。まずいことを言ったのは、分かった。
「団体。そっか自分で作れるのか。どうして今まで気がつかなかったんだろ」
SOS団でも作るんか。
位置: 738
友人がアポイントメントを取っている間、僕はSNSでモアイの名を検索してみていた。ハンドルネームでモアイに所属することを表しているアカウントをいくつも見つけ、覗いてみるも自分達がいかに気高い意志を持って大学生活を過ごしているのかアピールする写真やコメントばかりが見つかり改めて 辟易 した。モアイの活動は、誰かに見せたくてやるようなものじゃない。
自分が原理主義者化していることに、あまり無自覚な感じ。まぁ、あるよね。若さかな。
位置: 1,646
ないということもあった。
「あの人、社会人と付き合って、まあ悪く言えば捨てられてること多いみたいですけど、相手を悪者にしないようモアイの中では全部自分がふってることにしてるんですよね。あ、もちろんそんな言い方はしてなかったですけど、要約するとそういうことみたいです。いや、いいっすね」
声のトーンは変わらないが、言葉数で少しばかりテンションが上がってると分かる川原さん。かっこつけている男が好きだとは意外だと思ったけれど、そうではないらしかった。
「最高に自分に酔ってる感じで、すげーいい」
「……前も言ってましたけど、それ、いいんですか?」
川原さんはグッと頷いた。
「自分に酔ってる人が、他人を酔わせられるんすよ。モテるのも、一枚上手の大人に手出されるのも、分かんなって感じでした」
そういうもんかね。あたくしにはその手の可愛らしさがなく、また陶酔している自分に恥ずかしさを覚えてしまうんで、まるでわからないけど。モテるんなら羨ましいな。
位置: 2,395
「ああそうだ、ポンとは仲良くしてやってくれよ。あいつ、特に楓とはまた違う人種かもしれないけど、良い奴なんだ。ちょっとこずるくて、寝たふり上手過ぎるけどな」
色々知ってたらしい、と董介は笑った。僕はまた一歩下がる。
「テンとももうちょっと話してみたらいんじゃね? モアイのテンって思うと、敵に思えるかもしれねえけど、同学年の天野だって思ったら、違うかもよ」
こういう董介の善人なところ、好きじゃないですな。
取り繕うなよ、ってね。いい人だろうけど。
あと、ポンはどんな立ち回りをしたのか。
二重スパイだったのか?どうでもいいけど、伏線が中途半端で気持ち悪い。
このあたりがミステリとしてはキレイじゃないんですよね。
位置: 2,444
「なんで……」
その顔も声も秋好だった。でも僕は知っていた。そこにいるのは、僕が出会った秋好ではもうなかった。理想を捨て去った、面白くもないただの大学生がそこにいた。
勝手に失望するやーつーね。
あるよね。まぁ若いな。他人に期待しているうちは若いよ。
位置: 2,560
その記事を読んでみると、どうやら週刊誌としてはモアイがそういったことをしていたということよりも、企業が学生から罪の意識なく連絡先を受け取っていたことを問題としているようだった。その記事には何をどこで調べ上げたのか、関係者からのコメントでモアイメンバーを面接で優遇していたという証言が載せられていた。この記事によってスキャンダルを知った人々がモアイや企業を悪だとネット上で論じる理由は、むしろ後者が原因だったのではないかと思う。人というのはおかしいほど、自分より誰かが得していることを許せない生き物らしかった。
さもしい根性だが、まぁ、悪いのはモアイだもんな。
国民性なのか。世界的にそうなのか。
叩きやすい溺れた犬を探すのは性なのかもしれない。
位置: 2,605
とっくに変わっているだろうと思っていた秋好の電話番号。望めばすぐにでも彼女との対話ができてしまうことに戸惑いつつ、僕は、事態が僕の想像すらしない方向にいよいよ進み始めたのだということを感じた。
まさか、ここまで手加減のない者がいるとは思わなかった。
ひょっとしたらそろそろ僕が事態を拡大させる行為から手を引くべきなのかもしれないと、ちらり思った。しかし確認すると、画像はすでに拡散されており、僕一人の力では止められないだろうことを悟った。
もう一度、二人の写真を見る。
この笑顔は、不正を働き、人を傷つけ、理想を捨てたうえに、成り立っている。
自分自身の意思だったのか、大勢の意見に身を任せたのか。僕もまたその画像と情報の拡散に、一つ手を貸した。
ここまで来てしまったのは、僕のせいではない。
モアイが、批判を受けるに足る悪だったのだ。
そう理解できると、クリックする指が極めて軽い調子で動いた。
持て余しているよ。器と規模が釣り合っていない。分相応はとても大事。
器が小さいことが、けっして悪いことではないと思える程度にはあたくしも大人です。
人には分相応が大切だ。
位置: 2,718
だから、僕のことを思い出してほしいだなんて思っているわけじゃない。ただ、特別だった人間に戻ってほしい。就活のための人脈作り、そんなことに奔走するつまらない大学生でいてほしくない。そんな程度の人間じゃないことを僕は知っている。
いや、これね。嘘だと思いますね。
多分本当は秋好に認められたかったんじゃないかな。誰よりも。
秋好のため、といいながら本当は自分のためだよ。
位置: 2,750
今もまだ僕だけは、理想を背負って噓を覆そうとしている。寄り道はしたけれど、自分を自分のまま、理想を追える自分で今、いられている。
自分を初めて、少しだけ肯定してやれるような気がした。
そういっている今、君はテンよりも有頂天で陶酔している。いいよ。川原さんにみせたいね。
位置: 2,827
「……もう、単刀直入に言うね」
その前置きに、 怯えなかったと言えば、噓になる。
起こってもいないことに怯えるなんてバカバカしいのだけれど、人生を振り返れば予測した悪い未来は半々くらいの確率で来てしまう。だから人はいつまでも怯え続ける、そういうものだ。
今回だって、そうだった。 「ここにいるの、偶然じゃない、よね?」
若いなぁ。この辺、好きだなぁ。
位置: 2,962
「約束したじゃん、嫌になったらやめていいって。だからだよ、それに何度だって 訊いた、このままで良いのかって。でもその時に何も答えなかったくせに、今さらになって、報復みたいなこと、人として、間違ってる」
まぁ、秋好に勝ち目はないよ。
しかし主人公の楓も人としてどうかとは思う。自分が正しい立場にいるときにどう振る舞えるかが、その人の人間性だからね。
位置: 3,213
でも、ずっと前にあいつには、僕という間に合わせなんて必要なくなった。代わりに、僕なんかより余程自分を肯定してくれる、たくさんの間に合わせが出来た。
だからなに?それってそんなに失望することか?
全然パワーワードじゃない。
それをパワーが有るように感じるのが若さかなぁ。
位置: 3,474
そこにいるのかは、分からない。いたとして、僕に何が言えるのかは分からない。
それでも僕は、会わなければならないと思った。
脇坂に、ね。
この脇坂という人物のことが最後まで分からないんだ。
位置: 3,509
脇坂は待ってくれていた。僕は、息を余分に吸って、声が上ずるのも構わずに、伝える。
「秋好が」
伝える。
「僕のことだけを、見てくれなくなる、と思ったんだと、思います」
ここまで自力で言語化できたってのは、すごいけどね。
そんなことなかなか言えないよ。気付いてもかっこ悪くて言えない。
今更ではある。この今更を楽しむのが、この本なのかな。
あたくしは楽しく読めました。しかし、まぁ、なんだろうね。
モヤッとはするね。脇坂って何者かね。