ちょいと小噺!

麻布競馬場著『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』感想 現代の「クリスタル」なのか

田中康夫っぽいなーと思うのはおじさんだからなんだろう。ただ、普遍的な手法だというのは間違いないようです。

「みんな、高校卒業おめでとう。最後に先生から話をします。この街を捨てて東京に出て、早稲田大学の教育学部からメーカーに入って、僻地の工場勤務でうつになって、かつて唾を吐きかけたこの街に逃げるように戻ってきた先生の、あまりに惨めな人生の話を――」(「3年4組のみんなへ」)など、Twitterで大反響を呼んだ虚無と諦念のショートストーリー集。話題の覆面作家、衝撃のデビュー作!

タワマン文学、というジャンルがあるそうな。

その代表作なんだとか。

最近よく観ているこの番組で取り上げられたのがきっかけ。

いいよね、本の番組。ちょっと前まで福澤朗がやってた他局のも良かった。やっぱり読書好きの評価は信頼できる。

本著について、あまり知らずに読み始めましたが、これは面白い。ちょっと露悪的というか悲劇のヒロイン気質すぎるきらいはありますが、それでも人の心を抉る鋭さは十分。というか、ちょっと鋭すぎやしませんか。この芸風でどこまでも行くのかな、この人。

本気でこれ読んで傷つく人も、いると思うな。

30まで独身だったら結婚しよ

 位置: 162

彼氏彼女というのは商標登録みたいなもので、誰かがそれを侵害しようとするから意味があるのであって、彼が私以外の女に声をかけないのであれば、別に何だっていいのです。

うむ、言い得て妙である。

そして、実際にこういう約束をした人をみた。多分あるあるなんだろう。個人的にそういうことになったことはないけれど。

位置: 221

私が愛した彼のあのダサさは、奥さんがこの街で安く手に入れた品々で完全に拭い去られ、彼はそれと引き換えに、この街の代替可能な無数の部品のひとつとして、この街で大量製造されるキャンベル缶みたいな幸せを 啜っているように見えました。選ぶことを放棄した者たちが歩む、幸せに至る一本の 平坦 な道。

言うねぇ。しかし、このキャンベル缶を馬鹿にすることなかれ。あれは人類の叡智である。安くて安定的に高クオリティを出すものを馬鹿にする一定層を、あたくしは馬鹿にしたい。

それにしても、言うねぇ。

2802号室

位置: 335

東カレデート

ちょくちょく出てくるこの単語。なにかと思って調べました。

まるであたくしには縁のない話なので知りませんでした。若かりし頃に『なんとなくクリスタル』を読んだときも辞書を引いたなぁ。あれ、なんの辞書を引けば良かったのか未だに分からない。当時Googleなかったからなぁ。

青山のアクアパッツァ

位置: 350

お父さんは無口で、休みの日はアマチュア無線をいじっていた。 30 代半ばで当時にしては珍しく外資系IT企業に転職し、増えた給料はすべて船橋の公立小学校に通う私たちの教育費に回すと決めたらしい。二人で塾に通って、二人とも学習院女子中等科に入った。

うんうん、想像できるよ。まさに。単語、とくに固有名詞選びが絶妙。これも『なんとなくクリスタル』的。船橋の公立小、ってのがいいよね。解像度高いなーと思う。

位置: 469

母のことも考えます。安いスプマンテ一杯で酔っ払い、最近は『愛の不時着』にハマった、才覚もセンスも何もない、かわいいだけのお母さん。母を見るたび、かわいそうだな、私と同じだな、と思います。父と結婚できたことは、彼女の人生でもっとも大きな幸福だったと思います。よくやりましたね。

客観的にみて、そうなんだろうね、って事象はある。ただ、ここまで露悪的に言わないのが大人のマナー。それをあえて破っているって感じでしょうか。悪態芸。

位置: 475

 姉のように、父のようになれないかと、私なりに努力して、失敗して、結局は母みたいな方法でしか私は幸せになれそうもないし、かといって、母の人生が本当に幸せだったのか、内心見下している母ほどにも私は幸せになれないんじゃないのかとか、考えはいつもぐるぐると巡ります。

そうなんだよね。誰かが自分の価値観では見下げた人生をしていても、満足度では自分は負けるかもしれない。相対化ってのは幸せになる方法ではないからね。「比べない」ってのは、場面によってはとても大切なこと。年を取ると余計にね。

真面目な真也くんの話

位置: 493

僕は苦手だと彼にあらかじめ言ってあった。それなのに彼はニコニコと袋いっぱいのピーマンを渡してきた。ピーマンの形をしたその善意はやけに軽かった。ピーマンの中身は空洞だからだ。真也くんみたいだなと思った。

