『デイヴィッド・コパフィールド』感想2 なんだかんだ20世紀に生まれてよかった

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あの頃を振り返って、いま考えてみると、ぼくらは偶像視された残忍な男の、みじめったらしくつまらないご機嫌とりであり、あんな男に対してなんと卑屈だったことか、そしてあんな無能で見せかけだけの男に卑しく 媚びへつらったとは、なんという人生の船出だったことだろうか。

そういう後悔、あるけどね。
済んじまったことをグズグズ言っても仕方ないのもある。

しかしいいヤツよりも悪いやつが記憶に残るの、なんとかしてくれないかね。

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虐待が公然とまかりとおる学校では、牛耳っているのが 頓馬 だろうがそうでなかろうが、教えてもらえることはどうせ高が知れている。ぼくら生徒は、だいたいのところ他の学校の生徒と同程度に物を知らなかったし、それに第一勉強が手につかないほど不安におののき、虐待されてもいた。

子どもなんてそんなもんだよ。デイヴィッドは本当によくやっている。
現代では人類が子どもを甘やかせるようになったからね。

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「人生、運に見放されて、君のことを一度だって怒ったこともない人間を、君って奴は侮辱してだな、しかも君ほどの年齢と脳味 をぶら下げてりゃ、侮辱しちゃならん理由だってあれこれ当然分かっていそうなもんだが」ますます唇を震わせて、メル先生は言った。「実に卑しく、さもしいことをしているもんだな。君ごときの奴、坐ろうが立ってようが勝手にするがいいさ。さあコパフィールド君、先を」
「コパフィールド」教室のこちらの方へと歩み寄りながら、スティアフォースは言った。「ちょっと待った。いいかい、メル先生、これっきりだよ。おれのことを卑しいとかさもしいとか何でも 御託 を好き勝手に並べたてるんなら、さしずめあんたは厚かましい乞食野郎だよ。いいか、あんたはいつだって乞食に違いなかったけどさ、そんなこと言いやがるんじゃ、厚かましい乞食野郎だね」

いい啖呵だなぁ。
さしずめあんたは厚かましい乞食野郎だ、ってね。

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ぼくが声を掛けると、母さんはびくっとして叫び声をあげた。けれどもぼくを認めると、まあ、デイヴィー、本当にデイヴィーなの、と呼び、部屋の半ばまでぼくを迎えに歩み寄ってきた。そうして床にひざまずくと、ぼくにキスをして、その胸にぼくの顔を 埋めさせたが、そのすぐ横にはもう一人、ちっちゃな赤ん坊が抱き締められており、母さんは赤ん坊の手をぼくの唇へと促した。  死んでしまいたかった。この懐かしい思いを抱いたまま、あの時ぼくは死んでしまいたかった。天国に召されるのに、あの時ほど格好の時は二度と訪れなかった。

昔の女性というのは本当に弱い。
うちのカミさんと比べてみたら、天と地ほどだ。

お互いに顔を合わせさせてみたい。
ま、でも、昔だって強いカミさんはいたか。

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運送屋の馬車に乗り込むと、ぼくのことを呼んでいる声が聞こえた。窓の外を見ると、母さんはぽつんと一人で庭の方の門のところに立って、赤ん坊を両手に抱きかかえ、ぼくに見えるようにしてくれていた。その日は風ひとつ吹かない、しんしんと冷える天候で、赤ん坊を抱きかかえながらぼくの方を食い入るようにじっと見つめていたが、母さんの髪の毛一本、洋服のひだ一つ、そよとも揺れはしなかった。
こんな風にぼくは母さんを 失 くした。後になって学校で、よくこんな風に母さんの姿が夢の中に現われたが ぼくのベッドの近くに黙ってすうっと立っていた あの時と同じ食い入るような表情でじっとぼくを見つめ 両手には赤ん坊を抱きかかえているのだった。

こんなふうに母親と別れる。それも人生だったんだろうな。
すごい時代だ。

しかし、なんだか胸を打つんだよね。なんだろ。

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こんな風にペゴティーの話は終わった。母さんの死を知った瞬間から、最近の母さんのことはぼくの中からすうっと消えていってしまった。逆にその時から、ごく幼い頃、印象に焼きついている若い母親としての母さんだけを思い出すようになっていった。それはつまり、きらきらと輝く巻き毛を指にくるくるからめてみたり、 黄昏 どきに居間でぼくとダンスに興じたりしている母さんの姿だ。今ペゴティーが話してくれたことも、母さんの晩年を思い起こさせるどころか、ぼくの心の中にずっと以前の残像の方を深く植えつけてしまう結果になったのだった。妙なことかもしれないが、これは真実だ。死ぬことで、母さんは穏やかで気苦労を知らない若い時代に舞い戻り、その他のことは何もかも綺麗さっぱり抹消されたんだ。

