『漂流巌流島』 史実はどうであれ、面白いのがミステリの正義。

舞台が居酒屋から離れないってのが、また、いいですね。

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宮本武蔵は決闘に遅れなかった!? 赤穂浪士は浅野内匠頭が殿中刃傷に及んだ理由を知らなかった!? 近藤勇は池田屋事件を無理矢理起こしていた!? 鍵屋ノ辻の仇討ちは上手くことが運びすぎた!? 人使いの荒い監督に引きずり込まれて、チャンバラ映画のプロットだてを手伝う破目になった主人公。居酒屋の片隅で額を寄せ合い、あーでもない、こーでもないと集めた史料を検討していくと、巌流島の決闘や池田屋事件など、よく知られる歴史的事件の目から鱗の真相が明らかに……!

歴史ミステリでありながら、会話はほぼシナリオライターとドラマ監督の間でのみ行われます。
変則的安楽椅子探偵、とでも呼びますか。

巌流島、忠臣蔵、池田屋事件、鍵屋の辻……。
これらについて、ちゃんと歴史的資料を紐解いた上でエンターテイメント的解釈をする。

大げさにいえば、今やってる三谷幸喜の『真田丸』もそうですよね。
信繁があんなに秀吉の側にいたとは思えないけど、面白いから良しにしちゃう。

特に良いのは忠臣蔵

巌流島は、ね。
あんまり興味ないんですよね。そもそもの出来事に。

反対に、忠臣蔵は興味あります。
好きなわけじゃない、むしろ、理解に苦しむから気になるんです。

あの事件て、筋書だけみると意味不明だったりしませんか?
色々と因縁はあるだろうけど、それはそれ。刀を抜いたほうが褒められ、斬りかかられた方が徹底的に悪役になるという。
現代の喧嘩の論理からすると、「なんにせよ、手を出すのはよくない」となりそうなもんですがね。

そこを、この本はほぐしてくれます。

「では、主君の刃傷の原因も知らず、幕府の裁判もいちおう認めている赤穂浪士が何のため仇討ちしたか。ここが一番重要なところだ」  いよいよ彼はベッドの上に前のめりとなって、「この一文を読め。〈偏に亡主の意趣を継ぐの志迄にござ候〉――ただひとえに亡き主君の遺恨を継ぐことを志した」  どうだ、といわんばかりに三津木監督と僕を見た。 「もう分かったろう? 主君の刃傷の原因、幕府の裁判の妥当性、そんなものはどうだろうとよかった。わざわざまわりくどい因縁なんて考えるまでもない。亡君は吉良を殺そうとして討ち洩らした。だから、代わりに吉良を討つ。討ち入りの決行に臨んで当事者がかかげた決意表明がこれだ。これ以上に何が信用できる」 「―――」
at location 1414

「そういうことだ。細川家の人間は赤穂浪士の討ち入りの前例を強く意識していた。原因がどうであろうと主君の討ち洩らした相手が仇討ちの対象と見做されることも、その仇討ちが世間さまからどんな風に見られるかも、充分過ぎるほどに理解できていた。何しろ半世紀前に赤穂浪士の行為を認めて、お預かりの浪士を厚遇することにさんざ励んだのは当の細川家なのだからな。まさか、ずっと後になって自分たちが刃傷沙汰の渦中に放り込まれるとは誰も思わなかったろう
at location 1881

落語でも、誉れ高き君主として”細川越中守”様は出てきますが、それは忠臣蔵での”赤穂浪士預かり”が人気の原因だったんですな。

その細川家が、忠臣蔵およびその後の敵討ちの線引をし、また、それによって問題にも巻き込まれることになる。このあたりのロマン性、なかなかですよ。

史実がどうだったかは知らん

この本を読んで、史実がどうのこうのいうのはナンセンス。
ミステリですから。謎解きがあってそれが面白い、これ以上のことは求めちゃダメです。

あたくしはすっかり楽しめました。また読みたいです。

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