これ、瞬時に思っちゃうこと、あるんだよね。あ、こいつ、善意なら何やってもいいと思ってんだな、人の話聞いてないんだな、ってね。あまり褒められたことではないとは思う。

位置: 509

宇宙望遠鏡的な努力に、電子顕微鏡的な効率性を掛け合わせて、彼はどうにか入試を突破したらしかった。

癪だが面白いたとえ。努力家を嘲笑うのは社会的悪手だとは思うけども、面白い。

位置: 524

振り返ると、ゼミでも彼と相性のいい人なんていなかった。先生は無責任だと思った。彼の人生に責任を持てない人だけが彼に優しくした。僕もだ。

そういう状況、あるよな。少なくとも優しくした分、優しかったんだと、あたくしは思いますけどね。大学ってそういうとき、無理に冷たくはしない空気ありません?あれ、あたくしは居心地よかったんだけどな。

位置: 539

 彼はどうも、頑張ることに逃げているらしいと気付いた。どうも昔からそうだった気がしてきた。努力のぬるま湯に、手を動かしていることのぬるま湯に首まで浸かっていれば、湯気で先の不安が見えなくて済む。

ひどい言い方だが、実際、努力は不安を和らげるよ。そうやって局地を乗り越えてきたやつは沢山いると思う。大衆側のやつが痛いやつを笑い者にする、この麻布競馬場のdisり芸、なかなか罪深い。主語がデカくなるが、日本社会でよく見る現象。外国社会にそれほどどっぷり使っていないし、なんなら外国に行けばあたくしが痛いやつなんでよく分からね。

僕の才能

位置: 774

母は僕をフジグランのカルチャースクールに片っ端から通わせた。

なんのことか分からなかったけど、調べました。

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なるほど、四国中国のイオンなわけだ。言葉選びが、実に絶妙だ。

位置: 822

あのコピーライターが有名なコピーライターの息子で、中途半端にやめたと言っていた音楽活動でもメジャーデビューまで行っていたなんて、そのときは知らなかった。

うん、そういうもんだよね。月本も言っていたけど、才能がないだけなんだだよね。大騒ぎするほどのことじゃない。

高円寺の若者たち

位置: 948

お前はおれじゃなくおれの記号を愛していたよな。
 でも、それでよかったんだよ。愛されたのなんて初めてだったよ。お前は金のないおれの暮らしを「楽しい」と言ってくれたよな。

記号を愛する、情報を食べる、ブランドを嗜好する。みんな同じ。ホモ・サピエンスがやりがちな特性。いいじゃない、それで。我々自身、喜んで記号化・情報化するじゃない。

位置: 965

おれはジャージにすっぴんでケン・ローチを語るお前が好きだったよ。

ちなみに、あたくしもそういう女、好きだね。

よく知らなかったので、改めてWikipedia。なるほど、映画監督なのね。今度一つくらいみてみるかな。

大阪から

位置: 1,110

大阪にはマウンティングの文化がないと言う人がいます。確かに自虐のほうが笑いが取れるし、笑いが最も重んじられます。でも、もしかすると、大阪には「自分の力で圧倒的に成功した人」が少なかったんかもしれません。マウンティングとは、何かを見て勝手に自分が惨めに感じる心の動きなんですから。

確かに、大阪ラブの人間でも、野心がある人間はこっちに来ますね。あれはそういうことなんですね。東京に住んでいると、野心のある大阪人ばっかりみるから、「おお、大阪の人はガツガツ来るな」と思っちゃうけどね。

吾輩はココちゃんである

位置: 1,442

 ――美幸。みゆき、と読む。お母さんは「美しい子に育つように」との思いで、私にこの名前を選んでくれた。ルッキズムがルッキズムと名付けられてすらいない透明な悪意だった時代に、この北関東の地方都市に生まれ育ち、高卒で市役所の事務をやっていたお母さんは、私の幸せを祈るための方法を「美」しか知らなかったんだと思う。

切実な話だ。あたくしも子供に美はつけなかったなぁ。「反ルッキズム」みたいな大層なことは考えなかったけど、でも「美」をつけるのは子供に価値観を押し付けるようで嫌だった。

でも、ためらいなく「美」を子供につける親も、ちょっと前までは大量にいたんだよね。

うつくしい家

位置: 1,635

 やぁやぁ我こそは田舎の文化人! ミロとパウル・クレーで育ってきた! なんて、言えるはずがないのです。両親は幸せです。閉じた街の高台で、その街を覆うアルカリの薄い被膜の向こうから迷い込んできたものを虫取り網で捕まえて、安藤忠雄のパクリみたいな家に飾って、ニコニコと暮らしているのです。

はは、この芸風。全方向に敵を作りそうだ。そんなに判で押したような「ハイセンス」が嫌いなんだね。立派な芸術家先生だ。

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