『ようこそ授賞式の夕べに 成風堂書店事件メモ』感想 本屋大賞、信頼してたなぁ

してた、と過去形になってしまった理由はそんなにないんですけどね。

書店員がその年一番売りたい本を選ぶ書店大賞。その授賞式の当日、成風堂書店に勤める杏子と多絵が会場に向かおうとした矢先、福岡の書店員・花乃が訪ねてくる。「書店の謎を解く名探偵」多絵に、書店大賞事務局に届いた不審なFAXの謎を解いてほしいという。同じ頃、出版社・明林書房の新人営業マンである智紀にも、同業の真柴を介して事務局長直々に同様の相談が持ち込まれる。華やかな一日に不穏な空気が立ちこめて……。授賞式まであと数時間。無事に幕は上がるのか?! 〈成風堂書店事件メモ〉×〈出版社営業・井辻智紀の業務日誌〉両シリーズのキャラクター勢ぞろい。書店員の最も忙しい一日を描く、本格書店ミステリ。

初読の際はまだ井辻シリーズ未読だったんですが、これを読んでから井辻シリーズも読みました。本というビジネスについて、肯定的に書かれた、とてもいいシリーズ。それを電子書籍で読むということに若干の抵抗は感じてますが。

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その昔、他店の書店員同士で交流がなかったということに、今さらながら納得する。売れる本を取り合う、お客さんを奪い合う、小売店の宿命ではないか。のほほんと構えていられるほど商売は易くない。売り上げが減れば人件費は切り詰められる。給料も下がるかもしれない。切実な問題だ。
けれど数年前からにわかに風向きが変わり、手をとりあって書店大賞を盛り上げている。授賞式の夜は笑顔で集まる。一旦そうなってしまうとその方が自然に思えるけれど、それでもさまざまな 葛藤 は続いているはずだ。

商売敵同士が手を組む、というのはなかなか大変なようで。本屋全体という括りは非常に正しい気がしますね。敵はテレビやネットなわけですから。まぁ、読書好きのパイを増やす必要性はみな感じているところでしょう。

位置: 1,275
「ひつじくんはなんにもわかってない。我々は一介の営業マンとして、陰になり 日向 になり、仕事熱心で心優しくチャーミングでかわいらしい書店員さんを見守ってきたんだ。雨の日も風の日も足 繁く店に通い、その笑顔がいつまでも続くよう、なんの見返りもないままに心から 切に祈ってきたよ。それを、突然横から現れ、土足で踏みにじるとは。へらへら笑っていられるわけがないだろう」

まったくこの集団、意味不明。抜け駆け駄目とか、どんだけ日和見なんだ。好きだけどね、ちょっと森見っぽくて。でもウジウジしてないの。葛藤があまり見られない。そこが女性的だなぁとは思います。

位置: 1,280
「いるよ。同じことなんだ。書店大賞、三位だ、三位。その本を営業マンが書いたと知ったら、書店員さんたちはみんな興奮し、大騒ぎでもてはやす。この世でただひとりきりの、とびきりスペシャルな営業マンだ。話をしたくてまわりを囲み、うちの店に来てくださいときっと言う。そいつがのこのこ訪問すれば、極上の笑みで歓待し、飲み会の誘いをするかもしれない。いや絶対する。そしてキュートでかわいらしい書店員さんは、自分のメアドを紙に書いてこっそり渡すんだ。それもこれも書店大賞、三位だから!」

鬱屈としていて良い。

位置: 2,994
「おれは会場で、感謝してる分だけ、ありがとうと言えばいいのか。手作りのPOPもペーパーも嬉しかった。だから、ありがとう。そして、次の本も頑張るのでよろしくと、自分の言葉で伝えればいい。それだけか」

意外な人物が探し人だったんですよ。これは虚を付かれた。

位置: 3,215
「三冊だ。あとから弁償した」
「だったらもっと堂々としてりゃいいだろ。そうでないから今でも青ざめてるんだろ? わかりやすいやつだな。さすがのおまえだって、そりゃあ、寝覚めが悪いだろうよ。経営難で店は傾き、最後は恨み言を残して店長は死んだ。責任を感じてるからこそ、秘密にしてるんだろ。自分が飛梅書店で働いていたことを」

これね、壮大な勘違いなんですが、面白かったなぁ。謎が良く出来ているのがこのシリーズの読み続けちゃうところよね。

位置: 3,487
「竹ノ内さん、わかります?」
いきなりの指名にぎょっとするも、差し出された紙切れを受け取り、神妙な顔で考え込む。
「これを、飛石さんが最期に? 初めて聞いたよ」
「竹ノ内さんならピンと来るはずです」
「ぼくが? なんか息苦しくなる言葉だねえ」
「そんなことはないですよ。似たような言葉を、竹ノ内さんも八年前に書いたんじゃないですか?」
言われて視線を宙に向けて、何度か瞬きして「ああ!」と、形相を一変させた。 「これ、もしかしてPOP? 第一回の受賞作は『クラリスのいた日々』。最後の最後、大どんでん返しに見舞われる最高のエンターテインメント小説だ。授賞式の朝、飛石さんは授賞式に持って行くためのPOPを書きかけていて……」

ここ、笑っちゃったよ。すごくいい。

いい意味で裏切られる。こういうのが本当に面白い。本っていいよね。
本屋大賞も、また追いかけようかな。

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