面白かったけど、叙述トリックのレベルとしては少し残念。
工場で働く単調な日々に鬱々とするヒキコモリ気味の青年。少女を見えない悪意から護り続ける少年。密室状況の屋敷内で繰り広げられる惨殺劇。別々に進行する3つの物語を貫くものは、世界を反転させる衝撃の一文と、どこまでも深い“愛”である。なぜピアノは沈んだのか?著者渾身の戦慄純愛ミステリー!
面白かったのは嘘ではないんですが、記憶操作はトリックとしてやっちゃだめでしょう。姑獲鳥の夏を思い出しました。いくら小説でも、いや推理小説だからこそ、マナーはある。ノックスの十戒を説くわけじゃないけどね。
記憶操作はそれの一つでしょう。「忘れてました」が出てきたんじゃ騙され甲斐がない。
p68
しかし性欲。
これだけはどこにもならなかった。
弁明ではないが、僕は前代未聞の色魔ではない。性に対する興味と認識は年相応なものにすぎなかった。僕の苦悩は、性という感情をプランクトンの皮で防げなかったおどろきから発生したものだ。
性欲はね、どうにもならない。
これは実感としてある。強い弱いの問題じゃないんだ。なんとか上手くマネジメントしないと、大変なことになる。
p133
「注視しているね。カメラやるの?」
「やらない」と答えると、どうりで描写に対する情熱が足りなさそうな顔をしていると思ったよと返された。本当に腹の立つ奴だ。
良い返答だなぁ。
人の自尊心をなぶるよね。
p333
で……そんな風に順調に見えた二人の関係に予想外の事態が発生、と」鏡の解説を辞めさせたかったが、体はまだ動かない。これは何の拷問だろう。「なんと『紘子』に大学生の彼氏ができてしまった。これには俺も笑わせてもらったよ。だっていきなりなんだもの」
これは読者のあたくしもショックでしたね。
あたくしもメル友がおりました。異性のね。
そこそこ上手くやってまして、それはそれで良かったし、今は交友がなくなりましたが、いい思い出です。
しかし、急に彼氏ができて疎遠になるなんてぇのは、ちょっと、ねぇ。
p395
あの馬鹿の名前はね、伽那子って言うんだ
これは露悪的。
p409
「ち、ちょっと待て」精二君のことはどうでもいい。「伽那子と精二君が、こ、恋人?」「は? まさか気づいてなかったのかい? うわあ……なるほど。こいつは予想以上に重病だな」
こいつも露悪的。
ただ人を気分悪くさせるためだけの描写。これがたまらない、という気持ちもわからないでもないけど、ちょっと、ねぇ。品は良くないかな。
騙されるなら、もっと気持ちよく騙されたい作品でしたね。
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