『ガリバー旅行記』感想3 針小棒大な表現が好きなら

神秘の国、ニッポン。

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十五日間の航海で、日本の南東部に位置する、ザモスキという小さな港町に上陸。町は狭い海峡の西側にあり、そこを北へ通りぬけると、細長い入江の北西に首都の 江戸 が広がる。

ザモスキの存在を、当時の人はどう受け止めたのかしら。

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主君としては(後になって聞いたことだが)わたしをヤフーだと確信していたのだが、 吞 みこみの速さ、礼儀正しさ、清潔さなど、本来のヤフーとは正反対の性質に驚かずにはいられなかったのだという。何よりも不思議だったのはわたしの衣服で、あれははたして身体の一部なのかどうか、何度となく頭をひねっていたらしい。なにしろ、わたしは家族が寝静まるまで、けっして服を脱がなかったし、朝はみなが目をさます前に服を着てしまっていたからだ。

でましたヤフー。いまじゃ検索サイトの代名詞ですが、元々は野蛮人のことなんですね。世界的にフウイヌムよりも有名になってしまって。

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のだ。 〝フウイヌム〟とは、この国の言葉で馬を意味する。語源をたどると、自然が生んだ 完璧 なもの、という意味らしい。

検索サイトでヤフーという単語が独り歩きした今、野蛮人とイメージを組める人はどれくらいいるでしょうか。フウイヌムのほうがむしろヤフーっぽい。

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言いたいことを理解してもらうため、わたしはさまざまな回りくどい言いかたを重ねなくてはならなかった。この国の言葉には、それほど多くの単語が存在しないのだ。それは、欲望や感情の種類がわれわれ人間ほど多くないからだろう。

感情を共有するために言語があるのではなく、言語があるからそういう感情が生まれるという逆説。面白いね。

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話を聞きおえた主君は、これまで見たことも聞いたこともない情景が頭に広がったことに衝撃を受け、またしても驚きと憤りに天を仰いだ。権力、政治、戦争、法律、刑罰、そのほか多くのものを表す言葉が、この国には存在しない。だからこそ、この話を理解してもらうのに、こんなにも手間がかかったのだ。

言語学界隈ではこういうのなんて言うのでしょうね。
言語による解像度の違い。誠に興味深い。

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主君の求めにしたがい、わたしはオレンジ公ことウィリアム三世の起こした名誉革命について、また、この国王によって始まり、その後継者である現在の女王が再燃させ、主だったキリスト教国も軒並み参戦していまだ終わらない、フランスとの長い戦争について語った。また、主君に問われ、この戦争で死ぬであろうヤフーの累計を百万人と推定したほか、おそらく百以上の都市が攻め落とされること、その三倍の船が炎上したり沈んだりするであろうことを話した。

もはや自虐的自嘲的にならざるをえませんな。
日本のことを外国のペンフレンドに話すとき、たまに自嘲的になるんでよく分かります。

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よその国民が貧しく無知な場合は、その野蛮な生活から救い出して文明化してやるためなら、侵略して半分を殺し、残りの半分を奴隷としても許される。

悲しいかな21世紀でも同じようなことは起こってますよ。

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イギリス(というのが、わたしの愛する故国の名だ)では、住民すべてに必要な量の三倍の食料を収穫できる。麦、あるいは特定の木に生る果実を搾って作る美味な酒も、ほかのこまごまとした日用品も同じことだ。しかし、贅沢に 溺れ 放蕩 のかぎりを尽くすヤフーの雄、虚栄心の強いヤフーの雌を満足させるためには、こうした必需品の大部分をほかの国に輸出し、代わりに病と愚かさと悪徳の原料となるものを仕入れてきて、それを国内で消費しなくてはならない。

自国の人間の野蛮さ。自虐って結構麻薬的な面白さがあって、どこまででも行けちゃうんだ。これは経験から語りますが、自虐って楽しいんですよね。

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非難するものも、陰口をきくものも、すりも、追いはぎも、強盗も、弁護士も、女郎屋も、下卑た冗談を言うものも、ばくち打ちも、政治家も、才子も、かんしゃく持ちも、退屈なおしゃべり好きも、論争好きも、 強姦 魔も、殺人犯も、泥棒も、学者もいない。政党や派閥の旗振り役や信奉者もいない。口先だけで、あるいは実際にやってみせて、他人を悪事に誘うものもいない。 土牢 も、斬首斧も、絞首台も、 鞭打ち柱も、さらし台もない。客をだます商人や職人もいない。高慢も虚栄も気どりもない。 洒落 男も、ポン引きも、大酒飲みも、 街娼 も、梅毒持ちもいない。わめきちらしたり、 浮気 をしたり、浪費にふけったりする妻たちもいない。愚かで尊大な半可通もいない。しつこくて、横柄で、 喧嘩腰 で、うるさくて、すぐにどなり、頭は空っぽで、うぬぼればかり強く、悪態ばかりついている連中もいない。悪事の才能のおかげで底辺から上りつめた悪党も、高潔さゆえに底辺に沈んでいった貴族もいない。領主も、ヴァイオリン弾きも、裁判官も、舞踏教師もいない。

止まらない止まらない。自虐の車は回り始めたら加速するんですよ。

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だが、正直に告白すると、妻子を見た瞬間、わたしの心に湧きあがってきたのは憎しみや嫌悪、軽蔑の念だけだったのだ。夫婦、親子という 絆 の深さが、 厭わしさにいっそう拍車をかける。不幸にもフウイヌムの国から追放されて以来、どうにかヤフーの姿を見るのも我慢できるようになってきたし、ドン・ペドロ・デ・メンデスとはさまざまに会話も重ねてきた。だが、わたしがつねに思い出し、心に描いていたのは、あの比類なきフウイヌムの高潔さであり、ものの考えかただったのだ。

まぁ、そうなるわな。外国帰りの日本人が何かにつけて「かの国では」「かの国では」になるのをよく見てますが、そういうことでしょう。いやはや、最後まで風刺的でした。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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