勝手ながら、ユミヨシさんはアニメ『ハイキュー』の清水マネージャーのイメージで読んでました。

くっそエロいですね。

作品については浦沢直樹氏を思い出しました。
どっちも風呂敷広げっぱなし、ってだけなんですけどね。
その風呂敷の広げ方が実に上手い。

『羊をめぐる冒険』から4年、激しく雪の降りしきる札幌の街から「僕」の新しい冒険が始まる。奇妙で複雑なダンス・ステップを踏みながら「僕」はその暗く危険な運命の迷路をすり抜けていく。70年代の魂の遍歴を辿った著者が80年代を舞台に、新たな価値を求めて闇と光の交錯を鮮やかに描きあげた話題作。

とにかく緩急が自在。
日常パートをしばらく続けておいて、ワクワクさせたと思ったら急に不穏な影、死体とか殺人とか、を打ち込む。その手際の良さは卓越してる。

まるでミステリーのような物語の運び方をしておきながら、しかしながら、謎がまるで解かれない。これがあたくしにはイラッとする。

物語なら、もう少し、起承転結というかさ、謎解きとかそういうのがあっていいでしょう。まるでエヴァのTV版ですよ。これだと好き/嫌いの判別はし辛い。

あと圧倒的な豊かさ、余裕のようなものを感じて、正直うらやましいとは思う。女にゃ不自由しない、仕事も有り余るほどある。時間もある、コネもある。車もある。
今の若者にゃ嫌味になるんじゃないかな。あたくしはおじさんですが、ちょっと嫉妬しかけました。男の嫉妬ほど見にくいものはないけどね。

部屋の死体はなんだったのか、五反田くんは本当にキキを殺したのか、羊男とはなんだったのか。

謎は未解決のまま。思索は出来るのかもしれないけど、答えがぼんやりとしすぎて面白みがない。
そんな印象でした。

人生はもっと多くのデータを彼に要求する。明確な図形を描くための、よ り多くの点が要求される。そうしないことには、何の回答も出てこない。
でーたフソクノタメ、カイトウフカノウ。トリケシきいラオシテクダサイ。
取消キイを押す。画面が白くなる。教室中の人間が僕に物を投げ始める。もっと喋れ。もっと自分のことを喋れ、と。教師は眉をしかめている。僕は言葉を失って、教壇の上に立ち すくんでいる。
喋ろう。そうしないことには、何も始まらない。それもできるだけ長く。正しいか正しくないかはあとでまた考えればいい。

p15

このカタカナを混ぜて書く感じ。
かなり臭い。当時(1988年)にはまだそんな言葉はないけれど。ポスト・バブル感なのかしら。ちょっとケミカルな感じの酔い方してるな、って印象ね。

僕は彼女を見ながら、あの子と寝ようと思えば寝られ たんだ、と思った。
時々そういう風に自分を勇気づける必要があった。
十分ほど彼女を眺めてから、エレベーターで十五階に上がり、部屋で本を読んだ。今日も 空はどんよりと曇っていた。ほんの少しだけ光が入ってくるはりぼての中で暮らしているよ うな気分だった。いつ電話がかかってくるかもしれないので、外に出たくなかったし、部屋 にいれば本を読むくらいしかやることもなかった。ジャック・ロンドンの伝記を最後まで読 んでしまうと、スペイン戦争についての本を読んだ。

p109

何が好きって、この「あの子と寝ようと思えば寝られた」というところね。
『ヤレたかも委員会』ですよね。

春樹にも、「ヤレたけどあえてヤラなかったんだ」という夜があったのでしょう。それをジャック・ロンドンやスペイン戦争を読み、サンドイッチを食べ、やり過ごすのでしょう。

そう思うと憎めない。

ロックンロール。世の中にこれくらい素晴らしいものはないと思ってた。聴いてい るだけで幸せだった」
「今はどうなの?」
「今でも聴いている。好きな曲もある。でも歌詞を暗記するほどは熱心に聴かない。昔ほど は感動しない」
「どうしてかしら?」
「どうしてだろう?」
「教えて」とユキは言った。
「本当にいいものは少ないということがわかってくるからだろうね」と僕は言った。「本当にいいものはとても少ない。何でもそうだよ。本でも、映画でも、コンサートでも、本当に いいものは少ない。ロック・ミュージックだってそうだ。いいものは一時間ラジオを聴いて 一曲くらいしかない。あとは大量生産の屑みたいなもんだ。でも昔はそんなこと真剣に考え なかった。何を聞いてもけっこう楽しかった。若かったし、時間は幾らでもあったし、それ に恋をしていた。つまらないものにも、些細なことにも心の震えのようなものを託すること ができた。僕の言ってることわかるかな?」
「何となく」とユキは言った。

p193

これ、すごい共感するんすよね。あたくしもロックンロールが好きで、それこそ毎日MDを持ち歩いて聞いていた過去があるんですが、今やそんなことない。ひと月くらい音楽聞かない日が続くこともザラだし、音楽全般への興味が薄い。

