『medium霊媒探偵城塚翡翠』感想 これは自分にとってはイヤミス

またの名を童貞殺人事件。

死者が視える霊媒・城塚翡翠と、推理作家・香月史郎。心霊と論理を組み合わせ真実を導き出す二人は、世間を騒がす連続死体遺棄事件に立ち向かう。証拠を残さない連続殺人鬼に辿り着けるのはもはや翡翠の持つ超常の力だけ。だがその魔手は彼女へと迫り――。ミステリランキング5冠、最驚かつ最叫の傑作!

マツオさんとの課題図書。
たしかにこれは驚愕だけど、ちょっと悲しさもあった。童貞はね、望んで童貞な人ばかりじゃないのよ。

プロローグ

位置: 42
翡翠は死者の魂を呼び寄せることができるが、殺害や事故などで非業の死を遂げた者の魂は、その人間が死んだ場所が判明しない限りは呼び出すことができない。

変な設定。
不完全な上に、その不完全さがいびつ。

第二話 水鏡荘の殺人

位置: 2,016
「先生も……、信じてくれないの」
身体に加わる重みが離れて、翡翠が後ろへと下がった。
「先生、教えてください」
霊媒の娘は、顔を上げた。
翠の瞳は、涙に 濡れている。
「それなら、どうしてわたしには、こんな力があるのでしょう。真実を知ることができるのに、どうしてわたしはこんなに役立たずなのでしょう……」
それは、自分の運命を 嘲笑 するような、哀しい笑顔だった。
「なんのために、こんな力を持っているの? 恐れられるためですか? それとも、頭のおかしい妄想を並べる子だと、 憐れまれるためですか?」
香月は、娘の頰を濡らす光を見つめていた。

あざとい、とは思うんですよ。思うんだけど、やっぱり可愛いじゃないですか。
救いは作者が男ってことですね。

第三話 女子高生連続絞殺事件

位置: 2,872
「こ、これ……。ど、どうなんでしょうか、わたし、変じゃありませんか」  香月の前に連れてこられたセーラー服姿の翡翠は、顔を真っ赤にしてそう俯いていた。その恥じらいをごまかすように、襟から垂れる深い翠のタイをいじらしく片手で弄ぶ様子が、とてもキュートだ。

あざといなー。
イメージ的にはフルメタル・パニックのテスタロッサ。

位置: 2,958
「いや、菜月ちゃんの腕が確かなのはそうですが、翡翠さんの魅力があってこそですよ。そのままの翡翠さんを、上手に引き出しているんです」
「そう、でしょうか」
翡翠は俯いて、上目遣いに香月を見る。

たまらんな。

最終話 VSエリミネーター

位置: 3,883
もう、我慢ができそうにない。
「あ、先生……」
華奢な骨格を確かめるように、香月は翡翠の身体を搔き抱く。柔らかな巻き髪に顔を埋めるようにして、彼女のうなじの甘い匂いを嗅いだ。
「翡翠」

このあたりで驚愕の事実が明かされます。
そうきたかー、ってね。いわゆるアクロイド。

位置: 4,307
「奇術において最も大切なことは、トリックそのものではなく、トリックの扱い方です。たとえばですが、先生と初めてお会いしたとき、わたしは仮面を被った城塚翡翠として振る舞いました。人間は自ら謎を解いたり、秘密を見つけたりすると、愚かにもそこにそれ以上の謎や秘密があるとは考えないものなのです。先生は駅前で、男たちに声を掛けられ、困惑した様子のわたしを たまたま ご覧になった。そうして、城塚翡翠が仮面を被っていたという秘密を、 偶然 知ってしまう。ミステリアスな翡翠は作りもので、実際は超常の力を持てあまして戸惑う、ドジだけれど可愛らしい孤独な女性だった……。そうすることで先生は、わたしにそれ以上の秘密が存在しないと、根拠もなくそう思い込んでしまったのです」

人を己の理解できる範囲に落とし込んでしまう、って誰にでもあることではあると思うんですけどね。しかしこんなに悲しい罵倒もない。

位置: 4,546
「全部、芝居だったのか……」
「そうですよう。あんな、友達いないアピールをするうざいメンヘラ女子なんて、この世に存在するわけないじゃないですか。いや、いるかもしれないですけれど、わたしみたいに可愛くて綺麗な子がぼっちのはずないでしょう?」

うぐぅ……。

位置: 4,952
「幼かった先生は、きっと助けたかったのでしょう。無我夢中で、お姉さんに刺さっていたナイフを引き抜いた。けれど、 それが致命的な行為になってしまった。

これ慮るといたたまれない気持ちになる。童貞、辛かったんだよな。

位置: 5,024
「いつ、から……」
絶望と共に、香月が呻く。
「いつだっていいじゃないですか。機会は無駄にたくさんありました。現象をすぐに起こすなんて三流のやることですよ。真の奇術師は、時間すら支配するものです」

完敗。

エピローグ

位置: 5,103
「大丈夫?」
真が訊くと、翡翠は彼女を見て、きょとんとした。
「なにがです?」
「眼も鼻も赤いから。ぎゅってしてあげようか?」
翡翠は大きな眼をしょぼしょぼと瞬かせて答える。
「これは、花粉症です」
「あなたが花粉症だなんて知らなかったな」
「今年から、デビューしたんです」

今更こんなん出されても、もう、素直に翡翠タンのことを愛でられぬ。

位置: 5,154
遊園地に行ったことがない、という翡翠に香月は驚いていたようだが、それもそうかもしれないな、と真は考えていた。海外ではどうだったか知らないが、日本で一緒に遊びに行けるような友人は自分くらいしかいない。最近は友人が増えたようで、スマホを眺めながらニヤニヤしていることもあるが、共に遊園地に行くほどの仲ではなかったろう。
そのときの、少女のようにはしゃいでいた翡翠の笑顔を思い返す。
何ヵ月も前に行った遊園地の半券が、今になってゴミ箱の中にある意味を考えた。

優秀なエピローグ。
こんだけギトギトの種明かしをされて、それでも翡翠タンかわゆす、と思えるかどうか。

著者、ここまでやりますか。
尊敬。

解説 漆原正貴

位置: 5,201
本書の趣向自体にはいくつかの前例がある。とりわけ意識されているのが二作品だ。それは本書にちりばめられたオマージュネタにも現れている。
一つは国内作家のとある時代ミステリだ。主人公である翡翠と香月の名前は、ここから採られている。
もう一つの作品は、「水鏡荘の殺人」の中で唐突に翡翠が持ち出すカタカナ語……この言葉を原題に持つ、奇しくも先に上げた作品と同時代を描いた英国のミステリである。この作品を読んでいれば、エピローグで翡翠がある人物に向かっていうセリフが同作を意識していることは明白だ。

うーん、元ネタも気になるけど、シャーロック?ブギーポップ? パッと思い浮かんだのはそのへんだけど、浅学ゆえこれと断定できぬ。

面白かった。でも、これはイヤミスかもしれない。
童貞おちょくって楽しいか!?

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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