東野圭吾氏の魅力は、徹底したエンタメに徹しているところだと思います。
あまり感情に重きをおかず、淡々と物語を進める。その様子が何とも好ましい。あたくしも普段は癖のある文章が好きですが、とはいえ、ここまで物語に徹されるのもまた好ましく思います。すごいね。
よっぽど物語に自信があるんだな。
p768
ただ一人美佳だけが、暗い気持ちになっていた。何か取り返しのつかない事態に陥りつつ あるように思えた。いや、一人だけではないかもしれない。篠塚一成も出席していたからだ。
家に新しい母親のいる生活が始まった。外見上、篠塚家には大きな変化はないように思わ れる。しかし確実にいろいろなものが変わっていくのを美佳は感じていた。死んだ母親の思 い出は消され、生活パターンも変容した。父親の人間性も変わった。
亡くなった母親は生花が好きだった。玄関、廊下、部屋の隅に、いつもその季節に応じた 花が飾られていた。今、それらの場所にあるのは、もっと豪華で美しい花だ。誰もが目を見張るほど見事なものだ。
ただしそれは生花ではない。すべて精巧な造花だ。
うちの家全体が造花になってしまうのではないか。美佳はそんなふうに思うことさえあった。
この雪穂という女主人公が、どうにもつかめない。思慮深いようで、結構簡単に結婚相手を決めているようにも見える。あてつけか?
男主人公の亮司は亮司で、なんだか急に感傷的になったりして不安定。リアルっちゃリアルなのかもしれないけど、リアリティという点では疑問。
p792
「もしそうだとしたら、どうしてそんなことを………」
「そういうやり方が、相手の魂を奪う手っ取り早い方法やと信じてるからです」
「魂を奪う………」
「はい。で、あの二人がそう信じる根元に、たぶん質屋殺しの動機がある」
一成が目を見張った時、机の上の電話が鳴りだした。
レイプなんですけどね。あたくしはレイプをしたこともされたこともないので、よくわからない(ついでに言えば性的にそういう状況を消費するのもあまり好きではない)のですが、そんなに魂を奪うのに手っ取り早いのかしら。あらゆる行動の中で、最も。
ただ、800ページを超える量でもあっという間に読めてしまう。
東野圭吾氏、すごい。