「退屈じゃない?」と僕は聞いてみた。
「ううん。悪くない」と彼女は言った。
「悪くない」と僕も言った。
「今は恋をしないの?」とユキが訊いた。
僕はそのことについて少し真剣に考えた。「むずかしい質問だ」と僕は言った。「君は好き な男の子はいるの?」
「いない」と彼女は言った。「嫌な奴はいっぱいいるけど」
「気持ちはわかる」と僕は言った。
「音楽聴いてる方が楽しい」
「その気持ちもわかる」
「本当にわかる?」とユキは言って、疑わしそうに目を細めて僕を見た。
「本当にわかる」と僕は言った。「みんなはそれを逃避と呼ぶ。でも別にそれはそれでいい んだ。僕の人生は僕のものだし、君の人生は君のものだ。何を求めるかさえはっきりしてい は、君は君の好きなように生きればいいんだ。人が何と言おうと知ったことじゃない。

p194

アドラーでいうところの課題の分離ですかね。

とはいえ、春樹主人公の有りがちな「わかるよ」「信じるよ」のオンパレード。つまり、春樹主人公は女性に共感・共鳴を伝えることでベッドまでつれていけるのだ。悔しいが羨ましい。

途中、高級コールガールを呼んで五反田くんの家で飲むシーンがあるんですが、

 彼女たちを見ていると僕はふと高校のクラスを思い出した。程度の差こそあれ、どちらの タイプの女の子もひとりずつくらいちゃんとクラスにいるのだ。綺麗で品の良い女の子と、 活動的でビリっとした感じの魅力的な女の子。まるで同窓会みたいだ、と僕は思った。同窓会が終ったあと、緊張がほぐれたところで気のあった同士で二次会で酒を飲んでいるといった雰囲気だった。馬鹿気た連想だが、本当にそういう気がしたのだ。五反田君がリラックス するという意味がなんとなくわかるような気がした。彼は以前にどちらとも寝たことがある らしく、女の子たちも彼も気楽に挨拶した。「やあ」とか「元気?」とか、そういう感じだ。 五反田君は僕を中学校の同級生で、今は物を書く仕事をしている男だと言って紹介した。よ ろしく、と女の子たちがにっこりして言った。大丈夫、みんな友達よ、という感じの微笑み だった。現実の世界ではあまりお目にかかれない種類の微笑みだ。よろしく、と僕は言った。
(中略)
五反田君は眼鏡をかけた女の子の隣に座っていた。彼はひそひそ声で何か話し、女の子が ときどきくすくすと笑った。そのうちにゴージャスな方の女の子が僕の肩にそっともたれか かって僕の手を握った。とても素敵な匂いがした。胸が詰まって息苦しくなるような匂い った。本当に同窓会みたいだ、と僕は思った。あの頃上手く言えなかったけど、本当はあ たのことが好きだったの。どうして私を誘ってくれなかったの? 男の、少年の、夢。イ ージ。

