『星を継ぐもの』 ハード、あまりにもハード……

これほど方々からオススメされてしまっては、読むしかないのです。

月面調査隊が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。すぐさま地球の研究室で綿密な調査が行なわれた結果、驚くべき事実が明らかになった。死体はどの月面基地の所属でもなく、世界のいかなる人間でもない。ほとんど現代人と同じ生物であるにもかかわらず、5万年以上も前に死んでいたのだ。謎は謎を呼び、一つの疑問が解決すると、何倍もの疑問が生まれてくる。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見されたが……。

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居島一平さんのオススメ、『バーナード嬢曰く』でのオススメ、知人からのオススメ……。
どれも信頼するに十分に足りるので、とにかく読もうと。買って積んであったのを(kindleだから積むというのはおかしいけど)貪り読みました。

しかし、難解。とにかく難解。
確かにSFには綿密な世界設定が不可欠ではあります。これを怠ると感情移入のしどころがぼやけて、全く面白くない他人の夢を見させれているような気持ちになりますから。とはいえ、それを細々と説明されるのもどうかと思うのですよ。

歴史上のその一時期を通じて二十世紀の置土産だったイデオロギーや民族主義に根ざす緊張は科学技術の進歩によってもたらされた、全世界的な豊饒と出生率の低下によって霧消した。古来歴史を揺がせていた対立と不信は民族、国家、党派、信教等が渾然と融和して巨大な、均一な地球社会が形成されるにつれて影をひそめた。すでにその生命を失って久しい政治家の理不尽な領土意識は自然に消滅し、州国家が成熟期に達すると、超大国の防衛予算は年々大幅に削減された。新しい核爆弾の登場は、要するにいずれはそこに至るであろう歴史の流れを速めたにすぎなかった。軍備放棄はすでに全世界の合意に達していた。
at location 328

これくらいはね、許容ですよ。むしろ必須の説明。
なるほど、ユートピアに近い人類の進歩が説得力をもった形で説明されてます。文章もきれい。

今からおよそ二千五百万年の昔、ミネルヴァの大気中の二酸化炭素濃度が急激に高まったのだ。何らかの自然現象によって岩石の化学組成中のガスが放散されたか、あるいは、ガニメアンの活動に何かそのような現象を惹起するものがあったのであろう。ガニメアンが異星生物の種をそっくり移入した理由もこれで説明される。その最大の目的は、二酸化炭素を吸収し、酸素を生成する植物で惑星を覆い、大気のバランスを回復することであったに違いない。動物はエコロジーの均衡を維持し、植物の成長を助けるために狩り出されたにすぎまい。しかし、この試みは失敗に終わった。惑星固有の生物は新しい環境に適応できなかった。そして、抵抗力のある異星生物が競争相手のいなくなった新世界で盛大に繁殖したのだ。
at location 3471

ちょっとづつ難解になってきたぞ……。
と、そのうち、ものすごい科学的な考証であったり、読んでいながら1mmも頭に入ってこない説明を延々としていたりします。意味わかんないなりに気持ちいいときもあるけど、個人的には冗長に感じるときのほうが多かったです。

ハントとスタインフィールドはその日の午後と翌日いっぱい、調査報告や計算結果を何年分も溯ってつぶさに検討した。二日目の夜、ハントはついに一睡もせず、煙草を一箱空にし、コーヒーを何杯も何杯も飲みながらじっとホテルの壁を見つめ、新しく得た知識を頭の中で考えられる限りあらゆる角度から分析した。
at location 1964

これだけ人類が進化していても、タバコとコーヒーは止められないのね。ここはちょっと好き。ホーガンさんも、ここは譲れないところなんでしょう。

十全の論理を求めるならば、なお考慮されなくてはならないいくつかの事実があります。これを整理すると、以下に提出する疑問にまとめることができます。
一、チャーリーがミネルヴァから月まで僅か二日で到達している事実をどう説明するか?
二、兵器の性能についての疑問。ルナリアン文明の技術水準を考慮する時、月とミネルヴァを隔てる距離で、それはいかなるシステムで正確な照準を得ることができたのか?
三、放射から命中確認までの時間差が、その距離から算出される最低所要時間二十六分を大幅に下回っていることをどう説明するか?
四、月面に立ってチャーリーはいかにしてミネルヴァ表面の状態を詳細に識別し得たのか?」
ハントはスクリーンの中から一同を見つめ、彼らがそれらの疑問をとっくりと吟味するのを待った。彼は煙草を揉み消すと、カメラに向かって身を乗り出し、デスクに両肘をついた。
「わたしの考える限り、これらの一見あまりにも現実からかけ離れた要件をすべて満足させる説明はたった一つしかありません。それをこれからお話しします。宇宙黎明の太古から、この出来事が起こった五万年前まで、ミネルヴァのまわりの軌道を回っていた月と……現在地球の空に輝いている月は……唯一無二、まったく同じ月に他ならないのです」
at location 3830

……っこまっけぇ!!
イライラするくらい細かい。そこらの本格ミステリよりも本格的ですよ。ミステリの穴を潰すように、一つ一つの穴を明示して潰していってる。ホーガン先生、あんた病気だよ。

高等な猿から人間に進化する過程を示す各種の化石が地球上で発見されているが、それらはいずれも支流に属するものであり、猿とホモ・サピエンスを直接結びつける動物はついにミッシング・リンクとされたまま今日に至った。が、今、われわれはその失われた鎖の輪を手にしたのである
at location 3798

そして最後にはミッシングリンクの説明まで。
確かにすごい本でした。好きか嫌いかでいうとそんなに好きじゃないけど。でも本気なのは間違いない。カロリー高すぎ。とても今の自分にゃ食いきれません。

これがハードSFか。あまりにも硬すぎてちょっと疲れました。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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