古典落語『親子酒』を考える1 文治師匠のようなフラがあってこその笑い

短い尺の話ですが

『親子酒』、好きなんですよねぇ。
短い尺の話ですが、とても落語的で。自堕落なのが落語っぽくて。

夫婦で酒を抑えるの抑えないののやりとりをしているのは、現代だってそう変わりゃしません。

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スクリプト

「おい、ばあさん、なんだか、昼は暑かったのに、夜になると急に冷え込んで来やがった。ゾクゾクするなぁ。こういう時は、なんかこう、飲むといいものがあるだろう?」

「あら、いけない。白湯でも飲む?」

「あたしゃ病人じゃないんだ。もっとこう、腹に入ると力がみなぎってくるような、カーっと体の芯からあたたまる、いいのが、あるだろう?」

「うーん、なんだろうねぇ。生姜湯かなんか?」

「おい、子どもが目ぇまわしたんじゃねえぞ、気のきかねえばあさんだ、本当に。ったく。どうだろうなァ、今晩あたりちょいっとこう、内緒でこんなことを」

「なに言ってンですよ、あの子と約束なすったでしょう、第一、あなたが言い出したんですよ。酒を飲むと乱れていけない、粗相ばかりするから酒をやめろ。その代わり自分も好きだけどやめるから、って言ったじゃないですか。」

「大丈夫だよ、わかりゃしないよ。なんか、肴のようなものが有ったら、ここに持ってきて貰いたいんだけどな。」

「肴のようなもの?たい焼きかなんか?」

「何故そう、飲めねぇようなことばかり言うんだよ。饅頭みたいなもんで酒が飲めるかよ。酒の肴だよ。なにぃ?塩辛があります?いいねぇ、そういうのを待ってたんだ。それから、その、寿司屋で貰った大きな湯のみがあっただろ?あれだしてくれよ。あれで飲めばバレやしないよ。そうそう、それそれ。え?大きいです?大きくていいじゃねぇか。それに酒をいっぱいに注いで持ってきてくれよ。酒ってぇのは半端に注ぐものじゃないんだよ。そうそう。それに。そうそう。一杯きりだからさぁ。
きゅー。っぱぁ。
ん、これ、塩辛ってぇのは、美味いね。塩辛ってぇのは酒飲みの友達みてぇなモンだな。
ちょっとやめていたせいか、バカに美味いね、こら。
すーっと入っちまう。
きゅー、美味いね、どうも。
塩辛ってぇのはこうでなくちゃな。少しばかり甘塩でさぁ。
きゅー。
酒は天の美禄なんてぇこというけど、酒くらいいいものはないね。まさに百薬の長だね。ねぇ。
……で、お前はなんでぼんやり俺の顔をみてんの?バカづらで俺の顔を見てるんじゃねぇってんだぁよ。ええ?
……注がねぇかなぁ?」

「あんたさっき、一杯って」

「一杯ってったって、もう一杯お上がりなさいってぇのが当たり前だろう?なんでそんな目で見てんの?もう一杯お飲みなさい、ってぇのが、それがお前、夫婦の情だよ。もっと、もっと、もっとケツを上げなさい。お前のケツじゃあないよ。一升瓶のケツだ。あぁそうそう。え、へへ。口でお迎えに行かなきゃならない。へへ。困ったもんだねぇ、ホント。注ぎ方を知らないババアだ。
きゅー。
空きっ腹で、久しぶりに飲む酒ってぇのはね、五臓六腑に染みわたるね。酔うよ、酔う。
酒のんで酔っ払わないなんて、こんな無駄なことはないね。
塩辛ってぇのは酒に良くって飯に良いんだよ。ね、よく考えたもんだ。頭いいよ。ノーベル塩辛賞あげたいね。
きゅー。
この酒を、止めちゃ嫌だよ、酔わせておくれ、まさか素面じゃ言われまい
なんてね。あぁ、本当だ。
まさぁかぁぁぁ~♫
ってぇことで、かけつけ三杯。」

「何言ってんのよ」

「えぇ!!いいんだよぉ。二杯も三杯も変わりゃしないだろぅ?
あのね、酒ってのはね、半端に注いじゃ駄目なんだよ。半端モンは数えないんだよ。
師曰く、ってんで決まってんだからネ。
きゅー。
酒はね、飲むってぇと、どういうわけか、春めいてくるね。
困ったね、どうも。おめでたくて仕方ない。

