永井紗耶子著『大奥づとめ―よろずおつとめ申し候―』感想 よき短編時代小説

短編が集まって一つの物語になっている形式のやーつ。
ドロドロした愛憎渦巻かない方の大奥づとめについて、好ましく描かれております。

昭和では共感を呼ばなかったであろうタイプの時代小説。今読むと納得。

私たち、色気ぬきで働く〈大奥ウーマン〉です。知られざる女性たちを描く傑作。
上様の寵愛こそすべて、とは考えなかった女性たちがいた。御手つきとは違い、昼間の仕事に励んだ「お清」の女中たち。努力と才覚で働く彼女たちにも、人知れず悩みはあって……。里に帰れぬ事情がある文書係の女、お洒落が苦手なのに衣装係になった女、大柄というだけで生き辛い女、負けるわけにはいかぬが口癖の女。涙も口惜しさも強さに変えて、溌剌と自分らしく生きた女たちを描く傑作。

『木挽町の仇討ち』は直木賞・山本周五郎賞ということで、まだ高い。
なのでこちらを先に読みました。

くれなゐの女

位置: 1,529
「己のことを、醜いし、御末だし、と卑下しているのは謙虚なようでいて、その実、とても楽なのです。醜かろうと、身分が低かろうと、それでも己にできる精一杯をやると決めてみると、そのための道が見えてきます。その結果があれかと言われてしまえばそれまでですが、それでも己の力を尽くした結果、人に笑われたとしても、あまり痛みは感じぬものです。恥をかくことは、さほどのことではありません。恥をかくやもしれぬと 怯えていることこそ、苦しいのだと、私はそう思います。

真実です。立派。

が、その域に達することができる人、なかなかいない。知識として知ることは出来ても、自分の指針に出来る人、尊敬よね。

位置: 1,708
「いいですか、どうせ人の心など見えぬのです。見えぬ人の心の中を、悪い思いだと勝手に推察したところで、何の得にもなりますまい。それならば、良い思いを持っているのだと信じた方が幸せでしょう。今、目の前にある事実としては、先方は縁談を受けられた。これからは夫婦となり、玉鬘さんと共に暮らすと決めたということです。そのことから推察される、一番幸せなことは何です

竹を割ったような覚悟。素晴らしい。

これを時代小説の古文調で言われると、何となく納得しちゃうのはコンプレックスなのかな。

つはものの女

位置: 2,279
「それは、御すことなどできるものなのですか」
「難しいことはない。まずは話し方を変えること」
「話し方……」
「さよう。厳しいことを言う時は、笑顔で声を低く、口調は柔らかく。相手がこちらの言い分を通してくれた時には、大仰に高い声で 誉めそやす。その二つを、正しい間合いで出せるようになること。それだけじゃ」

またまた、自分の指針にするには難しいことを仰る。しかし、これもまた真実かもしれない。背筋が伸びます。

位置: 2,355
「私は俗世から逃げるが、これもまた策。そなたはもう、一生、私には勝てぬ」
私は 呆れて目を見張り、次いで笑いました。
「貴女様は、実は私も 敵 わぬほどの負けず嫌いでいらっしゃいますね」
「おや、知らなんだか」
「いえ、とうに存じていたようにも思います」

まったく。気持ちの良い人ばかりだね。
これだよ、時代小説は。何となく背筋が伸びる。迂闊に「昔はよかった」にならないようにしないとね。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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