村上春樹著『レキシントンの幽霊』感想 やっぱり短編くらいがちょうどいい

長い物語になると、どうしてもそりが合わない。

古い屋敷で留守番をする「僕」がある夜見た、いや見なかったものは何だったのか? 椎の木の根元から突然現れた緑色の獣とそのかわいそうな運命とは。「氷男」と結婚した女は、なぜ南極に行こうとしたのか……。次々に繰り広げられる不思議で、楽しく、そして底なしの怖さを秘めた7つの物語。

短編は気にならない。なんでしょうね。

位置: 295
ときどきレキシントンの幽霊を思い出す。ケイシーの古い屋敷の居間で、真夜中ににぎやかなパーティーを開いていた得体の知れない数多くの幽霊たちのことを。そして鎧戸をぴたりと閉めた二階の寝室で、予備的な死者のようにこんこんと深く眠り続ける孤独なケイシーと、彼の父親のことを。人なつっこい犬のマイルズと、息を飲むほど立派なレコード・コレクションのことを。ジェレミーの弾くシューベルトと、玄関前に停まっている青いBMWワゴンのことを。でもそれらはみんなひどく遠い過去に、ひどく遠い場所で起こった出来事のように感じられる。ついこのあいだ経験したばかりのことなのに。

そんな経験ないけど、何となく分かる気がする。これ筆の力ね。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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