西村賢太著『蠕動で渉れ、汚泥の川を』感想 どうせダメなんだろ?

上野の話。ぜんどう、と読むらしい。

こんな青春も、存在する――17歳。中卒。日雇い。人格、性格に難あり。しかし北町貫多は今日も生きる――。無気力、無目的に流浪の日々を送っていた貫多は、下町の洋食屋に住み込みで働き始めた。案外の居心地の良さに、このまま料理人の道を目指す思いも芽生えるが、やがて持ち前の無軌道な性格から、自らその希望を潰す行為に奔り出す――。善だの悪だのを超越した、負の青春肖像。渾身の長篇私小説!

通底する「どうせこのまま働き続けるのは無理だろう」という予感が、悲しいくらいぴったり当たる。マンネリとも言える。

位置: 59
貫多が子供の頃に見知っていた、賑やかだがどこか寂しく、どこかモッサリとした、あの上野特有の雰囲気が、この夜は俄かに蘇えっているような観があった。

そうそう、あのモッサリ感ね。

位置: 278
室中において、唯一の賑やかしのツールであるトランジスターラジオからは、貫多の好きな稲垣潤一の新曲が流れていた。

秋恵の影響じゃなかったっけ、稲垣潤一が好きなのって。

位置: 490
その、彼女とやらには見せられぬであろう情けない後ろ姿に、貫多の失笑は 既 んでのところで高らかに洩れかけたが、慌てて飲み込んだその哄笑は、無言の嘲けりとして尚も目や口元にじわじわ這いのぼってくるのであった。

性格が悪い、シンプルに。

位置: 2,139
虫が好かろうと理屈が通らなかろうと、あくまでもすべての物事を自分中心にしか考えられぬ彼は、その、わけの分からなさに自ら苦笑し、そして一方で取り返しのつかぬ焦りを覚えながらも、それでも今更軌道修正を試みることは、どうでもできないのである。

たまに妙に客観視した西村氏の感じ、何なんだろうね。本物の狂人ではない。
そこが作家の作家たるところでありますな。

位置: 2,659
「ふざけるんじゃないわよ!」
恰も止どめを刺すような感じで浴びせかけてきたこの女房の 面 に、ふいと勝ち誇ったような色が走ったのを見てとると、貫多はもう我慢がならずに、頭につけていた丈の短かいコック帽をムズと摑み取って床に叩きつけるや、一言も発さずにそのまま正面に突き進み、カウンター裏の通路を抜けて店の外へと出た。
そして裏木戸の方に廻り込んで自転車に飛び乗ると、逸早く追ってきた木場の制止も聞かず、立ち漕ぎでもってそこから逃げ去ってしまった。

堪忍袋が切れた瞬間、こういう態度、とりがち。
あたくしも何度か実生活でやっちゃったことある。あれ、紋切り型でダメよね。

位置: 3,230
(何を恥じることがあるもんか。ぼくはあの虫ケラ人種どもには、確実に勝ってるんだ。すべての点で、勝っているに違げえねえんだ)
とも思い込もうとしてみるが、最前の一幕は終盤の簑本への罵倒までを含めて、すでに激しい自己嫌悪と後悔を伴う記憶となっていた。

人生、そんなもんよね。それを布団の中で思い出しては、耐えられぬ恥辱としてまた抱くんだ。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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