村上春樹著『国境の南、太陽の西』感想 こんなに胸糞悪い文学久しぶり

村上春樹の中でも、かなり面白く、そして胸糞悪い長編ですね。

あの日なら、僕はすべてを捨ててしまうことができた。仕事も家庭も金も、何もかもをあっさりと捨ててしまえた。――ジャズを流す上品なバーを経営し、妻と二人の娘に囲まれ幸せな生活を送っていた僕の前に、十二歳の頃ひそやかに心を通い合わせた同級生の女性が現れた。会うごとに僕は、謎めいた彼女に強く惹かれていって――。日常に潜む不安と欠落、喪失そして再生を描く、心震える長編小説。

多分、全然胸糞悪くならない人もいるんだろうけど、あたくしには全く不愉快そのものでした。理由を後述します。

位置: 463
僕の読んでいる本や、僕の聴いている音楽を彼女はほとんど理解しなかったと思う。だからそのような領域のものごとについて僕らが対等の立場に立って語りあうことはまずなかった。そういう点では僕とイズミとの関係は、島本さんとの関係とはずいぶん違っていた。

イズミ、最初から当て馬感すごいんですよね。島本さんの代替え感が拭えぬどころか、そのもの。島本さんに比べると美女ではないという設定も、底意地悪く感じるのはあたくしだけかな。

位置: 511
「ごめんね」と彼女は言った。
でもそのかわりに彼女は僕のペニスを口に含んで、舌を動かしてくれた。彼女がそれをしてくれたのは初めてのことだった。彼女の舌が何度か僕の亀頭の上を這うと、僕は何かを考える余裕もなくすぐに射精してしまった。

春樹作品に出てくる女性、かなり口淫に積極的問題、ある。
そこに春樹の個人的な性嗜好がにじみ出ていて、あんまり気持ちのいい気がしない。

位置: 722
僕と彼女はたぶんそのような関係を何ヵ月か息つく暇もなく夢中になって続けたあとで、どちらからともなく遠ざかっていっただろうと思う。何故ならそのとき僕らがやっていたのは疑問をさしはさむ余地もない、きわめて自然で当然な行為であり、必要な行為だったからだ。愛情や罪悪感や未来といったようなものがそこに入り込む可能性は最初から閉ざされていたのだ。

だから許される、とは一言も言っていないが、開き直ってるという印象ではある。きわめて自然で当然だとしても、罪悪感が入り込む可能性がないというのはあまりにサイコパス過ぎやしませんかね。

位置: 739
僕は彼女になんとか説明をしようと試みた。できるだけ正直に、丁寧に言葉を選んで、僕は自分の気持ちをイズミに伝えようとした。僕と彼女の従姉とのあいだに起こったことは決して本質的なことではないのだと。それは本来の道筋で起こった出来事ではないのだと。それは一種の物理的な吸引力のようなものであって、僕の中には君を裏切ったというやましささえほとんどないんだ。そのことは僕と君の関係に対しては何の影響力も持たないんだと。
でももちろんイズミはそんなことは理解しなかった。そして僕のことを汚らしい噓つきだと言った。それはたしかにそのとおりだった。

認めてんじゃん。やっぱサイコパス感あるよね。「常識ではそうなんだろうな」という意識がありながら、一応言い訳はするあたり、みっともない。

位置: 1,180
僕は妻が妊娠しているあいだに何度か軽い浮気をしたことがあった。でもそれは深刻なものではなかったし、長くも続かなかった。僕は一人の相手とは一度か二度しか寝なかった。多くてせいぜい三度だった。正直に言って、僕には自分が浮気をしているという明確な自覚すらなかった。僕が求めていたのは「誰かと寝る」という行為そのものだったし、相手の女たちもまた同じようなものを求めていたのだと思う。

なんなら、「セックスをスポーツ感覚で楽しむ俺かっこいい」アピールすら感じる。

位置: 1,326
『ブルータス』に僕の名前と写真が載ったことで、それから十日ほどのあいだに何人かの昔の知り合いが僕を訪ねて店にやってきた。

時代だ。雑誌に乗って一躍有名店。まだ雑誌が強かった頃だな、と思える。

位置: 1,739
「僕はそうは思わないね。君はいろんなものを生み出しているような気がするな」
「たとえばどんなものを?」
「たとえばかたちにならないものを」と僕は言った。僕は膝の上に置いた自分の両手に目をやった。

