古典落語『子ほめ』を文字起こししてみる

次回の稽古まで日がないので

とりあえず以前に文字起こししたものを、再度文字起こししてみます。

本文

「うぉーい、タダの酒飲みに来たぞ。飲ませろーい」
「なんだい不躾に、タダの酒ってのは。あぁ、八五郎か。何だいタダの酒ってのは」
「へ、ネタは上がってんだ。グズグズ言うないシミッタレめ。表でタツ公に聞いたんだ。ご隠居のところに、タダの酒があるから好きなだけ飲んできていいって。」
「お前くらい無礼な奴もいないね。何だいタダタダってさっきから。うちにあるのは灘の酒だ。上方に親戚が居てな。毎年蔵出しの時には送ってくれるんだ。」
「へぇ、そうかい。あっしはてっきりタダの酒だと思ったよ。へへ、僅かな違ぇだ、灘とタダ…で、飲ませろよ」
「飲ませないとは言わないが、口の聴き方ってのがあるだろう。人様の家で酒の一杯でもご馳走になろうってんなら世辞の一つでも言ったらどうだい」
「世辞ぃ?そりゃあ無理だ、褒めるところがねぇもの」
「呆れたね。あたしを褒めるのが照れくさいなら家でも褒めたらいいじゃあないか。いつ来てもお部屋の掃除が行き届いております、壁の掛け軸は大層立派でございます、くらいのことを言ってみろ。あたくしもその方に趣味がないわけではない。ついては話し相手に一杯ってな話にもなる。」
「あぁそうか。そういやぁいいんだな。わけないよ。ご隠居のお部屋は、いつ来ても取り繕ったようにキレイですな。掛け軸は安くないよ、奢ってやんね、シミッタレのくせに。……どうだ、飲ませるか。」
「そう簡単にその気になるかよ。お前は口の利き方がぞんざいでいけない。ついちゃあ聞くけど、例えば久々に往来で持って友達やなんかと会ったとしよう。なんてぇ挨拶をするんだい?」
「友達?久しぶりだろ?決まってらぁな。『この野郎生きてやがったな』てなことをいうよ」
「あきれたね。相手はなんて言うんだい」
「てめぇより先にくたばるかよ、なんて言ってますがね」
「ますます呆れた。仲間内じゃあいいかもしれないが、こういうことを人様に言ってはいけない。そういうときは、『しばらくお目にかかりませんでしたがどちらへおいでになりましたか。』向こうで持って商売用で上方へとでもおっしゃったら『道理で大層お顔の色がお黒くなりました。でもご安心なさい。あなたなんぞは元がお白いのだ。故郷の水で洗えばすぐに元通りお白くなります。男は色の白いのより、少し黒いほうがにがみが走って良うございます』てなことを言うんだ」
「へぇ、そういえば一杯おごるってか」
「まぁおごるね」
「奢らなかったらご隠居が立て替えるかい?」
「立て替えやしないが、そういう時は奥の手を出すんだ」
「奥の手?懐刀でもってバッサリと?」
「そうじゃあない。歳を聞くんだ。失礼ですがあなたはお幾つでいらっしゃいますか、と。仮に向こうで持って四十五・六なんてことを言えば『四十五にしては大層お若く見えます。どう見ても厄そこそこ』なんて言えばいい。」
「なんでぇその厄ってのは」
「男の大厄は四十五だ」
「へぇ、それで一杯ありつけるってぇのか。」
「悪い気はしないだろうね」
「でも、四十五じゃなかったら弱っちまうね。五十だったらどうするの?」
「五十だったら四十五といえばいい」
「六十だったら?」
「五十五だ」
「七十だったら?」
「六十五だ」
「八十だったら?」
「推してみろ」
「八十のじいさんばあさん押して大丈夫かい?怪我しねぇかな」
「その押すじゃない、推して計れってんだ」
「なるほどね、あ、ついでに聞きてぇんですがね、子どもに対しても小さく言えばいいの?」
「どうしたんだい、藪から棒に」
「いや実はね、あっしの隣の竹のところにね、赤ん坊が産まれちゃってね。長屋の付き合いだとか何とかで、五十銭取られちまったんですよ。悔しいからいつか元をとってやろうと思ってたんですがね。ここで持って奢らせたら愉快だね。」
「そうかい、竹のところのお上さん、お腹が大きいと思ったら赤ちゃんがお産まれになったのかい」
「お産まれになっちゃってね。五十銭ふんだくられなすっちゃった」
「なんだいふんだくられなすっちゃったってのは。そうだな、そういう時は、『このお子さんはあなたのお子さんですか。たいそう福々しゅうございます。おじいさんににて長命の相がございます。栴檀は双葉より芳し、蛇は寸にしてその気を現す。私もこういうお子さんに、あやかりたいあやかりたい』」
「へー、それ一片にいうの」
「だんだんに言えばいい」
「へぇー、うん、このお子さんはあなたのお子さんですか、と。違うと困るね。」
「違やしねぇよ」
「そう?」
「そうだよ。第一、女は黙っているよ」
「そりゃそうだ。んで、大層ふくぶくぶく…ふくぶく、ふくぶくく、ふくぶっぷくぷ」
「何だい舌が回らねぇな、大人なのに変だね」
「あどけなくて愛らしいってぇいうよ」
「馬鹿にされてんだよ」
「せん、せん、洗濯は…二晩じゃぁ乾かない」
「勝手に変な意味を付け加えるんじゃないよ」
「だって全く何にもならないより、いくらか意味があったほうがいいだろ?」
「なに言ってるんだ」
「蛇は寸にして人を呑む」
「蛇は寸にしてその意を現す。私もこんなお子さんにあやかりたいあやかりたい」
「あぁ、その通りその通り、と。出来た」
「出来やしないよ。」
「いいんだ、これだけ覚えれば用はねぇんだ。」
「おいちょっと待ちなよ。飲ませるよ。小言は言うべしなんとやら、だ」
「へっ、ここでもって酔っ払って教わったこと忘れちゃったら台無しなんですから。これからあっしは表で持って色黒捕まえて、四十五捕まえて、竹のところの子どもを褒めて、3便飲むんですからね。へ、また来ますわ、サイナラ。」

