『先生と私』感想① 頭いい人って子供の時からの蓄積ね #佐藤優

こんな塾の先生に会えたことは一生の宝ものですよね。

モーパッサンの「首かざり」を教えてくれた国語の先生。『資本論』の旧訳をくれた副塾長。自分の頭で考えるよう導いてくれた数学の師。——異能の元外交官にして、作家・神学者である“知の巨人”はどのような両親のもとに生まれ、どんな少年時代を送り、それがその後の人生にどう影響したのか。思想と行動の原点を描く自伝ノンフィクション。

何を隠そう、あたくしも塾大好き人間でしたから。
あたくしにも恩師と呼べる先生がいて、まぁ、恥ずかしながら全然連絡を取らせてもらってはないんですが、今でも色々、その方から頂いた至言を大切にしていたりします。

ただ、あまりにもあたくしは幼稚で、佐藤優さんのような前のめりの生徒ではありませんでした。前のめりでも、もっと稚拙なやつ。
ほんと、頭の良い人ってのは子供の時からの蓄積ですな。悲しいかな34にならないとそれが分からんのです。

位置: 33
団地に引っ越してきて、しばらくしてから母は妊娠した。胎児は順調に育ち、近所の総合病院の産婦人科に入院して、出産することになった。出産時に赤ん坊の頭がどうしてもうまく外に出ない。看護学校を中退した母は、このままだと赤ん坊の頭に酸素が回らなくなることを恐れ、帝王切開を希望した。医師は帝王切開をし、男の子が生まれた。しかし、赤ん坊は仮死状態だった。しかも、病院に1台しかない保育器が故障していた。赤ん坊は数時間で死んだ。死産という処理がなされたので、戸籍への届けはしなかった。しかし、父と母は、この子供に 一 という名前をつけた。

この、淡々と事実を述べる文章。ソリッドやね。引き算の美学。この著者の文章は本当によみやすい。虎大したり矮小したりすることがない。ここまでソリッドだと筋が際立つ。そしてその筋がベラボウに面白いんだから嫌になっちゃう。
高度に発達した数学者や料理人の文章が面白いのと同じか。

 位置: 124
「それでお礼にたくさん砂糖をもらった。砂糖はとても貴重だったんだけど、パパがいつも稼いでくるんで、航空隊ではよくお汁粉を作ったよ。優君が将来なんになるかは、優君自身が決めればいいんだけど、理科の勉強をきちんとしなさい。理科がきちんとわからない人たちが負ける戦争をする」

本当にそんなこと、父が言ったのか?!と思わずうなるようなこの父親の台詞。とても含蓄がある。あたくしも子どもを育てている身。子どもには理科をちゃあんとやらせようと思います。

位置: 160
母には、尼崎市議や兵庫県議をつとめた 14 歳年上の兄がいて、その兄が熱心な社会党左派の活動家で、沖縄復帰運動を積極的に展開した。僕は小学校低学年の頃から、夏休み、春休みにこの伯父さんのところによく一人で遊びに行った。伯父からは国際情勢についての話をよく聞いた。ソ連も中国も平和を愛する国なのに、今は喧嘩ばかりしていてよくないと言っていた。伯父は、ソ連、中国のみならず北朝鮮も訪れたことがあった。伯父から聞く社会主義国の様子に僕は好奇心をかき立てられた。

この環境がまた、凄いじゃないの。親族にも恵まれてる。こういう育ちの環境からして、既に国際感覚があったのね。母親は沖縄出身だし。

位置: 180
1972(昭和 47)年5月 15 日、沖縄の施政権がアメリカから日本に復帰することになった。その前年、6年生の夏休み 40 日間のうち、約 30 日を僕は沖縄で過ごした。復帰前なので、沖縄に渡航するためには総理府が発行する身分証明書が必要だった。パスポートと通称されていたが、まったく別の性格の公文書だった。身分証明書は、確かに外務省が発給する 旅券 に似ていたが、沖縄は復帰する前から国際法的には潜在主権は日本にある日本領なので、このような特別の証明書を発行したことになる。
あと1年待てば、面倒な書類もなく、また、航空運賃もずっと安くなって沖縄に行くことができたはずだった。しかし、父と母は、身分証明書を準備するのみならず、米ドルが使われ、外国に渡航するときのようにイエローカード(国際予防接種証明書)を必要とするような状態の沖縄を、僕に皮膚感覚で体験させたいと考えたのだ。沖縄に行く前に父からこう言われた。
「今年は、夏の家族旅行はやめる。そのかわり、その分のお金を全部使って、優君を沖縄に行かせることにする。復帰前の沖縄の姿を自分の目で見ておいた方がいい。そうすれば、お父さんとお母さんが、沖縄で知り合った頃のことを、後で優君が大人になったときに想像することができる」
「純子(僕より2歳下の妹)が怒るんじゃないかな」
「大丈夫だ。そのかわりお父さんが夏休みをとって純子ちゃんを毎日プールに連れて行く。優君は純子ちゃんの分まで、自分の目で沖縄の様子を見てきなさい」

こんな父親になりたい。前半でびっくりしたのがこの箇所。すごい先見。小学生に1人で海外旅行させる親。可愛い子には旅をさせろ、を地で行くやつ。そして、純子ちゃんを毎日プールに連れていく父親。神がかってんな。本当に育児してる。

いい面ばかりとりあげてるのかもしれないけど、あたくしも父親として、それくらいのことをさせてやりたい。

育児本としても大変に参考になります。書ききれないので稿を改めます。