詭弁にしては下手だ。これをかっこいいと思えるのかどうか。クソダセェと思うのはあたくしだけか。

位置: 2,021
「こんなことが起こるだろうというのはわかっていたのよ」と島本さんは自分に言い聞かせるように静かな声で言った。「私がいると、そのまわりでは決まってろくでもないことばかり起こるの。いつものことなの。私が関わるだけで、何もかも駄目になっていくの。それまでは何の問題もなく運んでいたものが、突然みんなうまく行かなくなるの」

悲劇のヒロインに浸ってるなぁ。痛い女だ。

位置: 2,378
「ねえ島本さん、十六のときには、僕だって自分のことしか考えていなくて、女の子のスカートの下に手をいれることしか頭にないがさつな男の子だったと思うね。間違いなくそうだった」
「じゃあ私たちはその頃に会わないでよかったのかもしれないわね」と島本さんは言って、にっこりと笑った。「十二で離ればなれになって、三十七でまたこういう風に出会って……、私たちにとってはそれがいちばん良かったんじゃないかしら」
「そんなものかな」

社交辞令が悲しいね。最大限ポジティブな社交辞令。その場の最大公約数を作ることに長けた大人のやつ。

彼女はネイヴィー・ブルーのピーコートを着て、マフラーを首に巻いていた。その体には涙と哀しみの匂いが漂っていた。僕は今でもその匂いを嗅ぐことができた。隣では妻が静かな寝息を立てていた。彼女は何も知らないのだ。僕は目を閉じて首を振った。 彼女は何も知らないのだ。

知らないと思っているのはお前だけだぞ、の件。しかし、春樹はこれを書いて何を伝えたいんだろうか。男のうぬぼれ?

位置: 2,613
普通の人間はね、満員電車に揺られて毎日会社に行って、出来るかぎりの残業をしてあくせくと一年間働いたって、八百万を稼ぐのはむずかしいんだ。僕だって八年間そういう生活を続けていた。でももちろん八百万なんていう年収は取れなかった。八年間働いたあとでも、そんな年収は夢のまた夢だった。君にはそれがどういう生活なのかきっとわからないだろうね」
有紀子は何も言わなかった。彼女は唇を固く結んで、テーブルの上の皿をじっと見ていた。僕は自分の声がいつもより大きくなっていることに気がついて、声を落とし

こいつ、挙句の果てに妻に説教。そりゃ、倫理的にどうなの、というのはあるけど、だったら浮気は倫理的にOKなのか、というダブスタもある。そりゃ全然別だよ、というのは昭和では通用したかもしれないけどね。

位置: 2,652
でももちろん僕は何も言わなかった。有紀子に今そんなことを打ち明けたところで、何の役にも立ちはしない。おそらく我々全員が不幸になるだけだ。

そういう場面、ある。若いときはそれでも「打ち明けたい」という気持ちに勝てず、その後のことを考えずに打ち明けたりしてた。若かったなぁ。

位置: 2,667
島本さんのイメージは娘たちのそれよりもずっと強いものだった。島本さんのことを考え始めると、もう他の何かを考えることはできなくなった。

倫理を語る資格なし。分かるけどね、若いときはそんなこともあった。

位置: 2,739
「ごめんなさい、とにかく。何か連絡くらいするべきだったのね。でも私は、ある種のものは手つかずにしておきたかったの。完全なまま保存しておきたかったの。私はここに来るか、あるいはここに来ないかなの。ここに来るときには私はここに来る。ここに来ないときには──、私は 余所 にいるの」

落語じゃないんだからさ。いただきますればいただきます、いただきませんければいただきません。そんな身勝手な生き方を良しとして、厚顔無恥に生きていく。そんなの嫌だわ。

位置: 2,890
「そしてある日、あなたの中で何かが死んでしまうの」
「死ぬって、どんなものが?」
彼女は首を振った。「わからないわ。何かよ。東の地平線から上がって、中空を通り過ぎて、西の地平線に沈んでいく太陽を毎日毎日繰り返して見ているうちに、あなたの中で何かがぷつんと切れて死んでしまうの。そしてあなたは地面に鋤を放り出し、そのまま何も考えずにずっと西に向けて歩いていくの。太陽の西に向けて。そして憑かれたように何日も何日も飲まず食わずで歩きつづけて、そのまま地面に倒れて死んでしまうの。それがヒステリア・シベリアナ」

