『サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ』感想 謎もよく出来てる

このシリーズのすごいところは、ミステリがまずしっかりしている。
その上に本屋の豆知識もふんだんに入ってるってことですな。

しっかり者の杏子と、勘の鋭いアルバイト・多絵が働くのは、駅ビルの六階にあるごくごく普通の書店・成風堂。同一書籍に四件の取り寄せ依頼。ところが連絡を入れると、四人が四人ともそんな注文はした覚えがないと……。「ファンの正体を見破れる店員のいる店で、サイン会を開きたい」――若手ミステリ作家のちょっと変わった要望に、名乗りを上げた成風堂だが……。杏子と多絵のコンビが、成風堂を舞台にさまざまな謎に取り組んでいく。本格書店ミステリ、〈成風堂シリーズ〉第三弾。

この「勘の鋭い」ってのは、良いんですかね。
勘ではなくロジカルな気がするんだけど、多絵ちゃん。

位置: 967
「抽斗でも、ストッカーでも、どっちでもいいと思うけど。同じでしょ」
「あの子にとってはちがうんじゃないですか。広辞苑のように」

ひきだし、と読むんですな。抽斗。
しかしよくこんなミステリ思いつくよ。ほんと。

位置: 1,645
そうまでして本を取り置いていく気持ちが、杏子にはわからなかった。この行為になんの意味があるのだろう。日々たくさんのお客さんと接していると、自分の物差しでは測れない言動に振りまわされることがままある。苛立ちや腹立たしさよりも、漠然とした不安にかられ、途方に暮れる。引きずられそうになる自分に危うさを感じるのだろうか。そしてその〝引きずられる先〟にあるのはなんなのだろう。

答えなんてない。しかし、だからこそ、漠然とした不安に途方に暮れる。そして僕は途方に暮れるってね。

位置: 2,230
わかりますか? やつはこのぼくに、挑戦してきてるんです。この前のサイン会では特定できず、失敗に終わりました。おかげでどれだけ嘲笑されたか。悪し様に罵られたか。口惜しかったですよ。今でも冷静じゃいられません。もうあんな思いはたくさんだ。けれどサイン会というのは、やつを捕らえる絶好のチャンスでもあるんです。ぼくはどうしてもこのゲームに勝ちたい。勝って今度こそ、何が何でも決着をつけたい。お願いします。サイン会を開き、ぼくに〝レッドリーフ〟と書かせてください」

この話、好きなんだよね。なんだか切なくってさ。
虐めには至らない、イジられた側の話なんだけどね。

位置: 3,021
「〝レッドリーフ〟って、どういう意味だと思います?」
「ああ……あれか」
「ふつうに考えれば赤い葉。〝もみじ〟ですよね。私もそんなふうにイメージしました。でも影平さんの本を読んでいて、ふと気づいたんです。

こういう「普通」からの逸脱、かっこいいよね。探偵の醍醐味だ。

位置: 3,039
「波瀬さんは気づいてほしかったんだと思いますよ。早く気づいて、止めてほしかった。だからヒントも出したし、わざとゲームも持ちかけた。見やぶられたら、自分のしたことがばれてしまうのに。隠したまま、いやがらせだけで終わろうとはしなかったんですね。そういう気持ちをどう取るかは、影平さん次第じゃないですか」

そして探偵の醍醐味その2。
最終的には「あなた次第だ」ってね。すべてを知ったような顔をして。

位置: 3,164
店員とお客さんとの交流は、蔵本に限ったことではない。長いシリーズの定期購読が終了したさい、菓子折を持ってきたお年寄りもいた。転居するからと挨拶に訪れたビジネスマンもいた。昔世話になったと、店員の消息を聞く人もいた。亡くなった母親の注文品を引き取りに来た人もいた。一冊の文庫が縁で親交が深まった人も、学校帰りにたびたび立ち寄ってくれる小学校の先生も、用もないのに顔を出す刑事さんも、なぜか煌びやかな理容師軍団もいて、いっしょに飲みに行こうと盛りあがる。

全部、本が繋いだんだって思うと感慨深い。
しかしこれらも、行ってしまえば全部このビルが繋いだとも言えるし、鉄道が結んだとも言える。なんだってそうなんだよね。

しかし本が繋いだって思いたいってことだ。それだけ本が好きなんだよね。伝わるなー。
あたくしのように電子書籍ばかり読んでいることについて、大崎さんはどう思うかね。

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