『友がみな我よりえらく見える日は』感想_1 タイトルで衝動買いだが素晴らしかった

この石川啄木の歌のタイトルでやられました。衝動買い。
しかし内容も良かった。

ホームレス同然の生活を続け妻子からも捨てられた芥川賞作家、アパートの五階から墜落し両目を失明した市役所職員、その容貌ゆえに四十六年間、一度も男性とつきあったことのない独身OL……人は劣等感にさいなまれ深く傷ついたとき、どのように自尊心をとりもどすのか。読むとなぜか心が軽くあたたかになる、新しいタイプのノンフィクション。

ノンフィクションなのか。
いや、どうなんでしょう。だいぶカギカッコ付きだとは思いますが。
でも内容は良かった。

位置: 5
友がみなわれよりえらく見ゆる日よ花を買ひ来て妻としたしむ
(石川啄木『一握の砂』

いい歌。
そんなもんだよ、という押し付けがましくないのがいいよね。花買って妻と親しむ。これ以上のことはないんだ、という。これを教養と言いたいね。

位置: 169
ウェイターが水を運んできた。
「ジャワカレー」彼女がいった。
「お飲物はどうしますか?」ウェイターが聞いた。
「いりません」彼女は答えた。
木村は普通の日の夕食を1000円以内とするように決めている。ちなみにジャワカレーは880円。彼女がロイヤルホストで食べるメニューは決まっている。ジャワカレーのほかに、クラブハウスサンドウィッチ(1000円)、竜田揚(830円)、まぐろのステーキ(1000円)。

こういうロイホにもちゃんと自分のルーティンができている人をあたくしは信用します。ロイホという設定も絶妙。

位置: 534
シェークスピアの『オセロ』をもち出すまでもなく、昔から嫉妬心ほどやっかいなものはない。

まったくだね。

位置: 566
そこで、弓子は彼の前でテレフォンクラブに電話をした。男が出た。いろいろ話をした。嘘をついて会う約束をした。しかし、ちっとも楽しくなかった。健は不機嫌になった。「俺の目の前でやるのはやめてくれ」といった。
テレフォンクラブ通いは遊びで、それを認めてくれないなら別れると健はいった。弓子は別れたくなかった。好きだったからだ。結局、彼のテレフォンクラブ通いを認めるしかなかった。

妙な話だが、人間臭くていい。

位置: 719
本を読んで勉強し、小説家になりたい。そのためには、朝から晩まで働いて、疲れて寝るという生活ではダメだと東は考えた。製本屋をやめることに決める。
「ぼくは日払いのアルバイトをしようと決めている。一日働いて、千円から二千円程をかせいで、あとはそれで二、三日暮らしたい。ベッドハウスに宿泊して、日に二食の定食をたべる。それでじゅうぶん生きていけるはずである。一日働けば二日は働かなくていい」

それが出来る人を尊敬しますね。
なかなか言ったって出来ない。

位置: 750
「オキナワの少年」のあと「島でのさようなら」(1972年)、「ちゅらかあぎ」(1976年)、「ママはノースカロライナにいる」(1986年)という作品があるだけだ。33歳から48歳の15年間で四作しか書いていない。
やがて、原稿の注文がこなくなり、読者は、東峰夫という名前を忘れていった。

しかしちゃんと名前は残っていますね。こういう人生、あたくしには無理だけど憧れるなぁ。東峰夫さん。第66回芥川賞受賞者。

位置: 829
私と話をする前に人と話をしたのは三カ月前だという。
ひとりで淋しくないのだろうか? 「精神世界のことを考える。ここに座って、想像力が働くにまかせちゃうんです。そうすると、まるで誰かが想像力の中に入ってきたようになっちゃうんです。たとえば、これらの本の著者(本棚の本の背表紙を指して)、上林暁とかユングとかが出てくるんです。それで何時間もたっちゃう。想像してたらサーッと日が暮れますよ。淋しいなんて思うヒマもない」
そういう精神世界の想像がいまの東を支えているのだろうか?
「それだけです。精神世界だけでぼくは成り立っている。他のことってもうぼくには何もないんです」東は頭のうしろに手を組み、背をそらせると、窓の外の遠くの方を見ている。
学歴を捨て、故郷を捨て、月給生活を捨て、有名であることを捨て、妻子を捨てて、東が得たのは、ひとり自由に想像することの喜びだった。

想像を絶するな。しかし、どこか憧れる。
こういう破滅型物書きに惹かれるのって、なんなんだろうな。
西村賢太しかり。

位置: 1,052
彼は、二つの決め事を持っている。ひとつは、理絵子が病気の時は自分も休んでいっしょにいること。もうひとつは、カップ麺と「ホカホカ弁当」だけは食べさせないこと

こういう自分に課すリールがある人を、あたくしは信用します。
己に自信がない人ですね。

位置: 1,220
「お湯を使わないんですか?」
「ええ、このボタンを押せば、外の湯沸器が点火して、すぐにお湯が出るんですけどね、消すのを忘れちゃうんですよね。それで水にしたんです。きたない感じがしますか?」
よく見ると、皿や茶碗のふちの方がうっすらと灰色っぽい。でも、それで死ぬわけじゃない。
「いいえ」と答えた。
食事を作るのも早いが、皿洗いも早い。枚数が少ないからだ。使う皿と茶碗は決まっているので、食器棚にしまうことがない。使って、洗い、ざるに干し、それをまた使う。シンプルだ。

それでいいのよ。

こう、自分がマーカー引いたところだけ読んでも、随分と味わいがある。名著ですな。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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