シベリア人のヒステリー?よく分かんねぇ。一変、シベリア人に怒られたほうがいい。

位置: 2,931
でももしあなたがそういうのは嫌だ、二度と私にどこにも行ってほしくないというのであれば、あなたは私を全部取らなくてはいけないの。私のことを隅から隅まで全部。私がひきずっているものや、私の抱え込んでいるものも全部。そして私もたぶんあなたの全部を取ってしまうわよ。全部よ。あなたにはそれがわかっているの? それが何を意味しているかもわかっているの?」
「よくわかってるよ」と僕は言った。

本当に、本当に、本当に覚悟は出来ているのか。「よくわかってるよ」というセリフが空虚にしか思えない。

位置: 2,946
そしてその部分はいつも飢えて、乾いているんだ。その部分を埋めることは女房にもできないし、子供たちにもできない。それができるのはこの世界に君一人しかいないんだ。君といると、僕はその部分が満たされていくのを感じるんだ。そしてそれが満たされて初めて僕は気がついたんだよ。これまでの長い歳月、どれほど自分が飢えて渇いていたかということにね。僕にはもう二度と、そんな世界に戻っていくことはできない」

そこまで言って委員会だよ。全く。
「じゃあそんな世界に戻らなくちゃならなくなったら死ねよ」と言いたくもなるよね。

位置: 3,045
少しあとで僕は彼女の口の中に射精し、彼女は手を動かすのをやめて目を閉じた。そして僕の精液を最後の一滴まで舐めて吸った。
「ごめんね」と島本さんは言った。
「謝ることはないよ」と僕は言った。
「最初はこうしたかったの」と彼女は言った。「恥ずかしいけど、一度こうしないことには、どうしても気持ちが落ちつかなかったの。これは私たちにとっての儀式みたいなものなの。わかる?」

分かるわけない。男の身勝手な欲望を島本さんに体現させているようで、心底気持ち悪い。

位置: 3,181
仕方ないわよ。だから他の女の人を好きになったことで、私はあなたを責めているわけじゃないのよ。本当のことを言うと、怒っているわけでもないのよ。不思議だけど、そんなに腹も立たないの。私はただ辛いだけよ。ものすごく辛いだけよ。そういうことになったらたぶん辛いだろうなとは想像してはいたけれど、想像をはるかに越えて辛いわね」
「悪かったと思う」

「女をつらい目に遭わせる、おれカッケー」的な「やれやれ」感をヒシヒシと。あたくしが斜に構えすぎてるのかな。

位置: 3,203
それから二週間ばかり、僕は果てしない記憶の再現の中に住みつづけた。僕は島本さんと過ごした最後の夜に起こったことを、ひとつひとつ思い出し、その中に何かの意味を見いだそうとつとめた。

恋愛は追うほうが楽しい、っての、しみじみ思うよね。そして追われる側になるのを嫌う。こいつ、ほんとクズやで。

位置: 3,273
結局のところ何もかも演技に過ぎなかったのではないかと思うこともあった。僕らは自分たちに振り当てられた役柄をひとつひとつこなしてきただけのことではなかったのか。だからそこから大事な何かが失われてしまっても、技巧性だけでこれまでと同じように毎日を大過なく過ごしていくことができるのではないか。そういう風に考えると辛かった。このような空虚で技巧的な生活はおそらく有紀子の心を深く傷つけていることだろう。でも僕にはまだ彼女の問いに答えることができなかった。

結論を先延ばし。ハーレムアニメの主人公のmoveですよ。クソ野郎です。

位置: 3,363
でも今こうしてイズミを前にすると、僕には彼が言わんとしたことをはっきりと理解することができた。 彼女の顔には表情というものがなかったのだ。いや、それは正確な表現ではない。おそらく僕はこう言うべきだろう。 彼女の顔からは、 表情という名前で呼ばれるはずのものがひとつ残らず奪い去られていた、と。

そして昔の女を見出し、「おれのせいで表情がなくなった」と悦に入る。どうしようもない。

位置: 3,369
彼女はおそらく僕を見つめていたのだと思う。

女は上書き保存。忘れてるよ。

位置: 3,498
「でもとにかく私が死ななかったのは、私がとにかくこうして生きていられたのは、あなたがいつかもし私のところに戻ってきたら、自分がそれを結局は受け入れるだろうと思っていたからなのよ。だから私は死ななかったの。それは資格とか、正しいとか正しくないとかいう問題じゃないの。あなたはろくでもない人間かもしれない。無価値な人間かもしれない。あなたは私をまた傷つけるかもしれない。でもそんな問題じゃないのよ。あなたには何もきっとわかってないのよ」

そして有紀子には母性を見出す。ママと恋人と元カノに囲まれて、幸せにくらしましたとさ、てか。

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