あたくしも席亭のようなことをやるんでね。
時は幕末、ペリー来航の直後の品川宿。落語好きが高じ寄席の開業を思い立った大工の棟梁・秀八。腕はいいが、けんかっ早い。駆け落ちして一緒になったおえいは団子屋を切り盛りするいい女房だ。芸人の確保に苦労するも、寄席の建物は順調に出来上がってきていた。そんな中、突然お城の公方さまが――。秀八の清洲亭は無事柿落しができるのか? 笑いあり涙あり、人情たっぷりの時代小説、開幕!
時代小説はいいよ。余計なものがない。世間の些事を忘れて没頭できる。意外とSFより時代小説のほうがそれができるのはなぜだろうね。
それが寄席の席亭が主人公だっていうから、こりゃあもうあたくしのための小説だろう、と。あたくしが読まずして誰が読む、的な。そういう気持ちで読み始めました。いい感じです。
第二話 寄席がとっても辛いから
位置: 1,426
真面目 な女郎がそんなに珍しいか。
女郎でも、素人女でも、女なんてだいたい、みんな男より真面目に生きてるものだと、おえいは思う。
それより、本当に真面目な女郎なら、もっと違うやり方をしたらいい。最後まで女郎らしく、すべての客をだまし通して金できれいに片付くべきなんじゃないか。それがまっとうな女郎ってものだ。
世辞で丸めて浮気で 捏ねて。 噓 で飾り立てて男から金を取ることが 生業 なら、最後だけ、 初心 な男の真情にすがって逃げ切ろうってのは、むしろ女郎の風上にも置けないやり口なんじゃないのか。
ふむ。確かにその論は筋が通っている気もする。悪役なら最後まで役を通したらどうだ、ということね。ヒールだという自負があるのかどうか。玄人ならそこはしっかりと徹してほしい、というのはまさにプロフェッショナリズムかと、あたくしもそう思う。
第三話 寄席は涙かため息か
位置: 2,853
それが、先代の 天狗 師匠だったんです」
――先代の。
木霊の 伯父 である。
返すあてもないのに、どうして良いか分からないと困惑する隠居に、先代は次のように言ったという。
「自分に返してくれなくて良い。自分は芸人だから、明日からと言わず、今日の今からだって高座に上がれば金は作れる。だから、おまえさんがいつか一人前の商人になったら、ぜひ、芸人たちの良い 贔屓 になっておくれ、って。今でも私はこの時の先代の声、覚えていますよ」
――粋だねぇ。
格好いいぜ。粋だなぁ。
こういうこと、さらっとやるのが格好いいんだよな。うーん、いい話。
どことなく文七元結な感じも、落語好きな作者が落語好きに向けて書いている感じがして、いいよね。俄然興味が出ました。自作も読んでみたいと思います。