艶噺「もう一合」

昔、酒呑みの亭主がいた。仕事の腕は悪くないのだが、あまりに酒呑みなので、家は常に貧乏している。
「おい、タエ、もう一本つけろぃ」
「お前さん、もうないよ」
「ないわけあるかぁ、いいからつけろ。その辺の箪笥でも火鉢でも売りゃあいい。」
「そんなもの、もう売ってしまったじゃないか」
ぶつくさ言いながら、おかみさん、しぶしぶ外へ出かけて行く。
しばらくするとおかみさん一合分持って帰ってきて、一本つける。
「はい、一本つけましたよ。これが最後の一合です。」
「おう」
「でも、もう本当にこれでお終い。もう売るものがないんです」
「もう、ってことは、さっきのが最後か。何を売ってやんでぇ」
おかみさん、何も言わずに被り物をとると、あたまが綺麗に剃れている。
「これだよ。」
「おま、おまえ…」
「ねぇ、お前さん、ここまで落ちたんだ。ここから一つ、心を入れ替えて、明日から頑張って商いをしておくれよ。」
「……そうか、悪かった。明日から、おれは気持ちを入れ替えるよ」
髪は女の命ですから、さすがの亭主も涙を流し、一本つけたのをくーっと飲みますと、二人の間に和やかな雰囲気が戻ります。
仲良く二人で布団に包まり、一発勝負をやらかそうとしますと布団の中で亭主が叫びます。
「タエ!タエ!」
「……どうしたんだい、おまえさん」
「ここにもう一合分、生えている」

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