「へぇ、ありがてぇありがてぇ。あのご隠居は話は長いけれど、なかなか言うことはいいいよ。顔はまずいけど言うことは良い。人間何かしら取り柄ってのはあるんだなぁ。おっ、あっちからおあつらえ向きの色黒が来るよ。こんつぁ!こんつぁ!」
「……こんちは」
「しばらくお目に掛かりませんでしたが、どちらへおいでですか?」
「失礼ですけども、貴方様はどちら?」
「え?知らないよ?……お前さんどちら?」
「こっちが聞きたいよ。」
「色が黒いね。」
「大きなお世話だい!」

「あぁ、行っちゃったよ,ああ,丸っきり知らねえヤツはダメなんだなあ,知ってるヤツァ来ねえかなあ。あっ,来た,案ずるより産むが易しってのはこのことだなぁ。伊勢屋の番頭,おーい!番頭さーん」
「いよー,これはこれは町内の色男!」
「あれ。向こうのほうが上手いね。こっちでご馳走しなきゃならねぇかな?……しばらくお見えになりませんでしたが、どちらへおいでですか?」
「夕べ湯屋で会ったよ」
「そうかい。それから,ずっとしばらく」
「変だね,どうも。今朝,納豆屋で会ったよ」
「よく会うねえ,じゃ,いつぞやにしばらくってことがあったね。」
「おお,商売用で上方へな。」
「おっ!おあつらえ向き!道理でたいそう・・・ツラが真っ黒で」
「そんなに黒い?」
「真っ黒。どっちが前だか後ろだかわからないよ。かろうじてその潰れた鼻が教えてくれる」
「おい,やだよ」
「ご安心なさい、貴方は元々……黒いんだから。宿命だと思って諦めろ。……どうでえ,一杯おごるか」
「おごらないよ,そんなこと言われて」
「おごらない?おごらないの。いいよ,こっちは奥の手ってえのがあるんだから。失礼ですが番頭さんおいくつ?」
「どうも,往来の真ん中で歳を聞かれると,めんぼくないね」
「めんぼくないの?ないの?」
「あるよ。こいつだ」
「四つか」
「四つだってよ,ずっと上だ」
「四百!」
「その間だ」
「二百!!」
「四十だよ。」
「四十!そうでしょう。四十にしちゃあたいそうお若く見える。どうみても厄そこそ・・・ありゃ、どうにも具合が悪いね。四十五より上を仕入れて来ちゃったからねぇ。都合が悪いよ。」
「どうして」
「すまねえけど四十五になってくれ」
「なってくれって,勝手になれるかい。大体人っていうのは少し歳を若く言いたいもんだよ。」
「わかってるって。分かってる。それをすべて飲み込んだ上で、言っているんだ。ちょっとだけ、番頭さん、四十五になってくださいよ。」
「そうかい,じゃあまあ四十五だ」
「四十五にしちゃあ,たいそうお若く見えます」
「当たり前じゃねぇか」
「どう見ても厄そこそこだ」
「何を言ってるんだい!」

