『平台がおまちかね 井辻智紀の業務日誌』感想1 ミステリより業務が面白い

成風堂のほうがミステリ的には面白かった気がしますが、とはいえ、出版社の営業という仕事を垣間見ることが出来て満足。

本が好き。でも、とある理由で編集部には行きたくなかった出版社の新人営業マン、井辻くんは個性的な面々に囲まれつつ今日も書店で奮闘中! 平台に何十冊と積み上げられた自社本と、それを彩る心のこもった手書きの看板とポップ。たくさん本を売ってくれたお礼を言いに書店を訪ねると、店長には何故か冷たくあしらわれ……。自社主催の文学賞の贈呈式では当日、受賞者が会場に現れない!? 本と書店を愛する全ての人に捧げるハートフル・ミステリを五編収録。新人営業マンの成長と活躍を描く〈井辻智紀の業務日誌〉シリーズ第一弾!

本は好きだけど出版社の営業という視点はなかったなぁ。今就活するならそっちもありかと。

位置: 454
「君はまだまだこれからだ。いろんなことがあると思うけど、ぼくのようになってはいけないよ。いや、失敗なら誰にでもあるだろう。思いがけないアクシデントは起きるものだ。突然のトラブルに見舞われることも。うっかりのミスだって、人間ならどうしてもありえるよね。だからしょうがないのかもしれないけれど、せめて、申し訳なかったと思ってる気持ちだけは受け取ってもらわなきゃ。伝える努力を怠ってはいけないよ。途中で投げ出せば、溝は決定的なものになる。

これはいい台詞だ。いきなり書店に限らないことだけど。
あたくしは生来の怠け者で不真面目だからなぁ。ここを気をつけて生きていきたい。

位置: 506
「でも本は入らなかった」
なぜという智紀の目に、秋沢は首を横に振った。
「製本所からの納品直前に不良品がみつかったの。印刷し直すことになり、二週間足止めになった。幸か不幸か、すべてがだめになったわけでなく半分ほどは助かり、その、一歩先んじて出来上がった半分は予定通り大型書店に納品された。こればっかりは皮肉な巡り合わせだったのよ。逆だってありえたのに、たまたまそっちの半分は生きて店頭に並べられた。綿貫さんの怒りは大きかったわ。どこにも入らなかったら、あそこまで憤慨されなかったでしょう。こちらとしてもお詫びはしたのよ。説明もしたわ。でも、やっぱり大手を優先するのかと言われれば、何をいってもしょせん言い訳よね。現に大型店の平台に積まれ、毎日売れてるんだから」

難しいよねー、小売りは。本当に。
こういう気配りは本当に難しい。あたくしゃ出来ないな。やっぱり営業は向かない。

位置: 514
大きいところは大きいところなりに大変だろう。でも、小さなところを大切にしてこそ、文芸の出版社だと思う。弱小に光を当てるのが文学だから。

そういう気持ち、理解は出来ます。
が、○○が文学だという狭量さは、往々にして首を絞める帰結になります。べき論は好ましいが浅ましくもある。

位置: 784
出版社の社員として真っ先に浮かぶのは、ふつう編集者かもしれない。そして会社組織なんだから、総務があって、経理があって。あとは……と、ここで詰まる人もいるだろうか。
作り上げた本を売るための活動、広告の手配やフェアの企画、在庫管理、注文応対などの仕事を受け持つ部署もあって、智紀は入社以来ここに所属している。

全く思いもよらなかった。出版の営業。 37になってようやく気づきました。

位置: 1,375
ベンチ、樹木、トイレ、通路、ジャングルジム、すべり台。聞きかじった単語は、まさに公園にふさわしいアイテムだけれど、なぜ砂場に首を振るのだろう。砂場はジャングルジムやすべり台に並んで、一般的な遊具だ。砂場がさいしょから度外視される施設とは何があるだろう。
もうひとつ。カフェの話が出たとき、「やっぱりハヤシライス」と笑い合ったようだ。
なぜ〝やっぱり〟なのか。カフェとハヤシライス。この組み合わせはパソコンで検索すれば決まって、東京駅にある大型書店 丸 善 がヒットする。なんでも初代社長が考案し名付けたのがかの〝ハヤシライス〟で、元祖のひと皿を、書店フロアの一角に設けられたカフェで今でも食べることができる。
二人連れの会話がもしも書店について語っているものならば、カフェとなればやっぱりハヤシライス、というやりとりが冗談として通じる。

知りませんでした。行ってみたい。でもあんまりハヤシライスで美味いと思ったこと、ないなぁ。カレーやシチューはあるけどね。

位置: 2,049
大きな拍手がわき上がった。つまらない、小さく固まるなと、苦言を呈した恩師への、これはメッセージでもあるだろう。それでいて津波沢の名前は出さなかったことに、智紀はプロ根性を感じた。すぐそばに自分を選出してくれた審査委員――大御所の先生方が控えているのだ。頭を下げるべき相手はたくさんいる。

いいプロ根性だよ。ほんと、そうだ。
角が立たないように美味く立ち回るのもプロの仕業である。

位置: 2,271
耽溺 した本の名場面をジオラマとして再現することに無上の喜びを見出している智紀にとっては、鉄道模型も十分興味を引く題材だ。肝心の車両本体はほどほどに鑑賞するとして、駅舎やホーム、野山、田舎町の造形はけっして外せない。出張先にこんなイベントが待ちかまえているなんて、日頃の行いのよさと言わずしてなんと言おう。

このジオラマ趣味、あんまり本編と関係ないのが残念ですね。
もっと井辻くんについて知りたい。

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