人間の心理というのはそういうものかもしれない。
死んで永遠になる、というのは病的な発想でもなんでもなく、ただ残された人間にとっては本当にそういうものなのかもしれませんな。

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これはちびのエミリーに大受けだったっけ。あなたよりずっと年上だし分別もあるのよって感じで、つんと澄ました風をして、妖精みたいな大人びた 娘 はぼくのことを「お馬鹿さんね」と言った。と同時にアハハと、可愛らしく笑い出したので、ぼくは顔を見つめていられるうれしさで、人を小馬鹿にした呼び方をされても、嫌な気分はぱあっと吹き飛んでしまった。

大人になったら素敵なレディーになるフラグがビンビンに立ってますね。ビアンカですわ。

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もしぼくらが結婚して、どこかに行って森や野原に囲まれて暮らし、全然年をとることもなく、全然勉強もしないで子供のまんまで、手をつないで陽を浴びながら花の咲き乱れる草原をぶらぶら歩き回り、夜になると 苔 を枕に清く安らかに快い眠りにつき、死ぬときがくれば小鳥たちに埋葬されるとしたら、(思うに)なんて幸せなことじゃないか。現実なんか少しも入りこまない、ぼくらの 無垢 の光で輝き、はるか彼方の星のようにおぼろげな、なんかそんな夢幻の世界が、道すがらずっとぼくの心に浮かんでいた。

まさにwouldn’t it be nice.素敵です。

現実なんか少しも入り込まない、ってのがいいね。現実は辛いものだからね。
赤毛のアンもそうだったのかな。

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さて、何にせよ記憶を失わないでいられるかぎりは、どうにも忘れようにも忘れられない、人生のある一時期に近づいた。そしてその思い出は、別に呪文を唱えなくても、お化けみたいにしょっちゅうぼくの前に現われ、あとのもっと楽しい時代にまでも、やっぱり出てきてしまうのだった。

生きるってことはそういうことが増えていくってことだ。
だから人は歳を取ると忘れっぽくなるのかな。抱えきれないから。

もちろん、あたくしにもそういう記憶がありますよ。旗からみてどうかは別にせよ、どれも辛い思い出だ。

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デイヴィッド」ミスター・マードストンは言った。「若いもんにはだ、ここは活動の世界であって、ふさぎ込んでたり、のらくらしているところじゃないんだぞ」
「今のあなたがやってるようなね」マードストンの姉さんは加勢した。
「ジェーン・マードストン、頼むから、おれにまかせてくれよ。いいか、デイヴィッド、若いもんにはだ、ここは活動の世界であって、ふさぎ込んでたり、のらくらしているところじゃないんだぞ。特におまえみたいな気性のな、若い奴はだ、直さんといかんところがうんとあるんだし、それには強制的に労働の社会の習わしに従わせて、その根性をへし折ってしまうのが、なんといっても一番の近道だろう」
「だって、意地っぱりなんて、ここじゃご免ですからね」マードストンの姉さんは言った。「ぺしゃんこにつぶしちまうのが、そういうのには必要なの。それにぺしゃんこにつぶしちまわなきゃだめなんだから。ぜひ、そうなってもらいますよ」

まー、ほんと、このマードストン姉妹は嫌われ役をこれでもかというほどやりますね。清々しいほどの悪役。

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けれどマードストン=グリンビー商会でぼくは多少特別扱いされた。猫の手も借りたいほど忙しいのに、ミスター・クィニオンはいたって頓着しない人であり、一風変わった商品を商売にしていたけど、できるかぎりのことをしてくれたし、ぼくのことを他のみんなとはまったく別扱いにしてもくれた。それにぼくとしても、相手が大人であれ子供であれ、どういうわけでそこに来る羽目になったのかなんて一言もしゃべらなかったし、そこにいるのが恨めしいなんておくびにも出さなかった。人知れず苦しみ、しかも身を切るほど苦しんだのを知ってるのは、ぼくだけだ。どれほど苦しみを重ねたかは、もう前に述べたように、ぼくの力では到底、言葉で言い表わすことなんかできるようなもんじゃない。

おとなになったなぁ、デイビッド。
続きを読みたい気持ちはあれど、まだ手を出せていません。積ん読をもうちょっと消化してからかな。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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