上巻p255

春樹の中二病性全開。ラノベ的というかリバイブというか。要はあたくしがアニメを観る理由、つまり「青春をもう一度」という呪いについてです。まさにそうでしょう。

五反田くんも、春樹も、多かれ少なかれ、青春を取り戻したいと思っているんだな。五反田くんですら、そうなんだな。

「憎んだりしないよ」と僕は微笑んで言った。「君の言ったことを鵜のみにもしない。でも 「いずれにせよ、いつかは本当のことが現れてくる。霧が引くようにそれは現れてくるんだ。僕にはそれがわかるんだ。もし君の言ったことが本当だとしても、たまたま君を通してその 真実が姿をあらわしただけなんだ。君のせいじゃない。君のせいじゃないことはよくわかっている。いずれにせよ、とにかく僕は自分でそれを確かめてみる。そうしないことには何も かたづかない」
「彼に会うの?」
「もちろん会う。そして直接に訊いてみる。それしかないさ」
ユキは肩をすぼめた。「私のことを怒ってない?」
「怒ってないよ、もちろん」と僕は言った。「君のことを怒るわけがないじゃないか。君は何も間違ったことをしていない」
「あなたすごく良い人だったわ」と彼女は言った。どうして過去形で話すんだ、と僕は思った。「あなたみたいな人に会ったのは初めて」
「僕も君みたいな女の子に会ったのは初めてだ」
「さよなら」とユキは言った。そして僕をじっと見た。彼女は何となくもじもじしていた。 何かつけ加えて言うか、僕の手を握るか、あるいは頬にキスするかしたそうに見えた。でも もちろんそんなことはしなかった。」
帰りの車の中には彼女のそんなもじもじとした可能性が漂っていた。僕はわけのわからな い音楽を聴き、前方にしっかりと神経を注ぎながら車を運転して、東京にもどった。

下巻p255

五反田くんがキキを殺した、とユキが告げる場面。何も証拠なんかないし、信じる要素は皆無なのに、読んでいるとなんとなくそんな気がしてくるから不思議。

そして、ユミヨシさんを抱く件。これね、エロスたっぷりですよ。

そして君にとっても大事なことなんだ。 嘘じゃないよ」
「それで、私はどうすればいいのかしら?」とユミヨシさんは表情を変えずに言った。「感動 してあなたと寝ればいいの? 素敵、そんなに求められるなんて最高!っていう具合に」 「違うよ、そうじゃない」と僕は言った。そして適当な言葉を探した。でも適当な言葉なん てもちろんなかった。「なんて言えばいいんだろうな? それは決まっていることなんだよ。 僕は一度もそれを疑ったことはない。君は僕と寝るんだ、最初からそう思っていた。でも最 初の時はそれができなかった。そうするのが不適当だったからだよ。だからぐるっと一回り するまで待った。一回りした。今は不適当じゃない」
「だから今私はあなたと寝るべきだって言うの?」
「論理的には確かに短絡していると思う。説得の方法としては最悪だろうと思う。それは認 める。でも正直に言おうとするとこうなってしまうんだよ。そうとしか表現のしようがない。 ねえ、僕だって普通の状況ならもっとちゃんと手順を踏んで君を口説くよ。僕だってそれく らいのやり方は知ってる。その結果が上手く行くか行かないかはともかく、方法的にはもっ とちゃんと人並みに口説ける。でもこれはそうじゃないんだ。これはもっと単純なことなん だ。わかりきってることなんだ。だからこれはこういう風にしか表現できないんだよ。上手 くやるとかやらないとかの問題じゃないんだ。僕と君は寝るんだよ。決まってるんだ。決ま っていることを僕はこねくりまわしたくないんだ。そんなことをしたら、そこにある大事な ものが壊れてしまうからだよ。本当だよ。嘘じゃない」

下巻p315

「あまりまとも とは言えないわね」と彼女は言った。それから溜め息をついてブラウスのボタンを外し始めた。
「見ないで」と彼女は言った。
僕はベッドに寝転んで天井の隅を見ていた。あそこには別の世界がある、と僕は思った。 でも僕は今ここにいる。彼女はゆっくりと服を脱いでいった。小さなきぬずれの音が続いて いた。彼女はひとつ服を脱ぐと、それを畳んできちんとどこかに置いているようだった。眼 鏡をテーブルの上に置くかたんという音も聞こえた。とてもセクシーな音だった。それから 彼女がやってきた。彼女は枕もとのライトを消し、僕のベッドの中に入ってきた。するりと、 とても静かに彼女は僕の隣に潜りこんできた。ドアのすきまから部屋に入る時と同じように。
僕は手を伸ばして彼女の体を抱いた。

下巻p316

とにかく「論理的に破綻しても、今、僕は君と寝るんだ。決まっているんだ」の一点張りで性交を要求する主人公に、「まともじゃない」と言いながら極上のエロ演出をして抱かれるユミヨシさん。AVのような演出である。

これをありがたがって読むのは男子校出身者くらいのもんじゃないかと思いつつも、ハルキストたちの存在を思い浮かべて苦笑いしました。ほんとうにこれが、素晴らしい文学なのか。彼らが同じようにエロ漫画やAVを評価してくれているのか。

投稿者 写楽斎ジョニー

都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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