酒なくて、ナンの己が さくらかな

ってぇね。
あぁ、塩辛うめぇ。

酒を飲む人、花なら蕾、今日も咲け咲け、明日も咲け

なんてね、昔の人は上手いこと言ったもんだ。
あぁー、酔ったなぁ、酔った。うん、酔った。」

「ね、もう十分でしょ。早くお寝なさいな、お寝。」

「うん?お寝?どうしてそういうことを言うんだ。亭主を寝かせて、どうするつもりだぁ、この野郎!」

「あの子が帰ってきます」

「大丈夫だよぉ。その、その一升瓶、ここに持って来なさいよ。持って、持って来いったら持って来いってんだよぉ。
人の金で飲んでんじゃないんだ、てめぇの金で酒のんで何が悪いんだよ。
俺は一家の主だよ。主ってぇのは一家で一番偉いんだよ。嘘だと思ったら市役所言って聞いてこいってぇんだよ。
きゅー。
酒くらい飲んだって、やることやってんだから。
飲んでいる側で、どうしてそう、監視するようなヘンテコな目つき。飲んでいる側に立てかけておく顔じゃないね。
昔は可愛かったのにね。どうしてこう、あぁ、もう、こんなになっちゃったかなぁ。
衛生に良くない。そういう顔は、脱いだら下駄箱に入れたりするもんだぁ、な。」

「ただいま帰りました!」

「あら、帰って来たわよ、大変」

「何が大変だぁよぉ、そりゃあ帰って来ますよ。せがれのうちはここなんですから。帰って来なけりゃ騒ぐのも道理だが、帰ってきて騒ぐのは道理に合いませんよぉ。いいからほら、この御膳と、一升瓶、これ片しちゃってよ、いいから。な。
湯のみ?湯のみはいけませんよ。これはこっちに置いておきなさい、まだ入ってんだから。
大丈夫だよぉ。せがれが帰ってきて、ここ見て、湯のみの中に酒が入っているなんて、どうして分かるんだよ。まだ入ってんだから。いいから、置いておきなさいっての。」

「きたきたきた」

「ただいま!帰りました!!」

「・・・・だれだ?だれだ長太郎か、こっちィはいんなさい」

「おとっつぁん、ただいま帰りました。おとうさんのおっしゃるとおり、麹町の横田さんへまいりました。旦那さまァおいでンなって、一杯召し上がってるとこで、
「いいとこへ来た。一人でさみしいとこだ、さァ、いこう」
と言われました。そこで、
「だめです、実はうちのおやじと禁酒の約束をしました、お酒は一滴も飲む訳にいきません」ったら、
「いや、春はめでたい。ましてや男と男が胸襟を開いて語り合うには、酒に勝るものはない。だから、一杯やれっ」ってぇんす。

「おお、それでお前、飲まずに帰ってきたか?」

「そこなんです。「どうしても飲めない」って言ったら、
「なぜ強情を張る、強情張れば、以後うちの出入りをとめるぞ、それでもいいのかッ』
ってぇから、そいからおとっつぁん、あっし怒っちゃった、怒っちゃったよ。
「たとえ出入りをとめられようがなにしようが、一旦親子と子、いや、男と男が呑まないといって約束をしたら、呑むわけにはいきません。」
っつったら、
「さすがあの頑固親父のせがれだ。えらいっ、その意気が気に入った。気に入ったから一献いくかッ」てえますから「それじゃァいただきましょう。」ってことになって。気がついたらふたァりで二升五ン合あけた、やめようやめようと思っても、やめられないのが、酒ですなぁ!!

「馬鹿野郎、馬鹿野郎ッ、なんでそうぉ、おまえはなさけない男です。おとうさん言ったでしょう、酒を呑むんじゃないと、けれど、怒ンじゃないよ、怒っちゃいけない、これもおまえの身を思えばこそ言うんですよ、この身代をおまえにそっくりゆずっていこうと思えばこそ、おとうさんは口うるさくおまえに(あくび)・・・・言うんですから、そこをよく考えて、そして(目をパチパチ)・・・・おい、ばあさん、ちょいとここへ来てごらんおい、こいつの顔!!酒ばかり飲むから、顔が7つにも8つにもなっている。そんな化けもんみたいなやつに、この身代はゆずれません
「ぶー、あっはっはっは。冗談言っちゃいけねえ。おとっつぁん、あたしだって、こんなぐるぐるまわる家、もらったってしょうがねえ」

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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