『太陽の塔』感想1 くされ大学生モノの原点

正直言って共感しかない。京都大学に行ってみたかった。

彼女はあろうことか、この私を袖にしたのである。

巨大な妄想力以外、何も持たぬフラレ大学生が京都の街を無闇に駆け巡る。失恋に枕を濡らした全ての男たちに捧ぐ、爆笑青春巨篇!

私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった! クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

これに共感する人は一定層いる、と信じたい。あたくしだけじゃないと思いたい。

p28
彼女と知り合いだと言うのだから、三回生であろう。中途半端なお年頃だ。眼は細く
冷たいが「鋭い」というわけではなく、よく見ると子供っぽく落ち着かない。私を睨 みつける格好をしているくせに私の眼を捉えきれていない点から考えても、眼力は植 村嬢の百分の一にも及ぶまい。唇は薄く、キツい言葉を吐くときに微妙に震えている ことを私は見逃さなかった。眉毛は一般よりもやや薄いが、これに取り立てて文句を つけるのは可哀相だから敢えて何も言うまい。鼻はスラリと立派なものを持っている が、道具敗けの哀れさが漂っている。いちおう申し添えておくが、私はたんに彼の顔のパーツにケチをつけて鬱憤晴らしをしているのではないし、また顔のパーツによっ 陽て人間の中身が決まると言っているわけでもない。彼とほぼ同じパーツを揃えている人にも立派な人間はいるであろう。むしろ、これらのパーツを揃えているにも拘わら ず、彼の内面から噴出する圧倒的な小人物性が各パーツの担う意味を歪めてしまって いると言っているに過ぎない。

人物を評する視点がどこか偉そうで、「あぁ悪いタイプの院生だな」と思えます。リアル。小賢しさが可愛い。面白い。

p40
夢をなくしちまった男、飾磨大輝について記す。
彼とは某体育会系クラブに入った時からの付き合いである。
この手記の冒頭において、我々は男だけの妄想と思索によってさらなる高みを目指 して日々精進を重ねたと記したが、その絶望のダンスの最先端をひた走っていたのが、 この飾磨大輝であった。その走りっぷりたるやあまりに見事だったので、ほかの部員 たちに追いつけと言う方が酷であり、むしろ追いつけない方が人間として幸福なので はないかと思われる節さえあり、辛うじて彼と共に走り得たのは僅か三人の精鋭であ
った。鋼鉄製の蟲にまみれた心優しき巨人、高藪智尚。法界悋気の権化、井戸浩平。そして、かく言う私である。
 我々は先輩後輩からの好奇と侮蔑の視線を一身に浴びながら、敢えて「四天王」と 名乗り、得意の妄想を振りまわして更なる顰蹙を買った。高藪と井戸という二人の男 については、いずれ、語りたくなくても語らねばなるまい。期待せずに待って頂きたい。

しかま、反対からよむと「まかし」。明石さんの原型かしらん。
しかしこの完璧な自己紹介。読みながらうっとりしますね。

p60
世界平和のためには我々一人一人が責任を持って荒ぶる魂を鎮めねばならぬ、社会に生きる者の義務とは言えつらいことだと嘆きながら、禍々しい生殖本能の矛先をそらすために培われてきた膨大な作品群を前にして私は右往左往し、各コーナーに高らかに響き渡るY染色体の哄笑を聞き、そして割合まめに新作をチェックする。

以降の森見作品とは一線を画すのは、己の生殖本能とさらけだしている点ですかね。さすがデビュー作。もはや見られないでしょう。貴重なY染色体の自虐ですよ。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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