『ミステリーの書き方』 読み物として十分面白い

書く気がなくても十分面白い。
むしろ、読んで書く気になってしまうくらい。

[amazonjs asin=”4344424018″ locale=”JP” title=”ミステリーの書き方 (幻冬舎文庫)”]

ミステリー最前線で活躍する作家43人が惜しげもなく披露する、極秘の執筆作法。作家志望者、ミステリーファン必読の書。

日本推理作家協会 編著
赤川次郎/東直己/阿刀田高/我孫子武丸/綾辻行人/有栖川有栖/五十嵐貴久/伊坂幸太郎/石田衣良/岩井志麻子/逢坂剛/大沢在昌/乙一/折原一/恩田陸/垣根涼介/香納諒一/神崎京介/貴志祐介/北方謙三/北村薫/北森鴻/黒川博行/小池真理子/今野敏/柴田よしき/朱川湊人/真保裕一/柄刀一/天童荒太/二階堂黎人/楡周平/野沢尚/法月綸太郎/馳星周/花村萬月/東野圭吾/福井晴敏/船戸与一/宮部みゆき/森村誠一/山田正紀/横山秀夫

日本を代表するミステリー作家がずらり。
本当にオールスターなのが凄い。ここに入っていない大作家のほうが珍しいといって良いのでは。

そして、やっぱり彼らの仕事論は面白い。
先日、テレ東でやってた『ご本出しときますね』も感じましたが、作家という人種は何よりも面白い存在だと思っています。ぜひお友達に一人欲しい。

ミステリーはなぜ犯罪をテーマとするのか。ミステリーのテーマには特に殺人が多い。これは謎を設定するのに、殺人が最も適しているからである。殺人にはフー、ホワイ、ハウという謎を構成する三大要素が含まれている。謎があれば、犯罪でなくともよいはずであるが、たとえば善行の主はだれかという設定では、その主が判明しても表彰されるだけで、罰せられない。犯人が捕まれば死刑に処せられるかもしれぬとなれば、犯人は自分を守るために必死の知恵をめぐらし、何重ものバリアを設け、これを追う捜査陣と攻防の火花を散らす。つまり、㉚犯罪は推理の趣向なのである。もっと深い謎や、面白いミステリー環境が設けられる趣向があれば、べつに犯罪でなくともよい。いまのところ、犯罪に勝るミステリーの趣向はなさそうである。
at location 555

森村誠一先生のお言葉。
根本的ですが、なるほど間違いない。一言一句、隙がなく余分がない。こういう文章を上手というんだなぁ、と思います。

人類の歴史をふりかえると、様々な文化や芸術が、宗教と科学の狭間から誕生してきた(ような気がする)。それなら小説もまた、自分の才能を信じるという宗教性、大勢のシナリオライターが経験から導き出した理論という科学性、そのふたつが両立していることこそのぞましいのではないか。  しかしこれまで、私自身の体験において、執筆における科学性の部分をないがしろにされることがおおかった。十年ほど前になる。作家になりたいという友人にシナリオ理論の勉強をすすめたところ、「物語が画一的になる」「それで小説が書けるようになるとはおもえない」ということを言われた。理論や技術によってオリジナリティがなくなるのではないか、という危惧は自分も抱いたことがある。しかし学んでみると、シナリオ理論は道具でしかないということがわかったのだ。
at location 2082

乙一先生のお言葉。
あまり先生の作品で面白い!と思ったことはないのですが……この“ミステリーの作り方”は滅茶苦茶面白く読みました。興奮して何度も読んだくらいです。
素晴らしく論理的で刺激的。
また、朱川湊先生も「真ん中辺りでぶん投げろっ!」っておっしゃってますしね。それくらいの根性と描き上げる胆力が求められるということでしょうな。

最後に横山秀夫先生のお言葉。

 誰にでも、「間違っても、こんなことだけは自分の身に起こってくれるな」と内心思っていることがあるはずです。考えるのもおぞましいので、日頃はあまり考えずにいる。そうした潜在的な恐怖心を炙り出す出来事を起こし、主人公に強烈な負荷をかけて一気に物語の緊張感を高めるわけです。
出来事は「事件」と言い換えることができます。ただ私は、「実際の死」よりも「社会的な死」や「組織の中での死」に重きを置いて書いているので、事件を殺人にすることは滅多にありません。ミステリーを書くうえで、殺人事件が魅力的な素材であることは確かですが、「当事者性」という意味においては、主人公が刑事であれ探偵であれ死者の近親者であれ、直接の被害者にはなりえません。その殺人事件を「社会的な死に瀕する事件」に置き換えることによって、主人公は真正の当事者になりうる。つまりは、読み手が事件の「最大の被害者」とともに物語の中を歩ける、という利点が生じることになります。
at location 6498

シン・ゴジラの感想でも同じようなこと言っている人をみたなぁ。
トリックも大事だけど、読者をグイグイと物語に引き込んでいくためにはありとあらゆることに気をつけて、最後は納得させなきゃいけないわけだ。

ミステリーを書く、ということの大変さを改めて感じるとともに、「何だかオレにも書けそうだ」とか勘違いしそうなことを思わせてくれる、素晴らしい本でやんした。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする