ゲーテ著『若きウェルテルの悩み』感想 なんという迷惑なやつだ

青年症候群ではあるけど、しかし迷惑なやつだ。

「弾丸はこめてあります。十二時が打っています。ではやります。――ロッテ、ロッテ、さようなら。」
恋のために死ねるのか? 刊行後200年以上、世界の若者を魅了し続けた永遠の青春小説。
新潮文庫版は昭和26年1月刊行、125刷215万部の超ロングセラー。

ゲーテ自身の絶望的な恋の体験を作品化した書簡体小説で、ウェルテルの名が、恋する純情多感な青年の代名詞となっている古典的名作である。許婚者のいる美貌の女性ロッテを恋したウェルテルは、遂げられぬ恋であることを知って苦悩の果てに自殺する……。
多くの人々が通過する青春の危機を心理的に深く追究し、人間の生き方そのものを描いた点で時代の制約をこえる普遍性をもつ。

普遍性は持つかもしれないけど、傲慢さが鼻につくね。自分のやっていることに疑念を抱かない性質ってのは、古今東西を問わずあるんだけど、とはいえ、ちょっと行き過ぎてる気もする。あたくしの若い頃も、おんなじくらい傲慢だったんだろうか。

ここまでではなかった、と思いたい。

位置: 527
そうじゃないか、ウィルヘルム、この世の中で子供らほどぼくの気持に近いものはないんだ。子供たちの様子を見ていて、他日世間に出てからはなくてかなわぬいろいろの美徳や才能が子供の中に認められたり、片意地の中に未来のものに動ぜぬ堅固な性格を見、いたずら気の中に世の荒波を乗り越えてゆくに大切な頼もしいユーモアと軽妙さとを見いだし、何から何までが実に清らか、実にすなおなのを見るとき――ぼくは人類の教師(訳注 キリストを指す) の金言をいつだって繰り返さずにはいられないんだ、「 爾等 もしこれらの者のひとりのごとくならずば」それにねえ、君、ぼくらだって子供とどうちがうんだ。

ウィルヘルムも災難だ。こんなやつと文通する羽目になるとは。いや、同類だから返事ができるのか。

位置: 743
ウィルヘルム、愛のない世界なんて、ぼくらの心にとって何の値打ちがあろう。あかりのつかない 幻 燈 なんて何の意味があるんだ。

若い。

位置: 1,583
ぼくだけがロッテをこんなにも切実に心から愛していて、ロッテ以外のものを何も 識 らず、理解せず、所有してもいないのに、どうしてぼく以外の人間がロッテを愛し うるか、愛する 権利 が ある か、ぼくには時々これがのみこめなくなる。

傲慢。

位置: 1,833
そんなとき、ぼくは古い詩人を読む。まるで自分の心の中をのぞくような気がする。ぼくはいろいろなことに堪えなければならん。ああ、ぼく以前でも人間はこんなに哀れなものだったんだろうか。

あたくしも古典を、そんなときに読みますし、自分の心の中を除くような心持ちになります。

位置: 2,207
自殺です。――横になり、朝、眼をさましたときの、落ち着いた気持のときも、死のうという考えは、まだ小ゆるぎもせずしっかりとしています。――絶望じゃありません、がんばり通したぞという安心です、あなたの犠牲になるのだという確信です。そうだ、ロッテ、黙っている必要がどこにあります、ぼくら三人のうち、誰か一人が引っ込まなければならない。ぼくがその役を買って出るんだ。白状するとぼくの引き裂かれた心の中を、しばしば――あなたの夫を殺そう――あなたを――自分を殺そうという考えがそっと狂いまわっていたのです。

なんと迷惑な輩だ。善意なやつほど始末が悪いというのはこのこと。

解説

位置: 2,841
ヴェッツラルにおけるシャルロッテ・ブフとの恋愛体験をもとにして作られたこの小説が発表されるや 否や(初稿は1774年に完成し、1784年に第二稿が成った。ここに訳出されたのは、この第二稿である)、読書界は深刻な衝撃を受け、賛否両論の 渦 が巻き起った。というのも、これはそれまでの小説の常識を完全に打破る作品だったからである。
十八世紀の小説は、恋愛小説にせよ、旅行小説にせよ、読者に娯楽を提供し教訓を与えることを目的としていた。すなわち十八世紀は芸術や文学の本質的機能を、人を「 娯 しませることと有益であること」(prodesse et delectare)に見ていたのに対して、『ウェルテル』は根源的に人間の生き方そのものを問題にしようとした。読者の思念は主人公がなぜ自殺しなければならなかったかという点に 拘わりあわざるをえない。従来の小説では、愛が人間の自由意志によって死に結びつくなどということは、考えられないことだった。

現代人の感覚からすると、にわかに疑問になりますな。日本人は特に腹を召したり、心中したりという文化と教えられましたからね。心中は江戸時代だとしても、切腹は鎌倉前からあるわけで。

欧米世界が純文学に接した、いわば最初のきっかけだったのかもしれませんね。私小説に近いのかも。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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