なんともいえない、奇想天外な書。奇書ではないのか。
藪の中で踏んでしまった蛇が女になり、わたしの部屋に棲みついた。夜うちに帰ると「あなたのお母さんよ」と料理を作り、ビールを冷やして待っている──「蛇を踏む」。うちの家族はよく消えるが、上の兄が縁組した家族はよく縮む──「消える」。背中が痒いと思ったら、夜が少しばかり食い込んでいるのだった──「惜夜記(あたらよき)」。神話の骨太な想像力とおとぎ話のあどけない官能性を持った川上弘美の魅力を、初期作ならではの濃さで堪能できる、極上の「うそばなし」3篇。
合う合わないで、結構人を選びそうですよね。
あたくしは、、、、まぁ、作品によるかな。『蛇を踏む』は楽しく読めましたが、『惜夜記』はちっとも。
消える
位置: 593
このごろずいぶんよく消える。
いちばん最近に消えたのが上の兄で、消えてから二週間になる。
消えている間どうしているかというと、しかとは判らぬがついそこらで動き回っているらしいことは、気配から感じられる。
はぁ?ですよね。そうなります。
出オチ感ってんですかね、今の言葉で言うなら。なんそれ?ってなる。
そこから、物語に惹きつけられるかどうかが肝ですよね。「消える」については微妙なところでした。
位置: 840
兄はしばらく沈黙してから、低い声で「俺の愛は団地でいちばん大きな家の面積よりも広い」と言った。ヒロ子さんの背後からぱちぱちと拍手の音が聞こえた。その拍手の音を聞いて、私たちも拍手を返した。拍手はいつまでも続き、拍手の合間にヒロ子さんの鼻の音がときどき響くのであった。
やっぱり冷静に読むと「なんそれ」ですね。
惜夜記
位置: 964
背中が痒いと思ったら、夜が少しばかり食い込んでいるのだった。
またそれね。
あとがき
位置: 1,610
何かを書くのは大好きなのですが、ほんとうにあったことを書こうとすると、手がこおりついたようになってしまいます。
ほんとうにあったことではないこと、自分の頭の中であれこれ想像して考えたことなら、いくらでもつるつると出てくるのですが。
自分の書く小説を、わたしはひそかに「うそばなし」と呼んでいます。
イカれてる、とも言える。
なんとも不思議な作品でした。