「……なんだい。怒っていっちゃったよ。大人はどうも人の話を聞かなくて困るな。もういいや、竹のところいって、子ども褒めちゃおう。こんつぁ!」
「なんだよ、乱暴なのが来たよ。こんつぁ。」
「おう、てめぇのとこじゃ、この度はご愁傷様だってな」
「何を言ってやんだい」
「なんでも、子どもが生まれて弱ってんだろ?」
「子どもが生まれて祝ってんだよ。」
「ああ,そうか。弱ってんのは俺の方だ。五十銭取られて。」
「おめえ何しに来たんだ」
「あの,赤ん坊を褒めに来た」
「赤ん坊を褒めに来たんなら,そこで何か言ってねえで,上がれよ,こっち奥に寝てるから,見てくれ」
「お,どうも,ご免よ,俺ね,赤ん坊褒めさせると一人前なんだ,あの,この屏風の中かい。そうかい,ほう,大きいねえ」
「大きいだろ,うん,産婆さんもそう言ってたよ。大きいってんでね,ウチ中で喜んでんだよ,大きく生んだほうがいいんだってよ」
「どうも,大き過ぎたなあ,じいさんに似てるねえ」
「血筋は争えねえもんだな,よくじいさんばあさんに似るって言うじゃねえか」
「そっくりだねえ,この頭のハゲ具合ねえ,皺の寄り具合ねえ,歯の抜け具合。え,いや,あの,このねえ,どうも,よく似てるねえ,そっくりだ」
「そりゃあ爺さんだよ。」
「ああ,そうかい,じいさんかい,あんまりそっくりで変だと思ったよ。赤ん坊にしちゃあひねこけちゃって,第一,赤ん坊が入れ歯はずして寝てるわけはねえな」
「当たり前だよ,その向こうだよ」
「あっ,こんなとこに落っこってやがった」
「落っこってって,寝かしてあんだよ」
「小せえなあ。こりゃ育つかな」
「何を言ってやがんだい」
「ずいぶんと小さいよ。こりゃあ今のうちに絞め殺すのが親の慈悲じゃねぇかな。」
「このやろう、ぶつよ。」
「はあ,でも、小さいけど紅葉のような手だな」
「おっ、いいことを言うね。たまにそういうことをいうから俺はお前さん好きだよ」
「でもロクな大人にならないよ、こいつは。こんな小さな手をして俺から五十銭ふんだくったんだからね。」
「やめろよ。」
「でも…お人形さんみたいだな」
「うまいこと言うねえ,おめえだけだ,人形みたいだって言ったのは」
「お腹を押すとキュキュッて泣くよ」
「おい,よせよ,壊しちゃうよ」
「うん、うん。じゃあ、そろそろ。竹さん、これがあなたのあなたのお子さんですか」
「俺の子だよ」
「本当?違ったって女は言わないんだよ。」
「また始まった……」
「大層ふてぶてしくございます。」
「?」
「おじいさんに似て長兵衛でございます。センターは永山の隣だ。ジャワスマトラは南方だ。私もこのようなお子さんに、首吊りたい、首吊りたい」
「さっぱりわからない」
「俺にもわからないんだがね……でも、おかしいな。しばらくお目に掛かりませんでしたがね,どちらの方へおいでになりましたか?下の方へ?道理でお顔の色が・・・赤いね。一杯飲んだのか」
「赤けえから赤ん坊っていうの」
「ああ,赤けえから赤ん坊,黄色けりゃあさくらんぼ、太けりゃ丸太ん棒だ。」
「何言ってんだ」
「時に竹さん、この子はお幾つですか?」
「まだ生まれて七日目だよ」
「おー,初七日か」
「お七夜ってんだよ」
「へえェお七夜。それはまたお若く見える」
「よせよ,一つで若けりゃいくつに見えるんだい」
「どう見ても産まれる前でございます」

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