『それから』感想② ほんまもんの高等遊民やな #それから #夏目漱石

金持ちしかニートになるべからずっちゅーことすか。

位置: 505
代助は月に 一度 は必ず 本家 へ 金 を貰ひに行く。代助は 親 の 金 とも、 兄 の金ともつかぬものを 使 つて生きてゐる。 月 に一度の 外 にも、退屈になれば出掛けて行く。さうして子供に 調戯 つたり、書生と 五目並 をしたり、 嫂 と芝居の評をしたりして帰つて 来る。

こんな身分でも、女中がいて、書生がいて。
金持ちに生まれてニートをやるというのはこんなにも余裕が違いますか。格差の違いというのが身にしみますな。

またこの家というのが余裕なんだ。裏山しい。

位置: 528
縫 といふ 娘 は、何か云ふと、 好くつてよ、知らないわと答へる。さうして日に何遍となくリボンを掛け易へる。近頃はヷイオリンの稽古に行く。帰つて 来ると、 鋸 の 目立ての様な声を出して御浚ひをする。たゞし人が見てゐると決して 遣らない。 室 を 締め切 つて、きい〳〵云はせるのだから、 親 は可なり上手だと思つてゐる。代助丈が 時々 そつと戸を 明けるので、 好くつてよ、知らないわと 叱られる。

この、『猫』にも通ずる皮肉たっぷりに語る日常風景ね。漱石ファンにはたまりません。

位置: 574
親爺 は戦争に 出 たのを頗る自慢にする。 稍 もすると、御前 抔はまだ戦争をした事がないから、度胸が 据 らなくつて 不可 んと一概にけなして仕舞ふ。恰も度胸が 人間 至上な能力であるかの如き 言草 である。代助はこれを 聞かせられるたんびに 厭 な心持がする。胆力は 命 の 遣り取りの 劇 しい、 親爺 の若い頃の様な野蛮時代にあつてこそ、生存に必要な資格かも知れないが、文明の今日から云へば、古風な弓術撃剣の 類 と大差はない道具と、代助は心得てゐる。

「近頃の若いものは……」問題です。しかしわからないのは漱石はどちらに同情的だったのか。読む度に違う気がする。本作は全体的に皮肉に出来ているので、もしかしたら親爺の方に肩を持っているのかしらん。

位置: 633
親爺 から説法されるたんびに、代助は返答に窮するから好加減な事を云ふ習慣になつてゐる。代助に云はせると、 親爺 の考は、万事 中途半端 に、 或物 を独り勝手に断定してから出立するんだから、毫も根本的の意義を有してゐない。しかのみならず、今利他本位でやつてるかと思ふと、 何時の間にか利己本位に変つてゐる。言葉丈は滾々として、勿体らしく出るが、要するに端倪すべからざる 空談 である。

生意気な代助の親爺評が記されています。
漱石は「こころ」でも親爺を小馬鹿にした文を書いてますよね。「インテリにすると生意気になっていかん」とかなんとか。
漱石もきっと方々で言われたんでしょうね。

位置: 1,088
三千代 は 美 くしい 線 を奇麗に重ねた 鮮 かな 二重瞼 を持つてゐる。 眼 の恰好は細長い方であるが、 瞳 を据ゑて 凝 と物を見るときに、それが何かの具合で大変大きく見える。

この頃にはもう、目が大きいのが美人という価値観なんでしょうか。昔は切れ長の目のほうがいいとされていたような気がするのですが。ソースは落語ですが。

位置: 1,277
代助は、何事によらず 一度 気にかゝり 出すと、 何処 迄も気にかゝる男である。しかも自分で其馬鹿 気 さ加減の程度を明らかに 見積る丈の脳力があるので、自分の気にかゝり 方 が猶 眼 に付いてならない。三四年前、平生の自分が 如何 にして 夢 に入るかと云ふ問題を解決しやうと試みた事がある。 夜、蒲団へ這入つて、 好い案排にうと〳〵し掛けると、あゝ 此所 だ、 斯 うして 眠るんだなと思つてはつとする。すると、其瞬間に 眼 が 冴えて仕舞ふ。しばらくして、又眠りかけると、又、そら 此所 だと思ふ。代助は殆んど毎晩の様に此好奇心に苦しめられて、同じ事を二遍も三遍も 繰り返した。仕舞には自分ながら辟易した。どうかして、此苦痛を逃れ様と思つた。のみならず、つく〴〵自分は愚物であると考へた。自分の不明瞭な意識を、自分の明瞭な意識に訴へて、同時に回顧しやうとするのは、ジエームスの云つた通り、 暗闇 を検査する 為 に蠟燭を 点したり、 独楽 の運動を吟味する 為 に 独楽 を 抑 へる様なもので、生涯 寐 られつこない訳になる。と 解 つてゐるが 晩 になると又はつと思ふ。

この下らない言葉遊び感。これがいいんだ。心に平穏が訪れます。
人間、他人の下らない習性をみると、安心しますね。あれ、あたくしだけかしら。またたとえが良いんだ。暗闇を検査するために蝋燭を灯す、独楽の運動を吟味するために独楽を抑える、いいじゃないですか。
どうでもいいけど、独りで楽しむとかいて独楽、何だか皮肉ね。

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