永井荷風著『濹東綺譚』感想 何が良いのか

これのどこが特別な小説なのかしら。

取材のために訪れた向島は玉の井の私娼窟で小説家大江匡はお雪という女に出会い,やがて足繁く通うようになる.物語はこうして濹東陋巷を舞台につゆ明けから秋の彼岸までの季節の移り変りとともに美しくも,哀しく展開してゆく.昭和12年,荷風(1879‐1959)58歳の作.木村荘八の挿絵が興趣をそえる. (解説 竹盛天雄)

日記のような、回顧録のような。
読みやすくはありましたが、しかし、どうしてこれが荷風の最高傑作のように言われるのかが分からん。

東京の当時の風情は垣間見れますが、だからといって特別名作だという気もしない。

位置: 5,267
お雪は毎夜路地へ入込む数知れぬ男に応接する身でありながら、どういう訳で初めてわたくしと逢った日の事を忘れずにいるのか、それがわたくしには有り得べからざる事のように考えられた。初ての日を思返すのは、その時の事を心に嬉しく思うが為と見なければならない。然しわたくしはこの土地の女がわたくしのような 老人 に対して、 尤も先方ではわたくしの年を四十歳位に見ているが、それにしても好いたの 惚れたのというような 若くはそれに似た柔く 温 な感情を起し得るものとは、夢にも思って居なかった。

ま、お水の世界の常套でしょうか。「こいつ俺に惚れてるな」と思わせるのが彼女らの手練手管でしょう。それをどうにも不思議そうに書く。荷風、いい気なもんだ。

位置: 6,077
「然し今の世の中のことは、これまでの道徳や何かで律するわけに行かない。何もかも精力発展の一現象だと思えば、暗殺も 姦淫 も、何があろうとさほど眉を 顰めるにも及ばないでしょう。精力の発展と云ったのは慾望を追求する熱情と云う意味なんです。スポーツの流行、ダンスの流行、旅行登山の流行、競馬其他 博奕 の流行、みんな慾望の発展する現象だ。この現象には現代固有の特徴があります。それは個人めいめいに、他人よりも自分の方が優れているという事を人にも思わせ、また自分でもそう信じたいと思っている——その心持です。優越を感じたいと思っている慾望です。明治時代に成長したわたくしにはこの心持がない。あったところで非常にすくないのです。これが大正時代に成長した現代人と、われわれとの違うところですよ。」

いつの時代も、世代論で語りたがるものだね。

こういうの、古典を読む面白さですな。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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