西村賢太著『人もいない春』感想 あたくしはDVが読みたいのか?

北町貫多シリーズの大いなる中だるみ。

小さいころから執念深く、生来の根がまるで歪み根性にできている北町貫多。中卒で家を飛びだして以来、流転の日々を送る貫多は、長い年月を経てても人とうまく付き合うことができない。アルバイト先の上司やそこで出会った大学生、一方的に見初めたウエイトレス、そして唯一同棲をした秋恵……。一時の交情を覆し、自ら関係破壊を繰り返す貫多の孤独。

北町貫多が好き?だからスラスラと読める。筆の力なのか、単なる根がスタイリストなのか。

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彼は、自分が確かに無能に違いない点はすでに覚っていたが、しかし他人から簡単にそうと決めつけられて涼しい顔をされるのは、到底耐えられることではなかった。

これは本当にそうなんだけど、それをその通り書けるというのは私小説の強みですな。登場人物の一人がそういうのでは慊りないわけです、同じようにスタイリストの我々としては。

位置: 1,486
彼はすぐさま秋恵のあとを追い、寝間のドアを乱暴に蹴り開くと、早くも 床 の中へもぐり込んでいた彼女の、その掛布団を邪慳に摑んで引きめくり、 「てめえは一体、いつまで病んでりゃ満足するんだ!」
顔面めがけて、目一杯の大声で怒鳴りつけた。

これなんざ、最悪の行為だよね。

そして何が最悪って、あたくしがラインを引っ張ってるのがここともう一箇所しかないってところ。結局、あたくしは他人のDVが読みたくて西村賢太を読んでいるのか……?それはそれで私小説の消化の仕方としてはありだと思うけど、なんだかなぁ。

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