泡坂妻夫著『生者と死者―酩探偵ヨギガンジーの透視術』感想 遊び心は認める、が

その界隈では有名な「袋とじミステリ」。試しに読んでみました。

はじめに袋とじのまま、短編小説の「消える短編小説」をお読みください。そのあと各ページを切り開くと、驚くべきことが起こります―。そして謎の超能力者と怪しい奇術師、次次にトリックを見破るヨギガンジーが入り乱れる長編ミステリー「生者と死者」が姿を現すのです。史上初、前代未聞驚愕の仕掛け本。

まずは袋とじのまま読んだところ、、、、、微妙。
そりゃ、文章として成り立ってはいますけど、じゃあ面白いかと問われると窮しますね。

成り立ってはいますが、とてもプロのクオリティとは言えないというのが正直な感想。

p87
「この世にイカサマ超能力者がいると思うだけで、むやみに腹が立つんです。それと、本当につまらない手でころりと欺され、超能力者を信じてしまうようなお人好しにもムカムカしてしまいます。この世から、そうした者が根こそぎなくなれば、どんなに晴れ晴れするでしょう」

ちょっと分かる。最近の陰謀論者にも同じことが言える。

p116
「これから奇術が始まります。千秋さんは右手で持っていたコインを飛ばしたのですよ。飛んで行ったコインは正確に左手の中に当たり、はね返ってグラスの底に落ちるわけです。口で言えば ただそれだけのことですかね。本当にまばたきをする間の芸です」
シルヴィアはゆっくりと右手のコインを左手に近づけ コインをグラスに落として見せた。
「そんなことをすれば 右手が変に動く でしょう」
と、藤枝 が言った。
「この技法が難しいと言ったのはそのことです。右手はごく自然な形に指を曲げたまま、その指を動かさずにコインを飛ばし、しかもコインが飛んでいく方向から正しくないといけません だからこれは大変な技術なのです」

大変な技術かもしれないけど、トリックとして使うと卑怯な感じするね。著者はマジックもおやりになるので、可能かどうか十分に吟味していたかもしれないけど、無知な読者にとっては魔法と同じ。マジックと小説、似ている部分もあるけど大いに非なる部分もあると言えます。

p186
「すると さっき見た 千秋さんのドッペルゲンガー は?」
「千秋さんの弟、普通の人が見ると見分けのつかないほど似ておりますから、 多分、双子のきょうだいなのでしょう。その弟がいろんな情報を提示して、千秋さんを超能力者にしされてあげようとしていた、本人なのです」

もろにノックスの十戒違反な気もします。

真面目に怒るのも野暮ですが、一応ね。
叙述トリックは知る前に読みたいけど、バカミスは読む前に知りたい。真面目に読んじゃうからね。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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