『ダンス・ダンス・ダンス』の同窓会の場面は、アニメを観る理由と直結している

村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』を読んでいます。

途中、高級コールガールを呼んで五反田くんの家で飲むシーンがあるんですが、

 彼女たちを見ていると僕はふと高校のクラスを思い出した。程度の差こそあれ、どちらの タイプの女の子もひとりずつくらいちゃんとクラスにいるのだ。綺麗で品の良い女の子と、 活動的でビリっとした感じの魅力的な女の子。まるで同窓会みたいだ、と僕は思った。同窓会が終ったあと、緊張がほぐれたところで気のあった同士で二次会で酒を飲んでいるといった雰囲気だった。馬鹿気た連想だが、本当にそういう気がしたのだ。五反田君がリラックス するという意味がなんとなくわかるような気がした。彼は以前にどちらとも寝たことがある らしく、女の子たちも彼も気楽に挨拶した。「やあ」とか「元気?」とか、そういう感じだ。 五反田君は僕を中学校の同級生で、今は物を書く仕事をしている男だと言って紹介した。よ ろしく、と女の子たちがにっこりして言った。大丈夫、みんな友達よ、という感じの微笑み だった。現実の世界ではあまりお目にかかれない種類の微笑みだ。よろしく、と僕は言った。
(中略)
五反田君は眼鏡をかけた女の子の隣に座っていた。彼はひそひそ声で何か話し、女の子が ときどきくすくすと笑った。そのうちにゴージャスな方の女の子が僕の肩にそっともたれか かって僕の手を握った。とても素敵な匂いがした。胸が詰まって息苦しくなるような匂い った。本当に同窓会みたいだ、と僕は思った。あの頃上手く言えなかったけど、本当はあ たのことが好きだったの。どうして私を誘ってくれなかったの? 男の、少年の、夢。イ ージ。

上巻p255

前回、春樹の中二病性について話しましたが、今回はさらに。ラノベ的というかリバイブというか。要はあたくしがアニメを観る理由、つまり「青春をもう一度」という呪いについてです。まさにそうでしょう。

五反田くんも、春樹も、多かれ少なかれ、青春を取り戻したいと思っているんだな。五反田くんですら、そうなんだな。

「憎んだりしないよ」と僕は微笑んで言った。「君の言ったことを鵜のみにもしない。でも 「いずれにせよ、いつかは本当のことが現れてくる。霧が引くようにそれは現れてくるんだ。僕にはそれがわかるんだ。もし君の言ったことが本当だとしても、たまたま君を通してその 真実が姿をあらわしただけなんだ。君のせいじゃない。君のせいじゃないことはよくわかっている。いずれにせよ、とにかく僕は自分でそれを確かめてみる。そうしないことには何も かたづかない」
「彼に会うの?」
「もちろん会う。そして直接に訊いてみる。それしかないさ」
ユキは肩をすぼめた。「私のことを怒ってない?」
「怒ってないよ、もちろん」と僕は言った。「君のことを怒るわけがないじゃないか。君は何も間違ったことをしていない」
「あなたすごく良い人だったわ」と彼女は言った。どうして過去形で話すんだ、と僕は思った。「あなたみたいな人に会ったのは初めて」
「僕も君みたいな女の子に会ったのは初めてだ」
「さよなら」とユキは言った。そして僕をじっと見た。彼女は何となくもじもじしていた。 何かつけ加えて言うか、僕の手を握るか、あるいは頬にキスするかしたそうに見えた。でも もちろんそんなことはしなかった。」
帰りの車の中には彼女のそんなもじもじとした可能性が漂っていた。僕はわけのわからな い音楽を聴き、前方にしっかりと神経を注ぎながら車を運転して、東京にもどった。

下巻p255

五反田くんがキキを殺した、とユキが告げる場面。何も証拠なんかないし、信じる要素は皆無なのに、読んでいるとなんとなくそんな気がしてくるから不思議。

そして、ユミヨシさんを抱く件。これね、エロスたっぷりですよ。

そして君にとっても大事なことなんだ。 嘘じゃないよ」
「それで、私はどうすればいいのかしら?」とユミヨシさんは表情を変えずに言った。「感動 してあなたと寝ればいいの? 素敵、そんなに求められるなんて最高!っていう具合に」 「違うよ、そうじゃない」と僕は言った。そして適当な言葉を探した。でも適当な言葉なん てもちろんなかった。「なんて言えばいいんだろうな? それは決まっていることなんだよ。 僕は一度もそれを疑ったことはない。君は僕と寝るんだ、最初からそう思っていた。でも最 初の時はそれができなかった。そうするのが不適当だったからだよ。だからぐるっと一回り するまで待った。一回りした。今は不適当じゃない」
「だから今私はあなたと寝るべきだって言うの?」
「論理的には確かに短絡していると思う。説得の方法としては最悪だろうと思う。それは認 める。でも正直に言おうとするとこうなってしまうんだよ。そうとしか表現のしようがない。 ねえ、僕だって普通の状況ならもっとちゃんと手順を踏んで君を口説くよ。僕だってそれく らいのやり方は知ってる。その結果が上手く行くか行かないかはともかく、方法的にはもっ とちゃんと人並みに口説ける。でもこれはそうじゃないんだ。これはもっと単純なことなん だ。わかりきってることなんだ。だからこれはこういう風にしか表現できないんだよ。上手 くやるとかやらないとかの問題じゃないんだ。僕と君は寝るんだよ。決まってるんだ。決ま っていることを僕はこねくりまわしたくないんだ。そんなことをしたら、そこにある大事な ものが壊れてしまうからだよ。本当だよ。嘘じゃない」

下巻p315

「あまりまとも とは言えないわね」と彼女は言った。それから溜め息をついてブラウスのボタンを外し始めた。
「見ないで」と彼女は言った。
僕はベッドに寝転んで天井の隅を見ていた。あそこには別の世界がある、と僕は思った。 でも僕は今ここにいる。彼女はゆっくりと服を脱いでいった。小さなきぬずれの音が続いて いた。彼女はひとつ服を脱ぐと、それを畳んできちんとどこかに置いているようだった。眼 鏡をテーブルの上に置くかたんという音も聞こえた。とてもセクシーな音だった。それから 彼女がやってきた。彼女は枕もとのライトを消し、僕のベッドの中に入ってきた。するりと、 とても静かに彼女は僕の隣に潜りこんできた。ドアのすきまから部屋に入る時と同じように。
僕は手を伸ばして彼女の体を抱いた。

下巻p316

とにかく「論理的に破綻しても、今、僕は君と寝るんだ。決まっているんだ」の一点張りで性交を要求する主人公に、「まともじゃない」と言いながら極上のエロ演出をして抱かれるユミヨシさん。AVのような演出である。

これをありがたがって読むのは男子校出身者くらいのもんじゃないかと思いつつも、ハルキストたちの存在を思い浮かべて苦笑いしました。ほんとうにこれが、素晴らしい文学なのか。彼らが同じようにエロ漫画やAVを評価してくれているのか。

次回、解釈について語ります。あたくしからは以上です。

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