モーリス・ルブラン著『奇岩城』 俺のホームズになにしてくれてんだ

ルパン初読、にて本著となりました。

レイモンドが放った一弾は、みごとに逃走せんとする賊を撃ち倒した。ところが重傷を負ったはずの賊が煙のごとく消え失せる。しかも屋敷から盗まれたものは何一つなかったのだ。この奇怪な謎を解き明かしたのは、まだ高校生のイジドール少年。しかも彼は事件の首魁を、かのアルセーヌ・ルパンだと喝破した! かくて怪盗対少年探偵の熾烈な頭脳戦の幕は切って落とされた……シリーズ初の長篇にして代表作に数えられる傑作アルセーヌ・ルパンが新訳で登場!

怪盗といえばルパン。みんなだいすきルパン三世。しかし読んだことはありませんでした。入門書としての奇岩城はどうなんでしょうね。

それにしても、ホームズも好きな人間から言わせると、ホームズへの凌辱は許せないね。いくら著作権とかが曖昧だからって、これはひどい。他人のヒーローをここまで蹂躙するのは、気分のいいもんじゃない。

位置: 706
「二十年も前から」とジェーヴル伯爵は言った。「ダヴァルはわたしのもとで働いていたんです。彼のことは、とても信頼していました。本当によくつくしてくれたんです。どんな誘惑に負けたにしろ、そのダヴァルが裏切ったなんてことは、公にしたくなかったんです。今までのことを考えるとね」

ミステリの好みの問題かもしれませんが、私情を殺人現場に持ち込むの、好きです。人間臭いなぁって感じがしてね。それで捜査が止まったりすると「なんてことしてくれるんだ!」とは思うけど、それはそれで長い目でみると人間臭くて。

位置: 1,427
精悍な顔つきをした、若い男だった。ブロンドの髪を長く伸ばし、 鹿毛 色 がかったあご髭は二つに分けて、短く三角に切りそろえてある。黒っぽい服装はイギリスの司祭を思わせ、厳しそうにどっしりと構えたところは、どこか畏敬の念すら抱かせた。

鹿毛色(かげいろ)と読むらしいです。ちょっと赤みがかってるのかな。

ルパンつーとこのイメージあるよね。ホームズがジェレミー・ブレットなのと同様。

位置: 1,439
ああ、この笑い方! 若々しくて朗らかで皮肉っぽくて。こっちまでつられて愉快になってくる……わたしはぞくぞくっとした。それじゃあ、本当にそうなんだろうか?

「ハハハハハ!」と高らかに聞こえてきそうな。

位置: 2,378
ルパンだって、それははっきりと感じているはずだ。こうなったらもう、目の前の現実を受け入れるしかないと。それが証拠に残りの犠牲者二人、ガニマールとシャーロック・ホームズも、ある日ひょっこり姿をあらわしたからだ。それにしても二人の帰還は、何ともぶざまなものだった。パリ警視庁の真ん前のオルフェーヴル河岸で、手足を縛られ眠りこけているところを、屑屋が見つけたのだ。

散々じゃねーか。俺等のホームズに何してくれてんだ。

位置: 2,536
かくしてわれわれは、次のような反論しがたい結論に達するのです。ルパンはわれわれが知っているだけのことから、自らの知力だけをたよりに、並はずれた天才のなす魔術によって、解読不能の暗号を読み解きました。つまりルパンこそが、歴代フランス王の最後の後継者として、王家に伝わる《 空洞の針》の謎を手に入れたのです。

ここ、いまいち分からなかった。でも、ルパンは最愛の人を手に入れられなかったじゃない?最後まで読んでも、いまいちここでボートルレ君が打ちひしがれる理由が分かりませんでした。読解力不足かしら。

位置: 2,904
ルパンは指を口にあて、ぴいっと鳴らした。
尊敬すべき老学者の外見と、ルパンの子供っぽい態度や口調の対照がおかしくて、ボートルレは思わず笑ってしまった。
「やあ、笑った、笑った!」と叫んで、ルパンは嬉しそうに飛びあがった。「きみに欠けてるのは、その笑顔さ……若いくせして、ちょっと生真面目すぎるんだよ……さっぱりして純真で、本当に気持ちのいい性格をしているのに……笑顔がないんだよな、きみには」

このボートルレ君、ちょっとルルゥのルールタビーユに似ていると思ったら、そう思う人は少なくないらしい。

位置: 4,006
ルパンは感情のたかぶりを抑え、気持ちを落ちつかせてこう続けた。
「きっと、きっと忘れてくれる! わたしは彼女のために、すべてをなげうったのだから。《 空洞の針》という難攻不落の隠れ家も、財宝も、権力も、誇りも……そう、すべてをなげうった……今はただ、愛する男でいたいだけだ……そして、まっとうな男で。彼女が愛せるのは、まっとうな男だけなのだから……まっとうになったって、かまわないじゃないか? さほど不名誉なことでもあるまいに……」

ロマンチストな面が多分にあって、ここがルパンの大きな魅力なんだと思われます。ただ愛する男でいたいだけ、あたくしには到底理解できませんがね。

位置: 4,092
「この恥知らずめ!」とルパンは、突然こみあげてきた怒りで叫んだ。
思いきりホームズを突き倒すと喉につかみかかり、ぐいぐいと指を肉に食いこませる。イギリス人は抵抗するすべもなく、ただあえぐばかりだった。 「ぼうや、やめて」とヴィクトワールが懇願した……  ボートルレが駆けよったときにはもう、ルパンは手を放していた。そして地面に横たわる敵のわきで、すすり泣いていた。
何ともいたましい光景だった! そのとき感じた胸に迫る悲しみを、ボートルレは決して忘れることはないだろう。レイモンドに対するルパンの愛を、彼はよく知っていた。最愛の女性に微笑んでもらうため、偉大な冒険家が犠牲にしたものの大きさを、誰よりもよく知っていたのだから。

ホームズ、腕力で完全敗北。ホームズの魅力はそこではないにせよ、それにしても描かれ方が雑で、ちょっと不愉快ですね。

位置: 4,102
ルパンは立ちあがり、単調な歌声に耳を澄ませた。それから、あの農園を見つめた。レイモンドの傍らで穏やかに暮らそうと願った、幸福な農園を。ルパンはレイモンドを見つめた。愛のために死んだ哀れな恋人。彼女は真っ白な顔で、いま永遠の眠りについている。

奇しくも、女性の最期がちょっと前に読んだ『赤毛のレドメイン家』と同じ。武士道じゃないけど、死ぬことと観たりという感覚は海外にもあるんだろうね。

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