小気味よいリズム感。そして時折入る歌舞伎界隈のトリビア。
素晴らしい。
子役が気に入らず出演をとまどっていた雅楽は、グリーン車で偶然隣合わせた奇妙な女の子を見るうちに……。新幹線をともに旅する読者を意外な結末に導く絶品。日本推理作家協会賞を受賞した表題作をはじめ、洒脱な老優・中村雅楽と竹野記者の名コンビが活躍する11篇を収録。劇通にして人間通の著者ならではの、アイデアが魅力の傑作集。
トリックのクオリティよりも、リズムとホワイダニットでどんどん読み進められます。
位置: 1,345
私は何となく、「寺子屋」の芝居の寺入りの場面で、松王丸の女房の千代が小太郎を武部源蔵の内にあずけて帰るところを、思い出していた。男のいい方が、いささかセリフじみていたせいかも知れない。
歌舞伎の知識がないと楽しめない部分も多い。そういう意味じゃ万人向けではないかも。
位置: 1,516
「その盛綱陣屋の小四郎に、君が出るんだね」と女の子に、こんどは話しかけた。
目のうろこがとれたような気がした。そうか、この子が義蔵だったのか。
「このおじいさんは、すっかり君が気に入ったよ。しかし、洋服を着た女の子に、よく化けたねえ」と雅楽は破顔した。
「申しわけありません」と女性は低く頭をさげた。
「おとなしくしているようにといわれて、これだけ、おとなしく、女の子になったのだから、教えれば、どんな役だって、できるよ。お母さん、私はこの子と一緒に、盛綱の芝居に出ます」
もうちょっと歌舞伎を勉強してから出直して参ります。
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